第52章 ― 遠き呼び声
翌朝は霧とともに訪れた。数週間前に影たちが森をうろついていたときの魔法の霧ではなく、湿って冷たい、ただの霧だった。林檎の木の葉に露の滴を残し、小さなリース・アエテルナの光の帯を星の首飾りのように輝かせた。
俺はひとりで目を覚ました。誰も鼻をつまんでいなかった。進歩? それとも何かがおかしい兆候か。
厨房へ行くと、アルテアとヴァエリスが並んで、渓谷から持ち帰った陶器の鉢のひとつを覗き込んでいた。数日前までは動きのなかった黒い土が、今は小さな緑の茎を見せていた。ほとんど半透明な二枚のちいさな葉が、自らの光で震えている。
「芽が出た」俺は目をこすりながら言った。
「芽が出た」アルテアが確かめるように言った。声には、まるで生まれたばかりの子を前にしたような敬虔さがあった。
「まだ何かはわからない」ヴァエリスが青い目を苗に固定したまま言った。「でも、あの子から何かを感じるの。呼び声。とてもかすかで、まるで……歌っているみたい」
「歌ってる?」
「言葉じゃなくて、マナで。あっち側の植物はそうやって交信してた。これはあっちのものじゃないけど、似たところがあるの」
アルテアが指先で葉に触れると、苗が応えるように輝いた。
「観察を続けるわ」と彼女は言った。「新種なら、あらゆる段階を記録しないと」
「相変わらずの記録魔だな」
「誰かが退屈な仕事をしなくちゃ。あなたたちが戦ったり交渉したりしてるあいだにね」
彼女はあの短くて音楽みたいな笑みを浮かべた。でも緑の目は真剣だった。何かもっと大きなことが起きていると感じていたのだろう。
俺が出ていく前に、ヴァエリスが腕に触れた。
「シン、昨夜、庭でまた感じたの。前に話した呼び声。あれは植物だけじゃない。もっと遠くのもの。こだまみたいに」
「別の神の欠片か?」
「かもしれない。それとも、ライラが記録で見つけた『眠れるもの』に関係してるのかも。五階のあれ。つながってると思う」
「どうやって?」
「まだわからない。でも苗が芽吹いたとき、呼び声が強くなった。一方が他方に応えているみたいに」
調べると約束した。近ごろの俺は、管理者というより探偵だった。
ライラはいつものように書庫にいた。ここ数日、彼女はほとんどそこに引っ越したも同然で、羊皮紙や古書、自分自身のルーン文字の筆跡に囲まれていた。けれど今日は、どこか違っていた。床に積まれた巻物の山、卓上に広げられた地図、そして青い目に宿る昂揚の輝き。
「見つけたわ」彼女は前置きもなく言った。
「おはよう、でいいんじゃないか」
「おはよう。座って」
座った。
「古の管理者が日記に記していた『眠れるもの』」彼女は開かれた書物の一節を指しながら切り出した。「あれはクリーチャーじゃない。渓谷のにいたような歪んだ欠片でもない。意識ある存在よ」
「意識がある?」
「そう。自ら望んで封じられた誰か。これを見て」
彼女は黄ばんだ羊皮紙を卓上に滑らせた。インクは褪せていたが、ルーン文字がまだかすかに輝いていた。
「大部分を訳せたわ。封印の記録よ。こう書いてある。『我、第五層の守り手は、塔が整うまで眠ることを選ぶ。正統なる管理者が最後の鍵を目覚めさせしとき、我が瞳は再び開かれん』」
「最後の鍵?」
「ミリが持っていた鍵は第四階層のものだった。でももう一つあるの。第五のための、最後の鍵。そして守り手――この『眠れるもの』――はそれを待っている」
「守り手って誰なんだ?」
「名前は書いてない。でも古の代名詞『ヨ』を使ってる。これは大きな力を持つ存在にだけ使われたものよ。人間じゃない。エルフでもない。完全に物質的ですらないかもしれない」
俺はヴァエリスのことを思った。障壁を越えたマナの精霊。守り手も似たような存在かもしれない。あるいはまったく別の何かか。
「フェリックスがこのことを知ってると思うか?」俺は訊いた。
「フェリックスは口にしないことをたくさん知っていると思う」ライラは羊皮紙を巻き取った。「彼がくれた地図、あの北西にある『眠れる塔』の位置を示したもの……あれは贈り物じゃなかった。試練よ」
「俺たちが餌に食いつくかどうか見るためか」
「そのとおり」
「で、食いつくのか?」
「まだよ。まずはもっと情報が要る。それにもっと人手も」
「誰を推してる?」
「遠征に? あなた、私、レナかリサンドラ。でも今じゃない。今は、まず五階に何が封じられているのかを理解しないと。だって、もし私たちの準備が整う前に守り手が目覚めたら……」
「どうなる?」
「わからない。それが不安なの」
午後は中庭で過ごした。膝に管理ツールを乗せ、巡回する守護者たちを眺めていた。六体、いつもどおり。鎧は塔の青い光を帯びて輝き、動きは流れるようで無音だった。彼らは疲れず、不平も言わず、休みも求めなかった。完璧な守りだった。
だが質問には答えられない。俺が座っている場所の五階上に何が封じられているのか、教えてはくれなかった。
リサンドラが隣に現れた。エルフの剣を腰に帯び、外套は夜露に濡れていた。
「考えすぎだ」彼女は言った。
「みんながそう言う」
「本当のことだからな」彼女は音ひとつ立てず、流れるように俺の隣に腰を下ろした。「今度はなんだ?」
「五階層だ。『眠れるもの』。ヴァエリスが感じた呼び声。フェリックスの地図。全部だ」
「全部は多すぎる」
「わかってる」
「ひとつ選べ」
「なに?」
「問題をひとつ選べ。それを解決しろ。それから次に移れ。戦士はそうする。指導者もそうするべきだ」
俺は彼女を見た。
「俺に指導者の助言をしてるのか?」
「生き残るための助言だ」彼女は一拍置いた。「それと、友情の」
「友情?」
「そうだ。友は友が悩みに沈むのを放っておかない」
それはリサンドラが俺にかけた言葉の中で、いちばん温かいものだった。俺は短く彼女の肩に触れた。
「ありがとう」
「礼には及ばない」彼女は立ち上がった。「明日は鍛錬だ。遅れるな」
「遅れない」
彼女は去り、俺は守護者たちを見つめ続けた。問題はひとつずつ。単純なことに思えた。
夜、俺は厨房に女たちを集めた。正式な集まりじゃない――いつものように、ただ全員がそこにいた。レナは隅で刃を研ぎ、アルテアは茶を淹れ、ヴァエリスは温室から持ってきた苗を見つめ、ミリは市場の帳簿を見直し、ライラは羊皮紙を卓の半分に広げていた。
「みんなに伝えたいことがある」俺は言った。
全員が手を止めた。
「ライラが調べて、五階に何かが封じられていることがわかった。誰かだ。何世紀も眠っていて、最後の鍵を待つ守り手だ」
「鍵」レナが繰り返した。「ミリのと同じような?」
「似てる。でも別物だ。ミリの鍵は四階を開けた。これは五階のためのものだ」
「それはどこに?」ミリが訊いた。
「わからない。フェリックスなら知っているかもしれない。彼がくれた地図は、北西にもうひとつ塔を示している。偶然かもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「もうひとつの塔」ヴァエリスがつぶやいた。「遠くの呼び声を感じた。それはここにいる『眠れるもの』じゃなかった。外の何か。生きている何か」
「活動中の塔か?」アルテアが眉を上げた。
「あるいは、かつての私たちみたいに眠っている塔よ」ライラが言った。
沈黙が数秒続いた。
「こうしようと思う」俺は続けた。「ひとつ、ライラは『眠れるもの』と鍵の調査を続ける。ふたつ、ヴァエリスは感じた呼び声を監視する。みっつ、今は誰も遠征に出ない」
「フェリックスは?」ミリが訊いた。
「俺たちが地図に興味を持っていると思わせておく。でもまだ餌には食いつかない。動く前にもっと情報が欲しい」
「賢明ね」アルテアが言った。
「慎重だ」レナが付け加えた。
「まさに私が期待したとおりだ」ミリが締めた。
「おまえたち、俺を褒めてるのか?」俺は首をかしげた。
「事実を述べてるだけだ」三人が同時に言った。
ヴァエリスが鈴のような軽やかな笑い声をあげた。ライラは羊皮紙の陰で微笑んだ。隅のレナでさえ、危うく笑みになりかけた顔をほんの少しだけ見せた。
その夜、俺はここ数日でいちばんよく眠った。問題が消えたからじゃない――問題はすべてそこに整列して順番を待っていた。けれど、初めて、全部をひとりで解決しなくていいのだと感じたからだ。
塔には、エルフの歩哨がいて、ハーフエルフの治癒術師がいて、星の刃を持つ狼人族がいて、儲け話に鼻の利く商人がいて、百四十二歳のルーン使いがいて、そして友情というものを学びつつあるマナの精霊がいた。
そして、ゆっくりと、信頼することを学びつつある臨時の管理者がいた。
明日はまた別の日だ。リサンドラとの鍛錬があり、ライラとの調査があり、ヴァエリスとの監視があり、ミリとの交渉があり、そしておそらく朝食前に誰かが俺の鼻をつまむだろう。
でも、それが人生だった。俺たちの人生。そして俺は、それを何物にも代えがたかった。




