表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放先は辺境の廃塔でした   作者: 星海凡夫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/162

第44章 〜新しい日々〜




朝、目を覚ますと、誰かが俺の鼻をつまんでいた。


「起きろ」


「……起きてる」


「目が閉じてる」


「起きてるけど目を閉じてる」


「それは寝てるって言うんだ」


俺は片目を開けた。レナが隣に座っていた。俺のベッドの隣に。朝日が窓から差し込んで、彼女の銀色の髪が透き通って見えた。耳は立っていて、尻尾はゆっくりと左右に揺れていた。満足。多分。


「ここで何してるんだ?」


「見張り」


「何を見張ってるんだ?」


「お前がちゃんと起きるかどうか」


「俺はいつも起きてる」


「昨日は二度寝した」


「昨日は世界を救った翌日だった。二度寝は当然だ」


昨日。そう、昨日。いや、一昨日か。時間の感覚がまだぐちゃぐちゃだった。ヴォラスを封じ、結界が修復され、塔のエネルギーが百パーセントで安定した夜。俺たちは文字通り、世界を救ったのだ。


そして今朝、俺の鼻はつままれていた。


「起きたなら来い」レナは立ち上がった。「朝食の準備ができてる」


「誰が作った?」


「アルテアと私」


「二人で?」


「問題か?」


「いや。ただ……お前たちが一緒に料理するなんて、ちょっと前まで考えられなかった」


「ちょっと前まで、私はここにいなかった。アルテアも、リサンドラも、他の誰も」彼女は一瞬だけ間を置いた。「お前以外は」


「それで?」


「それで……状況は変わった。それだけだ」


それだけ、か。俺は笑いそうになるのをこらえた。レナが「それだけだ」と言うときは、たいてい「それ以上だ」という意味だった。彼女の耳が少し赤くなっているのが見えた。多分、朝日でそう見えるだけかもしれない。多分、違う。


居間に行くと、全員が揃っていた。大きなテーブル――ヴェラスが作ったやつだ――は、今では九人でいっぱいだった。ゴルンは相変わらず一人で二人分のスペースを占領していた。セラは機織り機から離れて、双子のリーラとセリにパンをちぎってやっていた。ヴェラスは新しいスプーンを削りながらお茶を飲んでいた。アルテアはハーブの香りがする何かをかき混ぜていた。リサンドラは窓辺に立ち、外の守護者たちを見張っていた。ヴァエリスはテーブルの隅で、実際には食べないがそこにいることを楽しんでいた。そしてミリ――ミリは客人用の席に座り、まるでずっとここにいたかのような顔をしていた。


「おはよう、シン様」彼女は例の商業スマイルを浮かべた。「鼻は大丈夫ですか?」


「聞こえてたのか」


「この塔は反響がいいんです。商人として感心します」


俺は空いている席に座った。レナは俺の隣だった。これは偶然ではない。彼女はこの数日間、必ず俺の隣に座っていた。


「今日の予定は?」俺はパンに手を伸ばしながら尋ねた。


「休息」アルテアが即答した。「全員、少なくともあと一日は休息が必要です。特にあなたは。マナは戻っていますが、二度も限界を超えて供給したんです。体が覚えています」


「俺は大丈夫だ」


「あなたはいつも大丈夫と言う。そして倒れる」


「一回だけだ」


「二回です」


「一回は気絶じゃない。長い瞬きだ」


アルテアはため息をついたが、口元がわずかに動いた。笑いをこらえている証拠だ。


「それで」ゴルンが口を開いた。彼の腕の包帯はもう外れていて、傷はほとんど治っていた。アルテアの軟膏と泉の水の組み合わせは強力だった。「鍛冶場を拡張したい。ドゥルガンが新しい取引先を持ってくる。ヴァルゲルドだけじゃなく、南の自由都市からも注文が来てる」


「自由都市?」


「クランに属さない商人たちの集まりだ。山岳氏族が沈黙してから、彼らは新しい取引先を探している」


「山岳氏族が沈黙?」俺は顔を上げた。「どういう意味だ?」


「停戦が終わったんだ」リサンドラが静かに言った。「正確には二日前に。期限が切れた。そして山岳氏族からは何の連絡もない。使者も、脅しも、要求も。何も」


「それは良いことなのか?」


「わからない。ドレン――あの使者――は停戦を守っていた。しかし彼一人がクラン全体を代表しているわけじゃない。内部で何か起きているのかもしれない。あるいは、ヴォラスが封じられたのを感じて、戦略を変えたのか」


「塔が強すぎると判断したか」


「あるいは、別の脅威に備えているか。結界は修復されたが、影のかけらはまだこの世界に残っている。それらを狩るのに忙しいのかもしれない」


俺はその情報を頭の隅に保存した。後で使う。必ず。


「市場を開きたい」ミリが言った。「常設の市場です。仮設のバラックじゃなくて、ちゃんとした屋根と壁があるもの。ヴェラスと話しました。彼なら一週間で最初の棟を建てられると」


「一週間で?」


「木材は森にある。石材は塔の崩れた外壁から採れる。ゴルンが金具を作り、セラが日除けを織る。資材は揃っています。必要なのは許可だけ」


全員が俺を見た。


「俺を見るな。俺はただの暫定管理者だ」


「暫定管理者が市場の許可を出すんだ」ミリは笑った。「それが権力ってものです」


「権力は嫌いだ」


「だからこそ、あなたに権力があるんです」


俺はため息をついた。彼女は正しかった。そして俺はそれが少し気に入らなかった。ほんの少しだけ。


「よし。市場を建てよう。ただし条件がある」


「なんですか?」


「第一に、塔の住人が売るものには、塔の印をつける。品質保証の証として」


「賢い」ゴルンがうなずいた。


「第二に、よそ者の商人は登録制にする。誰が何を売っているか、塔が把握する」


「当然です」ミリはうなずいた。


「第三に、収益の一部は塔の防衛と修復に充てる。守護者はメンテナンスが必要だ。リサンドラがそう言っていた」


「言っていない」リサンドラが口を挟んだ。


「これから言うところだ」


彼女はまばたきをした。それから、ほんの一瞬だけ、口元が動いた。


「第四に」俺は続けた、「市場の名前は『リンゴ市場』にする」


「ダサい」レナが即答した。


「『塔前市場』はどうだ?」ヴァエリスが提案した。


「平凡だ」ミリが言った。


「『再生市場』」アルテアが静かに言った。


全員が彼女を見た。


「再生?」俺は繰り返した。


「ええ。だってここは、みんなが新しく始めた場所でしょう。塔も、市場も、私たちも。再生するための場所なんです。再生市場」


沈黙が降りた。いい沈黙だった。みんなが考えている沈黙。


「再生市場」レナが口の中で転がすように言った。「悪くない」


「悪くないって、お前の中では最高の褒め言葉だよな?」


「そうだ」


「決まりだ」俺は立ち上がった。「再生市場。第一棟は一週間以内。ドゥルガンに連絡しろ。山岳氏族が沈黙しているなら、今が取引先を広げるチャンスだ」


「了解」ミリは商人の顔に戻った。目がキラキラしていた。彼女が一番輝く瞬間だ。


朝食の後、俺はリサンドラと一緒に塔の周りを歩いた。


守護者たちはまだ巡回していた。六体の金属の巨人たち。彼らはヴォラスの攻撃で傷一つつかなかった。しかしリサンドラが言うには、定期的なマナの補充が必要だった。塔のエネルギーは百パーセントで安定していたが、守護者を動かし続けるには少しずつ消費されていく。


「一週間ごとに一体ずつ、第三階層の球体に接続させる必要がある」彼女は説明した。「それでマナが再充填される」


「お前はもう彼らの管理者みたいなものだな」


「衛士だからな」彼女は肩をすくめた。「役割だ」


「役割以上のことをしている」


彼女は立ち止まった。朝日が彼女の銀色の髪に当たって、ほとんど白く見えた。ハイエルフの耳がわずかに動いた。


「シン」


「なんだ?」


「お前は私に、新しい目的をくれた。八十年前に失ったものを、もう一度持つことができると言ってくれた。あの戦いの後、私は復讐のために生きた。失われた塔を探すために生きた。お前に会うまでは、未来のために生きることを忘れていた」


「リサンドラ……」


「感謝している。言葉にするのは得意ではないが、感謝している」


彼女はそう言うと、また歩き出した。俺は彼女の隣に並んだ。何も言わなかった。言う必要はなかった。彼女はエルフで、俺は人間で、言葉がなくても伝わることのほうが多い。


夕方、俺は温室に行った。


ライス・エテルナ(光り草)は相変わらず輝いていた。花は咲き続け、その周りに八つの小さな光の種が成長していた。アルテアが言うには、もうすぐ新しい種が取れるだろうとのことだった。そうすれば、結界の光の帯をもっと広げられる。


アルテアは温室の隅に座り、ノートに何かを書き込んでいた。


「邪魔したか?」


「いいえ。ちょうど、第四階層の植物のスケッチを整理していたところです。あそこにあるハーブのいくつかは、文献にも載っていない種類です。名前をつける権利があるとしたら、私にあるのかしら」


「発見者だからな」


「発見者。そう呼ばれるのは初めてです」


俺は彼女の隣にしゃがんだ。光り草の光がノートのページを緑色に染めていた。


「アルテア、お前はここに来てよかったと思うか?」


彼女は顔を上げた。緑の瞳が俺を見つめた。


「ここに来たのは、怪我をして、逃げて、他に行く場所がなかったからです。でもここに残ったのは、自分で選んだからです。違いは大きい」


「どう違う?」


「逃げるのは恐怖から。残るのは……希望から。私はここで希望を持ちました。治癒師としての仕事を見つけ、友人を見つけ、研究対象を見つけました」彼女は少し間を置いた。「家族を見つけた」


「家族?」


「ええ。セラも、ヴェラスも、双子たちも。ゴルンは不器用な叔父みたいです。リサンドラは厳しい姉です。レナは……レナは複雑ですが、それでも家族です。ヴァエリスは宇宙で一番変わった妹です。ミリは親戚の商人です。そしてあなたは……」


「俺は?」


「あなたは時々バカで、無茶をして、自分を犠牲にしすぎる兄貴分です。でも嫌いじゃない」


「それは褒め言葉か?」


「それは事実です」彼女は笑った。あの短くて音楽的な笑いだった。


夜、塔は静かだった。でも、以前の静けさとは違っていた。前は、嵐の前の静けさだった。今は、嵐の後の静けさだった。平和な静けさ。生きた静けさ。


俺は中庭のリンゴの木の下に座っていた。星が出ていた。守護者たちは外周を巡回していた。小さな光り草たちが、塔の周りでホタルのように輝いていた。


足音が近づいた。軽くて速い。レナの足音。


「眠れないのか?」彼女は隣に座った。


「考え事をしていた」


「危ないな」


「考えるのは俺の特技だ」


「特技は死にかけることだろ」


「それも特技だ。二つあってもいい」


彼女は鼻を鳴らした。でも、それから俺の手を取った。指を絡めてきた。当たり前のように。自然に。


「シン」


「なんだ?」


「今度、ヴァルゲルドに行くときは、私も一緒に行く。停戦が終わって、山岳氏族が沈黙してるなら、私たちが動くべきだ」


「外交か?」


「偵察だ。それと、あのパン屋にもう一度行きたい」


「パン屋?お前が?」


「お前のパンより、あそこのパンのほうがマシだ」


「ひどい」


「事実だ」


俺は笑った。空に星が瞬いていた。塔がそびえていた。光り草が輝いていた。


明日はもっとやることがあった。市場を建て、守護者を整備し、第四階層の庭園を調べ、ドゥルガンと取引し、山岳氏族の沈黙の意味を探り、そしてたぶん、二度寝を阻止するためにレナに鼻をつままれる。


でもそれは明日の話だ。


今夜は、星と、リンゴの木と、俺の手を握っているルピナの女がいた。


それで十分だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ