# 第142章 〜秋の気配、変わらぬ日々〜
秋が近づいていた。空は高く澄み渡り、リンゴの木には赤い実が鈴なりに実っていた。中庭には落ち葉が舞い、子供たちはそれを集めては山を作り、飛び込んで遊んでいた。
「父さん、見て!」
ヒカリが木剣を片手に、落ち葉の山を鮮やかに両断してみせた。隣ではカイが静かに拍手を送り、テオが「次は僕!」と小さな木剣を振り回していた。アリアは翼をばたつかせて落ち葉の上をふわりと滑空し、ソルとフェリルは二人で一つの大きな葉っぱを宝物のように抱えていた。リラは泉のそばで水に映る雲を眺め、リオンは母ミリの膝の上で帳簿の端を握って離さなかった。ルミナは相変わらずふわりと浮遊しながら、青い光で落ち葉の山を照らしていた。
「秋だな」と俺はリンゴの木の下に座りながら言った。
「秋だな」と隣のレナが返した。彼女は手に持ったリンゴをかじりながら、子供たちを見守っていた。「今年はリンゴが豊作だ。セラが喜んでる」
「市場でも売れる。ミリも喜ぶ」
「ゴルンは果実酒を仕込むと言ってた」
「みんな忙しいな」
「平和な証拠だ」
彼女の尻尾が静かに揺れた。その顔には、深い満足が刻まれていた。
午後、俺は中庭の片隅で、テオとフェリルにせがまれて木剣の手ほどきをしていた。リサンドラやレナに比べれば俺の腕前はまだまだだったが、子供たちは楽しそうに竹の棒を振り回していた。
「父さん、もっと強く!」
「あんまり強くすると、父さんの腕がもたない」
「父さんは弱いの?」とフェリルが首をかしげた。
「弱くはない。ただ、母さんたちよりは弱い」
「母さんたちは強いもんね」とテオが誇らしげに言った。「特にリサンドラ母さんとレナ母さん」
「そうだな。一番強いのはどっちだと思う」
「二人とも!」と二人は声を揃えて言った。賢い子供たちだった。
夕方、風呂上がりの子供たちを居間で数えるのが俺の日課になっていた。ヒカリ、カイ、テオ、ルミナ、アリア、ソル、フェリル、リラ、リオン。九つの頭を指折り数え、全員の無事を確認する。
「全員いるな」と俺が言うと、レナが隣で小さく笑った。
「当然だ。どこにも行かない」
「それでも、数えるのが習慣になった」
「いい習慣だ」
夜、子供たちが寝静まったあと、俺は屋上に立って村の灯りを見下ろしていた。交易館の明かりがまだ灯り、学校の鐘が月明かりに照らされていた。
「またここにいた」と声がした。マリスだった。
「お前もか」
「ええ。今夜は星が綺麗。水の精は、星を見ると故郷の海を思い出す」
「寂しいか」
「寂しくない。ここが私の故郷だから」彼女は俺の隣に立ち、白い目で星を見上げた。「シン、私、あなたと出会えてよかった。この塔に来て、子供たちを育てて、皆と共に生きて。三百年前には想像もできなかった」
「俺もだ。十年前には、こんな未来は想像できなかった」
彼女は微かに微笑み、それから静かに俺の手を握った。その手は冷たく、しかし確かな温もりを帯びていた。
秋の風が塔の周りを吹き抜け、リンゴの木の葉がかすかに揺れた。明日はまた新しい日。新しい笑顔、新しい発見、新しい成長。でも今夜は、この静かな秋の夜に、皆と共にいる。それで十分だった。




