第139章 〜冬の静けさ、内なる火〜
冬の夜は長く、塔の中ではそれぞれが思い思いの時間を過ごしていた。暖炉の火が居間を照らし、壁のマナの流れが青く脈打つ中、リサンドラは暖炉の前で剣を研ぎ、シルフィーは翼の手入れをしながらアリアに風の古い言葉を教え、ヴァエリスは庭園でルミナと共に銀葉樹の下で瞑想し、マリスは泉のそばでカイとリラに水の精の子守歌を口ずさんでいた。ライラは学校の教材を準備し、ミリは帳簿をつけ、レナはヒカリに木剣の握り方を教えていた。
俺はそんな光景を居間の隅から眺めながら、温かい茶を啜っていた。アルテアが隣で、テオが描いた薬草の絵を眺めながら、時折微笑んでいる。
「みんな、それぞれの冬を過ごしてるな」と俺は言った。
「ええ。静かな冬です。去年より、もっと静か」
「子供たちが増えたのに静か?」
「子供たちの声は賑やかです。でも、その賑やかさは騒音じゃない。安心できる音です」
彼女の言う通りだった。かつてこの塔にいたのは、俺とレナだけだった。あの頃の冬は、静かすぎて不安になることがあった。今は違う。子供たちの声が廊下に響き、誰かの笑い声が中庭から聞こえ、夜になっても完全な静寂は訪れなかった。
「雪だるま、見ましたか」とアルテアが窓の外を指さした。
「ああ。ヒカリが作ったやつだろ」
「テオも手伝ったんです。でも、一番大きいのは一人で作れなかったって」
「子供たちが協力して作ったんだな」
「ええ。この塔の子供たちは、いつの間にかそうなってます。誰かができないことは、他の誰かが手伝う。当たり前のように」
彼女の声には、母親としての誇りと、治癒師としての観察が混ざっていた。
深夜、俺は目が覚めてしまい、眠れぬまま廊下を歩いていた。壁の青い光が足元を照らし、遠くで泉の水音が聞こえていた。子供部屋の扉をそっと開けると、ヒカリとテオとカイとソルとフェリルが、一つの大きな布団の上で身を寄せ合って眠っていた。ルミナはその上でふわりと浮遊しながら、青い光で弟妹たちを包み込んでいた。アリアは翼を広げてカイの肩に凭れかかり、リラはマリスの泉のそばで、リオンはミリの部屋の揺りかごで、それぞれ静かな寝息を立てているはずだった。
「見回りか」
声の主はリサンドラだった。彼女は無言で廊下の奥から歩いてきて、俺の隣に立った。
「お前こそ」
「夜警の交代だ。エリオンと交代で、明け方まで」
「相変わらずだな」
「当然だ。衛士だからな」彼女は子供部屋の中を一瞥し、それから微かに口元を緩めた。「全員いるな」
「ああ。誰もいなくならない」
「そうだ。これからも、ずっと」
彼女は剣の柄に手を置いたまま、しばらく子供たちの寝顔を見守っていた。戦士の目が、これほど優しくなる瞬間を、俺は他に知らなかった。
冬の終わりが近づき、雪が緩み始める頃、塔に一通の手紙が届いた。差出人は自由都市連合の新しい交易代表、バルドだった。内容は簡潔で、春になったら始まりの村を公式に訪れたいというものだった。自由都市連合として、この村を正式な交易拠点として認定する提案を持って行くという。
「これは大きい」とミリが帳簿を開きながら言った。「自由都市が公式に認定すれば、ヴァルゲルドや山岳氏族だけでなく、もっと遠くの地域とも取引ができるようになる」
「悪い話じゃないな」
「ええ。でも、それだけ注目されるということでもある。この村がもう、単なる塔の麓の集落じゃなくなる」
春が来る。そして、この村はまた一つ、新しい段階へと進もうとしていた。でも、慌てる必要はない。雪が溶け、花が咲き、子供たちが少しずつ大きくなる。そのすべてが、ここにある。
冬の最後の夜、俺は屋上に立って星を見上げていた。冷たい空気が肺に染み渡り、吐く息が白く煙った。誰かが階段を上がってくる気配がして振り返ると、レナだった。
「また一人か」
「お前もか」
「ヒカリが寝てから、少し歩いてた。ここに来ると思った」
彼女は隣に立ち、何も言わずに俺の手を握った。その手は温かく、しっかりとしていた。春はもう、すぐそこだった。




