第136章 〜商人の夜〜
ミリが俺を呼んだのは、学校の最初の柱が立った日の夜だった。
昼間、村の広場ではちょっとした式典が開かれていた。ヴェラスが材木に最後の鉋をかけ、ゴルンが金具を打ち込み、ライラが最初の生徒たち――ヒカリ、カイ、テオ、そして村の子供たち数人――の名簿を読み上げた。まだ壁も屋根もなかったが、それでも学校は始まっていた。
「黒板は交易所の余り材で作った」とミリが誇らしげに言った。「帳簿をつけるときの机も、もう一つ寄付した。商人だって教育に貢献できる」
「お前は帳簿が一番の教科書だと思ってるんだろ」
「当然です。読み書き計算ができれば、世界中どこでも生きていける」
そして今、彼女は自分の部屋で俺を待っていた。いつもの帳簿は机の上に閉じられ、代わりに小さな灯りが一つ、窓辺に置かれていた。月明かりが差し込み、彼女の茶色い髪を柔らかく照らしていた。
「シン様」
「様をつけるな。昔みたいで落ち着かない」
「慣れてください。私は商人です。あなたは私の一番の取引相手。敬意は忘れません」
「取引相手か」
「ええ。でも今夜は、少しだけ個人的な取引を」彼女は立ち上がり、俺の手を取った。「私はずっと、帳簿の数字と市場の拡大に生きてきた。でも最近、考えるんです。数字は永遠に残らない。でも、人は残る」
「人が残る?」
「子供たち。ヒカリ、カイ、テオ、ルミナ、ソル、アリア、フェリル、リラ。八人。あなたと、皆との子供たち。私はその子たちを見てきて、思った。私も――残したい」
彼女の声は震えていなかったが、その茶色い目にはいつもの計算ではなく、もっと深いものが揺れていた。
「私はずっと、感情を帳簿の後ろに隠してきた。数字は嘘をつかない。でも、数字だけじゃ足りないことも、この塔で学んだ」彼女は俺の手を握りしめた。「今夜は、帳簿を閉じて、あなたと共にいたい。私の番を、ずっと待っていた」
「待たせて悪かった」
「いいえ。私は待つのが得意です。商人は待つものです。でも今夜は、待つのを終わりにしたい」
彼女は微笑み、それから灯りを吹き消した。月明かりだけが部屋に満ち、壁の青いマナの流れが静かに脈打っていた。
「私、こういうことは初めてで」と彼女は少しだけ声を小さくした。「計算も戦略もない。ただ、あなたといたい」
「それで十分だ」
「本当に?」
「ああ。お前はいつも計算してきた。今夜は計算しなくていい」
彼女は小さく笑い、それから俺の肩に手を置いた。その手は帳簿をめくるときのように正確だったが、今は少しだけ震えていた。彼女の唇がそっと俺の唇に触れ、それは商人の打算ではなく、一人の女性の願いだった。
夜が更けていった。窓の外では、建設途中の学校の柱が月明かりに照らされ、明日への約束のように立っていた。
数週間後、ミリが妊娠した。アルテアが診断杖を手に確かな声で「間違いありません」と言ったとき、彼女は帳簿を取り出して「出産予定日までにやるべき仕事のリスト」を書き始めた。
「安静にしろ」と俺は呆れて言った。
「安静は妊婦に言う言葉です。私は市場の共同運営者です」
「同じだろ」
「違います。妊婦は一人の体。共同運営者は村全体の胃袋を預かってる」
「どっちも大事だ」
「ええ。だから両方やります」彼女はペンを走らせながら微笑んだ。「でも、約束します。無理はしない。あなたとの子供を、ちゃんと守る」
「約束だ」
「商人は約束を破りません。特に、あなたとの約束は」
その夜、俺は屋上に立って村を見下ろしていた。学校の骨組みが見え、その先には新しい家々の屋根が続いていた。始まりの村は、もう村ではなく小さな町だった。
「またここにいた」と声がした。レナだった。彼女は隣に並び、何も言わずに俺の手を握った。
「ミリが妊娠したな」と彼女は言った。
「ああ」
「これで九人目か」
「いや、十人目だ。ルミナを忘れるな」
「そうだった」彼女は少しだけ笑った。「最初は私一人だった。それが今では十人の子供たちがいる。信じられない」
「俺もだ」
「でも、悪くない」
「ああ」
彼女の尻尾が静かに揺れ、月明かりが村の屋根を銀色に染めていた。明日はまた新しい日。新しい生命がまた一人、この塔に約束されていた。でも今夜は、この静かな夜の中で、最初の住人と共に立っている。それで十分だった。




