第128章 〜衛士の子〜
夏の盛り、リサンドラの陣痛が始まった。
あの朝、彼女はいつも通り中庭で木剣を振っていた。流石に激しい打ち合いはしていなかったが、それでも動きを止めようとはしなかった。汗をかき、呼吸を整えながら、何度も同じ動作を繰り返していた。
「リサンドラ、無理はするなよ」と俺は声をかけた。
「無理ではない。体を動かしていたほうが産道が開く。アルテアに聞いた」
「それでも、だ」
「心配性だな」
彼女が木剣を置いたのは、最初の陣痛が来たときだった。彼女は一瞬息を呑み、それから静かに剣を置き、腹に手を当てた。その顔には苦痛ではなく、むしろ静かな覚悟が浮かんでいた。
「来た」と彼女は言った。
「呼んでくる」
「ああ。頼む」
俺は台所に走り、アルテアに知らせた。彼女はすぐに診断杖を手に取り、セラに湯の準備を頼み、ヴェラスに清潔な布を運ぶよう指示した。数分のうちに塔全体が動き始めた。レナは子供たちを居間に集め、マリスは水の精の古い鎮静の歌を口ずさみ始め、シルフィーは窓辺で翼を広げて控え、ヴァエリスは青い光で部屋を満たし、ライラは記録のための羊皮紙を広げた。ミリは帳簿を閉じて、ただ静かに見守っていた。
リサンドラは自室の寝台に横たわり、その顔は青白かったが、目は閉じていなかった。彼女は天井を見つめ、呼吸を整え、時折、腹の痛みに眉をひそめながらも、一言も弱音を吐かなかった。
「痛むか」と俺は彼女の手を握りながら尋ねた。
「痛む。しかし、戦場で受ける傷とは違う。これは――意味のある痛みだ」
「意味?」
「ああ。この痛みの先に、命がある。だから耐えられる」
アルテアが陣痛の間隔を計りながら、静かに指示を出した。彼女の声は落ち着いていて、それだけで少し安心できた。
「リサンドラ、次の波が来たら、いきんで。ゆっくり、深く」
「わかっている」
リサンドラはうなずき、俺の手を握りしめた。その力は強く、彼女の戦士としての本質を思い出させた。
数時間後、夏の陽が西に傾く頃、産声が上がった。それは力強く、澄んだ声で、部屋中に響き渡った。アルテアが取り上げたのは、銀色の産毛に覆われた小さな男の子だった。耳はわずかに尖り、肌はほのかに青白く、エルフの血を確かに受け継いでいた。
「男の子よ」とアルテアは声を詰まらせながら言った。「元気な男の子」
リサンドラは腕を伸ばし、震える手でその子を受け取った。彼女の銀色の目は涙でいっぱいだった。八十年間、一度も流さなかった涙が、今、彼女の頬を伝っていた。
「ソル」と彼女は囁いた。「太陽」
それは以前、彼女が俺に教えてくれた名前だった。男の子ならソル――「太陽」。彼女の人生には、ずっと太陽がなかった。俺に会うまでは。
「よくやった」と俺は彼女の額に口づけた。
「私一人じゃない。皆がいた」
「それでも、お前が戦った」
彼女は答えず、ただソルを胸に抱きしめた。その腕は剣を握る強さのままで、しかし驚くほど優しかった。
夜、子供たちが順番にソルを抱っこした。ヒカリは「小さい!」と歓声を上げ、カイは静かにその手を握り、テオは「耳がとがってる」と指摘し、ルミナはふわりと浮遊しながら、青い光でそっとソルを包み込んだ。
「五人目か」とレナが言った。
「五人目だな」
「いや、六人目だ。ヴァエリスのルミナも数えろ」
「そうだった」
「最初は私一人だったのに、今では六人の子供たちがいる」
「そうだな」
「悪くない」彼女は微かに笑った。「むしろ、誇らしい」
その夜、俺はリサンドラの部屋に残った。彼女は寝台に横たわり、ソルは隣の揺りかごで静かに眠っていた。窓の外では夏の月が明るく輝き、光り草の防護帯が青く瞬いていた。
「私は誓った」とリサンドラは静かに言った。「お前の子を宿し、育て、守ると。今夜、その誓いは果たされた」
「まだ始まったばかりだ」
「ああ。これからだ。この子が歩き、話し、自分の道を見つけるまで、私の戦いは続く」
「お前はいつも戦っているな」
「それが私だからだ」彼女は俺の手を取って、そっと握った。「でも、戦い方は変わった。もう一人じゃない。お前がいる。子供たちがいる。皆がいる。それが私の力だ」
俺は彼女の手を握り返し、しばらくそのまま動かずにいた。夏の夜風が窓から入り込み、リンゴの木の葉がかすかに揺れていた。明日はまた新しい日。新しい授乳、新しいおむつ、新しい夜泣き。でも今夜は、この静かな部屋の中で、新しい命と共に、ただ穏やかな時間が流れていた。それで十分だった。




