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追放先は辺境の廃塔でした   作者: 星海凡夫


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第125章 〜約束の冬〜


冬が深まるにつれて、塔の中の空気は穏やかでありながら、どこか期待に満ちていた。リサンドラの妊娠はまだ確定していなかったが、アルテアは「ほぼ間違いない」と言い、彼女自身も「感じる」と言っていた。その静かな確信が、塔全体に柔らかな緊張感をもたらしていた。


そんなある朝、俺はアルテアを温室に誘った。彼女は鉢植えの前にしゃがみ込み、冬でも枯れないハーブの葉をそっと撫でていた。


「リサンドラの様子はどうだ」と俺は隣にしゃがみながら尋ねた。


「順調です。まだ確定ではないけれど、体温もマナの流れも安定している。エルフの妊娠は長いから、急がないでくださいね」


「急がない。ゆっくり見守るさ」


彼女は微笑み、葉から手を離して俺のほうを向いた。


「シン、私、テオがもう少し大きくなったら、もう一人欲しい」


「前にも言ってたな」


「ええ。でも今回はもっと確か。テオに兄弟がいてほしい。治癒師としてじゃなく、母親として、そう思うの」


「いつでもいい。お前のペースで」


「ありがとう」彼女は俺の手を取って、そっと自分の頬に当てた。「春が来たら、また話しましょう」


同じ日、俺はマリスと泉のほとりで話をした。彼女はカイを膝に乗せ、水面に映る冬の雲を見つめていた。水の髪は銀色に輝き、その白い目はいつもより深く、遠くを見ているようだった。


「マリス、お前はどうだ。もう一人欲しいか」


彼女はしばらく黙り込み、それからカイの頭をそっと撫でた。


「水の精は、あまり多く子を産まない。でも、私はあなたと共にいる。この塔で、カイも育っている。もしもう一人授かれるなら――嬉しい」


「だが急がない」


「ええ。水は急がない。ただ、いつか」


彼女は泉の水面に手を浸し、その水がかすかに輝くのを見つめた。


午後、俺はリサンドラと共に中庭のリンゴの木の下に立っていた。雪は止み、かすかな陽射しが枝を照らしていた。彼女は木の幹に手を触れ、その銀色の葉脈が応えるように輝くのを見つめていた。


「春になったら、この木もまた花をつける」と彼女は言った。


「毎年咲いてる」


「ああ。だが今年は、何かが違う」


「何が」


「私だ」彼女は振り返り、俺を見つめた。「この冬、私は誓った。その誓いはまだ果たされていない。だが春になれば、きっと何かが変わる」


「お前は変わった。もう変わってる」


「そうかもしれない」彼女は微かに口元を緩めた。「でも、もっと変わる」


夕方、居間でライラが新しい記録をまとめていた。彼女の机の上には、過去数年の塔の出来事がびっしりと書かれた羊皮紙が積み上げられていた。


「これ、全部お前が書いたのか」


「はい。この塔の歴史は、まだ誰もまとめていない。私は記録者だから」


「壮大なプロジェクトだな」


「ええ。でも楽しい」彼女は微笑み、ペンを置いた。「シン、私もいずれ、子を持ちたい。まだ準備はできていないけど、心の準備はできてる。私の役目が一段落したら、そのときは――」


「そのときは、また話そう」


「はい」


その夜、俺は久しぶりに一人で屋上に立った。雪が再びちらつき始め、村の灯りが白い闇の中で滲んでいた。守護者たちの青い光が巡回し、光り草の防護帯がいつも通り輝いていた。


誰かが階段を上がってくる足音。レナだった。彼女は無言で隣に立ち、俺の手に温かい茶の入った杯を押しつけた。


「寒いだろ」


「少し」


「なら飲め」


俺は茶を一口飲み、それから彼女の肩に手を回した。彼女は抵抗せず、むしろ少しだけ体重を預けてきた。


「また増えるんだな」と彼女は言った。


「たぶんな」


「リサンドラが最初か」


「ああ。次はわからん。誰かは決めてない」


「順番なんて、もともとないさ」彼女は静かに言った。「私が最初で、アルテアが二番目で、マリスが三番目で――って数えるのは、あとから意味づけしてるだけだ。本当は、それぞれが自分のときに、自分のやり方で、お前と向き合ってきた」


「お前は詩人だな」


「お前の影響だ」


彼女の尻尾が毛布の下で静かに揺れた。


「なあ、レナ。お前はもう一人欲しいか」


「欲しい。でも、今じゃない。ヒカリがもう少し大きくなったら。それに――今はリサンドラの番だ」


「お前はそれでいいのか」


「いい。私はもう、お前の最初の女だ。それは変わらない。他の誰が増えても、最初は私だ。それで十分だ」


彼女は杯を置き、俺の手を握った。その手は温かく、力強く、最初にこの塔のドアを叩いた夜のことを思い出させた。


「春が来たら、また花が咲く」とレナは言った。「この塔は何度でも咲く。そのたびに、新しい命が生まれる。悪くない」


「悪くないな」


月が雲間から顔を出し、雪が静かに降り積もる。明日はまた新しい日。新しい約束、新しい命の足音。でも今夜は、この雪の静けさの中で、ただ隣に立っているだけで十分だった。

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