第120章 〜始まりの村、集う光〜
春がまた巡ってきた。始まりの村に名前がついてから、三度目の春だった。
ヒカリはもう六つになり、銀色の髪を風になびかせて村の子供たちと走り回るようになっていた。カイは五つで、相変わらず泉のそばを好み、水と静かに対話を続けていた。テオは四つになり、治癒師の母のあとを追って薬草の名前を覚え始めていた。ルミナは二つになるが、その成長は人間の尺度では測れず、浮かんだり瞬いたりしながら、庭園を中心に塔の中を自由に行き来していた。
「大きくなったな」と、ある朝、レナが中庭のリンゴの木の下で言った。
「誰が」
「子供たち。それから、この村も」
彼女の言う通りだった。始まりの村は、もはや「村」と呼ぶには大きすぎるほどに成長していた。市場は常設の建物に拡張され、自由都市からの移住者がさらに増え、交易所の隣には小さな神殿と診療所が建ち、その周囲には新しい住居が十軒以上も軒を連ねていた。ゴルンの鍛冶場には弟子が三人も入り、セラの織物工房もまた若い職人を育て始めていた。
「そろそろ村長を決めるべきだ」と、ある夕方、ミリがいつものように帳簿を閉じながら言った。「でなければ、私は市場の管理だけで手一杯だ」
「お前が村長をやればいい」
「私は商人よ。行政は専門じゃない」
「俺もだ」
「あなたは塔の主でしょう。それに、皆はもうあなたを『塔のシン様』と呼んでる。今さら逃げられないわ」
「逃げるつもりはない。ただ、正式な肩書きは性に合わない」
「なら、『暫定村長』でどう?」彼女は悪戯っぽく微笑んだ。
「どこまで暫定なんだ、俺の人生は」
結局、村の運営はヴェラスとカエレンが中心となって行うことになった。老いた大工は村のまとめ役として意外な手腕を発揮し、鍵守の老人はその落ち着いた物腰で争いごとを仲裁した。二人は年齢も経験も近く、すぐに親友となっていた。
「私たちは古い世代だ」とカエレンは言った。「若い者たちに未来を託すために、最後の仕事をしている」
「最後ではないさ」とヴェラスが答えた。「まだまだやることはある」
そんな春のある日、見張り塔の監視台に立っていたシルフィーが、翼を大きく広げて急降下してきた。
「来た!」と彼女は息を弾ませて言った。「西の方角から、光の塊がゆっくりと移動してくる。カエレンに伝えて。未完の者が来る!」
カエレンはその知らせを聞くと、静かに立ち上がり、古い外套を羽織った。彼の青い目は輝き、手はかすかに震えていたが、その声は確かだった。
「待っていた。何年も、何十年も。父の過ちを正すときが来た」
俺は彼の肩に手を置いた。
「一緒に行こう」
「ああ」
黄昏の塔の方角から、光が近づいてくるのが見えた。それはゆっくりと、しかし確実に、森の上を滑るように移動していた。やがて村の門の前に、未完の者が降り立った。彼の姿は数年前よりもはっきりとしていた。まだ完全な肉体ではなかったが、光の輪郭は人の形を明確に描き、その顔には穏やかな表情が浮かんでいた。
「来た」と未完の者は言った。その声は遠くの鐘のように響き、しかし以前よりずっとはっきりとしていた。「約束を守りに来た」
「待っていた」とカエレンは彼の前に進み出て、そっとその光の手を握った。「ようこそ、我が友よ」
未完の者はゆっくりと笑みを浮かべ、それから村を見渡した。
「ここが、始まりの村か」
「そうだ。始まりの場所だ。あなたにとっても」
未完の者はうなずき、それから俺のほうを向いた。
「管理者シン。私はここに留まりたい。塔の一部としてではなく、村の住人として。まだ体は完全ではないが、できることはある」
「もちろんだ。ここは、来る者を拒まない」
「知っている」と未完の者は言った。「初めて会ったときから、知っていた」
その夜、始まりの村では久しぶりの祝宴が開かれた。セラが腕によりをかけた料理を並べ、ゴルンが果実酒を振る舞い、双子たちが飾りつけをし、子供たちが歌を歌った。未完の者は広場の中央に座り、村の灯りに照らされながら、一人ひとりの顔をじっと見つめていた。
「こんなに多くの人が」と彼は言った。
「もっと増えるさ」とゴルンが金槌を肩に担ぎながら答えた。
ヒカリが未完の者のそばに駆け寄り、その光の手をそっと握った。
「あなた、光ってる」
「そうだ。君も光ってるよ」
「私も?」
「ああ、とても強く」
ヒカリは満足そうに微笑み、それから「ちょっと待ってて」と言って、弟たちを呼びに行った。カイとテオ、そしてルミナも加わり、四人の子供たちが未完の者を取り囲んだ。光の子ルミナは特に興味を示し、未完の者の周りを浮遊しながら、その光と自分の光を交差させて遊んでいた。
カエレンはその光景を遠くから見守りながら、静かに涙をぬぐった。
「父さん、見てるか」と彼は囁いた。「お前が封じた者と、俺たちが育てた者たちが、今、同じ場所で笑ってる」
宴が終わり、村が静けさを取り戻した頃、俺はリサンドラと二人で村の外れの丘に立っていた。始まりの村の灯りが、星のように瞬いていた。
「大きくなったな」とリサンドラが言った。
「ああ」
「お前がここに来たとき、ここには何もなかった」
「今は、すべてがある」
彼女はしばらく黙り込み、それから俺の手を取った。
「私はまだ、お前との約束を果たしていない」
「約束?」
「子供の約束だ。シルフィーは果たした。私はまだだ」
「急がなくていい。お前のペースで進めばいい」
「ああ。でも、そろそろ準備ができた。今度は私の番だ」
彼女の銀色の瞳は揺るがず、その手は冷たく、しかし確かな温もりを帯びていた。
「いつでも」と俺は答えた。
彼女はうなずき、丘を下りて村へ戻っていった。その背中は、もうかつての孤独な衛士のそれではなかった。
塔に戻ると、アルテアが診療所の灯りを消すところだった。
「まだ起きてたのか」
「ええ。最後の患者がついさっきまで。村の子供が熱を出して」
「大丈夫か」
「ただの風邪です。診療所ができてから、重症になる前に来てくれるようになった。いいことだと思います」
「お前がいるからだ」
「治癒師として、当然のことをしているだけ」
「それだけじゃない。お前がここにいるから、皆が安心する」
彼女は少しだけ照れくさそうに微笑み、診療所の扉を閉めた。
「シン、私、来年あたり、もう一人欲しいかもしれない」
「テオがもう少し大きくなったらか」
「ええ。兄弟は多いほうがいい。私自身は一人だったから」
「わかった。いつでも」
彼女は俺の頬にそっとキスをし、それから自室へ戻っていった。
深夜、俺は久しぶりに屋上に立った。下では村の灯りが静かに瞬き、遠くの森は闇に包まれていた。守護者たちが巡回する青い光が見え、光り草の防護帯がいつも通り輝いていた。
ここに来てから、もう五年以上が過ぎていた。過労死したサラリーマンは、いつしか塔の主となり、八人の女性の伴侶となり、五人の子供たちの父親となり、始まりの村の中心に立っていた。まだ暫定のままだが、それでも確かに、ここが自分の居場所だった。
明日はまた新しい日。新しい出会い、新しい命、新しい約束。でも今夜は、この静かな夜のなかで、すべての灯りを見守りながら立っているだけで十分だった。始まりの村は今日も、静かに、しかし確かに、明日へ向かって息づいていた。




