第113章 〜衛士の夜明け〜
夜が更けていった。
リサンドラは俺の肩に頭を凭せかけたまま、長いあいだ動かなかった。窓の外では春の月がリンゴの木を銀色に照らし、光り草の防護帯が静かに瞬いていた。子供たちはすでに深い眠りにつき、塔全体が寝息を立てているようだった。
「寒くないか」と俺は尋ねた。
「寒くない。エルフは体温を自分で調整できる」
「便利だな」
「でも、お前の体温は調整できない。だから触れている」
「それは詩的な言い方だな」
「詩じゃない。事実だ」
彼女は少しだけ身動きし、俺の手を取って自分の膝の上に置いた。節くれだった指が、俺の指のあいだを探り、ぎこちなく、しかし確かに絡み合った。
「私は、こういうことに慣れていない」と彼女は言った。
「知ってる」
「八十年間、誰にも触れなかった。それ以前も、戦友の手当て以外で誰かに触れたことはほとんどない。私の手は武器を握るためにあり、撫でるためではなかった」
「今は違う」
「ああ。今は違う」彼女は顔を上げ、銀色の瞳で俺を見つめた。その奥に、長年閉じ込められていた何かが揺れているのが見えた。「シン、私は怖がっている。お前を失望させるかもしれない。自分がどうすればいいのか、まだよくわからない」
「わからなくていい。俺も最初は何もわからなかった」
「嘘だ。お前はレナとも、アルテアとも、他の誰とも、自然に振る舞っていた」
「自然に見えただけだ。内心は毎回緊張していた」
彼女はしばらく俺の顔をじっと見つめ、それから小さく、本当に小さく笑った。
「お前もか」
「俺もだ」
彼女は立ち上がり、窓辺に歩いた。月明かりが彼女の銀色の髪を透かし、その横顔を柔らかく照らし出した。彼女はそこで、ゆっくりと肩の力を抜き、戦士としてではなく、ただの一人の女として、そこに立っていた。
「美しい夜だ」と彼女は言った。
「ああ」
「こんな夜に、私はこれまで何度も見張りをしていた。敵を探し、影を数え、夜明けを待った。でも今夜は違う。今夜は、ただここにいる。お前と共に」
俺は彼女の背後に立ち、そっとその肩に手を置いた。彼女は少しだけ震え、それから俺の手に自分の手を重ねた。
「リサンドラ、無理はしなくていい。今夜はただ、一緒にいるだけで十分だ」
「私は無理をしたい」彼女は振り返り、俺の目をまっすぐに見つめた。「八十年間、何もしなかった。今夜は、何かをしたい。お前と共に」
彼女の手が俺の頬に触れた。冷たい指先だったが、その奥には確かな熱があった。彼女は一歩近づき、唇を重ねた。最初は軽く、探るように。それから少しずつ深く、長く。不器用で、しかし真摯な口づけだった。八十年分の孤独が、少しずつ溶けていくようだった。
彼女は唇を離し、額を俺の額に当てた。
「これでいいのか」と彼女は囁いた。
「いい」
「もっと、してもいいか」
「ああ」
彼女は俺の手を取って寝台へと導き、その縁に二人で腰かけた。窓から差し込む月明かりだけが部屋を照らし、壁の青いマナの流れがゆっくりと脈打っていた。
「鎧を脱ぐのは慣れている」と彼女は言った。「でも、心の鎧を脱ぐのは初めてだ」
「ゆっくりでいい」
「ああ」
彼女はゆっくりと上着を脱ぎ、その下の薄手の肌着を露わにした。肩や腕には古い傷跡がいくつも刻まれ、それが彼女の歩んできた道を物語っていた。俺はその傷跡の一つにそっと指を触れた。
「痛むか」
「古い傷だ。もう痛まない。でも、お前に触れられると、少しだけ温かくなる」
「それは治癒か」
「わからない。だが、悪くない」
彼女は俺の手を取り、自分の胸の上に置いた。心臓の鼓動が伝わってきた。少し速く、しかし力強く、八十年間一人で戦い続けてきた命の音だった。
「私の心臓だ」と彼女は言った。「お前に預ける」
「重いな」
「重くない。お前なら持てる」
彼女は微笑み、それから俺を引き寄せて再び口づけた。今度はより深く、より長く、より確かに。彼女の手が俺の背中を探り、俺の手が彼女の髪を梳いた。言葉はなく、ただ互いの温もりだけが部屋を満たした。
夜が更けていく。月が雲に隠れ、再び姿を現し、また隠れる。その繰り返しのあいだに、彼女は何度も俺の名前を呼び、俺は何度も彼女の名を返した。戦士としてではなく、衛士としてではなく、ただ一人の女として、彼女はそこにいた。
やがて夜明けが近づき、空が白み始める頃、彼女は俺の腕の中で静かに目を閉じていた。その顔には、もう迷いはなかった。
「リサンドラ」
「なんだ」
「お前は、もう一人じゃない」
彼女は答えず、ただ俺の手を強く握り返した。
朝が来た。塔はいつも通り目覚め、子供たちの声が廊下に響き、ゴルンの金槌が鍛冶場でリズムを刻み始めた。誰も昨夜のことを尋ねなかった。ただ、リサンドラがいつもより少しだけ柔らかな足取りで居間に現れたとき、レナがちらりと彼女を見て、それから俺を見て、かすかにうなずいた。
「やったな」とその目は言っていた。
「やった」と俺の目は返した。
朝食の席で、リサンドラは黙ってパンを食べ、茶を飲んだ。だがその隣では、シルフィーが翼をそっと彼女の肩に触れさせ、ヴァエリスが青い光を静かに降り注がせていた。言葉はなかったが、それで十分だった。
次の日、そして次の週も、塔は変わらず動き続けた。だがリサンドラの部屋の窓辺には、いつの間にか小さな花が飾られるようになり、彼女が子供たちに剣の握り方を教える時間が少しずつ増えていった。テオが木剣を落とすたびに、彼女は黙って拾い上げ、もう一度握らせた。その顔は相変わらず無表情だったが、その動きは驚くほど優しかった。
「変わったな」とレナが俺に言った。
「誰が」
「リサンドラ。それから、お前も」
「悪いほうにか」
「いいほうにだ」
彼女の尻尾がゆっくりと揺れ、俺はそれ以上何も言わずに、子供たちが中庭で遊ぶのを眺めていた。ヒカリはもう補助なしで走れるようになり、カイは泉のほとりで水と静かに対話を続け、テオは治癒師の母のそばで薬草の匂いを嗅ぎながら成長していた。三人の子供たち。三つの未来。そして、もしかすると、これからもう一つ――。
「シン」リサンドラが背後から声をかけた。
「なんだ」
「昨夜のことは、私にとって意味のあることだった。忘れない」
「俺もだ」
彼女はうなずき、それから中庭の子供たちのほうへ歩いていった。その背中は、いつもより少しだけ柔らかく、少しだけ温かかった。




