表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放先は辺境の廃塔でした   作者: 星海凡夫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

112/146

第112章 〜衛士の選択〜


リサンドラが俺の部屋を訪ねたのは、シルフィーと話してから三日後の夜だった。


彼女は鎧を着ていなかった。エルフの剣は卓上に置かれていたが、鞘に収まったままだった。髪は下ろされ、銀色のまま肩にかかり、手には何も持っていなかった。ただ立って、銀色の瞳で俺をまっすぐに見つめていた。


「話がある」と彼女は言った。


「聞いてる」


彼女は一歩踏み出し、それから立ち止まった。その動きにはためらいがあったが、迷いではなかった。長い時間をかけて準備してきた者の、最後の深呼吸のようなものだった。


「私は八十年間、一人で戦ってきた。多くの仲間を失い、友を失い、ドラゴンさえも失った。誰にも近づかなかった。近づけば、また失うと思ったからだ」


「リサンドラ……」


「でも、この塔に来てから、私は変わった。お前が教えてくれた。失うことを恐れて、得ないまま生きるほうが、もっと怖いと」


俺は静かに彼女の言葉を待った。


「私はもう、ただの衛士ではない。シルフィーとも話した。私たちは二人とも、新しい命を育てたいと思っている。だが、私が先だ。彼女のほうが若く、私のほうが長く待った」彼女の声はかすかに震えていたが、瞳は揺るがなかった。「今夜、私はここに来た。自分の意思で。怖くないと言えば嘘になる。でも、お前と一緒なら、怖くても構わない」


「リサンドラ」


「返事は急がない。だが今夜は――ここにいたい」


俺は彼女に近づき、その手を取った。冷たく、硬く、八十年分の孤独が刻まれた手だった。だがその指先は、かすかに、しかし確かに震えていた。


「俺も一緒にいたい」


彼女はしばらく俺の顔を見つめ、それからゆっくりと鎧を脱ぐように、肩の力を抜いた。彼女の唇が、かすかに開き、それから閉じた。言葉を探しているようだったが、見つからなかったのだろう。代わりに彼女は、そっと俺の手を自分の頬に当てた。


「冷たいか」と彼女は尋ねた。


「冷たくない」


「嘘だ。私はいつも冷たい」


「それがお前だ」


彼女は小さく、ほとんど見えないほどの笑みを浮かべた。それから俺の手を引いて寝台のほうへ歩き、その縁に腰かけた。窓の外では、春の月がリンゴの木を銀色に照らし、光り草たちが静かに瞬いていた。


彼女は俺の手を離さなかった。そのまま長い沈黙が続き、やがて彼女は俺の肩に頭を凭せかけた。八十年ぶりに誰かに触れる者のように、恐る恐ると、しかし確かに、彼女はそこに身を委ねた。俺は彼女の背中にそっと手を回し、しばらくそのままでいた。


「なあ、リサンドラ」



「なんだ」


「お前は、もう一人じゃない」


彼女は答えず、ただ俺の手を強く握り返した。


夜が更けていく。塔の灯りが一つ、また一つと消え、子供たちはすでに深い眠りについていた。明日はまた新しい日。新しい訓練、新しい決断、新しい命の約束。でも今夜は、この部屋に二人だけの静かな時間があった。それで十分だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ