第112章 〜衛士の選択〜
リサンドラが俺の部屋を訪ねたのは、シルフィーと話してから三日後の夜だった。
彼女は鎧を着ていなかった。エルフの剣は卓上に置かれていたが、鞘に収まったままだった。髪は下ろされ、銀色のまま肩にかかり、手には何も持っていなかった。ただ立って、銀色の瞳で俺をまっすぐに見つめていた。
「話がある」と彼女は言った。
「聞いてる」
彼女は一歩踏み出し、それから立ち止まった。その動きにはためらいがあったが、迷いではなかった。長い時間をかけて準備してきた者の、最後の深呼吸のようなものだった。
「私は八十年間、一人で戦ってきた。多くの仲間を失い、友を失い、ドラゴンさえも失った。誰にも近づかなかった。近づけば、また失うと思ったからだ」
「リサンドラ……」
「でも、この塔に来てから、私は変わった。お前が教えてくれた。失うことを恐れて、得ないまま生きるほうが、もっと怖いと」
俺は静かに彼女の言葉を待った。
「私はもう、ただの衛士ではない。シルフィーとも話した。私たちは二人とも、新しい命を育てたいと思っている。だが、私が先だ。彼女のほうが若く、私のほうが長く待った」彼女の声はかすかに震えていたが、瞳は揺るがなかった。「今夜、私はここに来た。自分の意思で。怖くないと言えば嘘になる。でも、お前と一緒なら、怖くても構わない」
「リサンドラ」
「返事は急がない。だが今夜は――ここにいたい」
俺は彼女に近づき、その手を取った。冷たく、硬く、八十年分の孤独が刻まれた手だった。だがその指先は、かすかに、しかし確かに震えていた。
「俺も一緒にいたい」
彼女はしばらく俺の顔を見つめ、それからゆっくりと鎧を脱ぐように、肩の力を抜いた。彼女の唇が、かすかに開き、それから閉じた。言葉を探しているようだったが、見つからなかったのだろう。代わりに彼女は、そっと俺の手を自分の頬に当てた。
「冷たいか」と彼女は尋ねた。
「冷たくない」
「嘘だ。私はいつも冷たい」
「それがお前だ」
彼女は小さく、ほとんど見えないほどの笑みを浮かべた。それから俺の手を引いて寝台のほうへ歩き、その縁に腰かけた。窓の外では、春の月がリンゴの木を銀色に照らし、光り草たちが静かに瞬いていた。
彼女は俺の手を離さなかった。そのまま長い沈黙が続き、やがて彼女は俺の肩に頭を凭せかけた。八十年ぶりに誰かに触れる者のように、恐る恐ると、しかし確かに、彼女はそこに身を委ねた。俺は彼女の背中にそっと手を回し、しばらくそのままでいた。
「なあ、リサンドラ」
「なんだ」
「お前は、もう一人じゃない」
彼女は答えず、ただ俺の手を強く握り返した。
夜が更けていく。塔の灯りが一つ、また一つと消え、子供たちはすでに深い眠りについていた。明日はまた新しい日。新しい訓練、新しい決断、新しい命の約束。でも今夜は、この部屋に二人だけの静かな時間があった。それで十分だった。




