第3話 思い出
やぁ、みんな。僕の名前は滝沢蓮斗。
どこにでもいる普通の高校生だったはずなんだけど、ある日災難な事故にあって気がつけば異世界に来ちゃった。そして僕は今、人生最大のピンチの真っ只中にいる。
たくさんの人間に囲まれ、今まさに僕の“処遇”が決められようとしている。もちろん何の罪も犯してないよ、多分。果たして僕は、この場を乗り越えることができるのか!
「蓮斗、さっきから一人で何を話しているのです?今の自分の状況に絶望して現実逃避でもしているのですか?」
この頭の中に響く声は女神ルシエナ様だ。
「ふっふっふ……こんなので絶望してたら、僕はもうとっくの昔に死んでますよ。今の僕は、絶望を超えて“諦めの境地”に至っているのです。どうです?最初から諦めていれば絶望することもない。まさに天才的でしょう?」
「忘れていました。蓮斗、あなたが相当なバカだったということに。」
「もう、褒めないでくださいよ。ルシエナ様も相当ポンコツですけどね!」
「面白い事を言いますね。」
ちなみに蓮斗がルシエナと会話してるのを囲んでいる人達の視点から見てみると
「……あいつ、さっきから何をしている?」
「やはり危険人物なのでは?」
「服装もこの辺で見るものとは異なっているしな。」
やばい。僕がやってること周りから見たら完全に不審者ムーブだ。
「みなさん静粛に。陛下の御前ですよ」
一人の男の声で、場が一瞬で静まり返るなんて。たぶんこいつ、めちゃくちゃ偉いんだろうな。
ヒゲもピンと跳ねてるし。
「では、そこの者。名を名乗れ」
そこの者って僕のことだよな。もう少しなんか言い方があるだろ。なんだよそこの者って。まぁいいや、とりあえず名乗れと言われたら名乗るしかない。
「はい!僕の名前は滝沢蓮斗!通りすがりの一般人で年齢は18歳。ちなみに趣味は、、、」
「もうよい。年齢と趣味は聞いておらん。聞かれたことだけ答えよ。」
くっ……渾身の自己紹介が。結構自信のある名乗りだったんだけどな。何人かにはウケたけど、あの人にはウケなかったか。
周囲からは失笑と、冷たい視線が入り混じる。
(あれ、女王様……笑ってない?)
玉座に座る女王。その肩が、わずかに震えていたのを僕は見逃さなかった。もしかしてこれってチャンスなのでは?僕が助かるためには、ここを乗りきるしかない。つまり女王に気に入られるしかない。
これは——チャンスか?
「それでは、滝沢蓮斗。貴公の罪を告げる」
え、罪?罪って何だよ。
「謎の言語で門番に話しかけ、不審な行動で城に入ろうとした罪。そしてもう一つは、女王陛下を不躾に見続けたこと。よって懲役20年を言い渡す。」
20年の懲役だって?こんなしょうもない事で?
一個目の謎の言語で門番に話した罪。これについてはあんまり納得したくないけどまぁ理解できる。でも二つ目に関しては罪じゃないだろ。誰だって綺麗な人がいたら目で追いたくなるもんだ。
明らかに二つ目はおかしいだろ。
「滝沢蓮斗、何か言い分はあるか?」
どうしよう。なんも思いつかない。こんなのどうしろっていうんだよ。というかこの国はこんなのが罪になるのか?一体どうなってるんだこの国は。と言い訳をしてる時間が今はない。
考えろ、僕のあまり良くない思考能力でどうすれば良いのかを。
考えろ。考えろ。
「蓮斗、困ってますね。さぁてどうしましょうか。私に出来ることといえば蓮斗に助言を与えることだけですし。」
ルシエナ様は、何にもできなそうだな。ん?そういえばルシエナ様ってこの世界にいる神様の一人なんだよな?はっ、僕はその時、天才的な言い訳を思いついた。
だがこの言い訳が通じるかは、一か八かの勝負だ。でも、今はやるしかない。
「まだ思いつかんのか?何も喋らないということは罪を認めるということでいいな?」
「ちょっとまった。僕は頭の整理をしていただけです。ちょうど今答えようと思ってたんですよ。」
「言い分があるなら早く言え。」
「それでは、僕の言い分を聞いてもらいましょう。僕が知らない言語を話したのは、僕が女神ルシエナ様の使いだからですよ。」
ふっ。決まった。その瞬間、辺りの人たちがまたざわつきはじめる。
「今、なんと言った?」
「ルシエナ様の使いだと。」
「どうせ罪に問われたくないための言い訳だろう。」
あっれぇー、なんかみんな反応薄くない?僕が予想してたのは、な、なんだと。あなたが女神様の使いだったとは知らず無礼をはたらき申し訳ありませんでした。みたいな感じかと思ったけど。あの堅物そうな人も固まっちゃってるし。
「滝沢蓮斗、お前のその言葉に間違いはないか?」
「はい。間違いないです。」
まぁ、間違いではないよな。ルシエナ様の声が聞こえるのは自分だけみたいだし。
「蓮斗、なんてことを言ってしまったのですか。」
「いやいや、だって僕ルシエナ様に助けられて、この世界を案内してもらってるんですよ?実質使いみたいなもんじゃないですか。」
「はぁー。本当に呆れます。いいですか?神の使いとは、神が人間に加護を与え、この世界の脅威を討伐する際に用いられる言葉です。なのでこの世界にいる神の使いというのは、魔法を扱うものよりも少ないのです。」
え、そうなの?だったら僕やばいじゃん。結構自信をもって言ったのに。どうしよ。
「そんなの僕聞いてないですよ。どうすればいいんですかルシエナ様ー。」
「蓮斗、ファイト!」
……その時、ぷつんと音がした。
え、ちょ、ルシエナ様?
「あれ、ルシエナ様?声が聞こえなくなったんですけど。ファイト!ってなんですか。おーい。」
あの女神逃げやがったな。
なんでこういう大事なこと説明してくれないんだよ。神の使いにそんな意味があったなんて。そんなの僕なわけないじゃん。
運動もできない、勉強も普通な僕だぞ?
「滝沢蓮斗、貴公が女神の使いであるという証拠はあるか?」
「えーと。証拠ですか?」
「そうだ。神の使いというならば何か能力があるはずだ。現在までに存在している神の使いを私は四人知っているが、その四人にはそれぞれの神に関する能力があったぞ?」
はっ?なんだよ、能力って。あとルシエナ様って何の神なんだ?クッソなんでここぞって時に連絡できないんだ。
「そうですね。能力ですよね?ここじゃあ狭いかなーっていうか、皆さんを巻き込んでしまうかもしてないっていうか。」
「ほう、ならば城の広場に移動しよう。そこで貴公の能力を私たちに見せてもらおうか。」
うわー言っちゃったよ。もう後戻りはできそうにないし。
「、、、分かりました。」
「よし、では移動するぞ。」
移動を始めようと全員が動きだす。
本当にもう手はないのか?
「ちょっと待ってください。」
後ろから聞こえてくる声の主は女王様だった。昨日から何も喋ってなかったから無口なのかなと思ってたけど。
「女王陛下どうかされたのですか?」
「この人と話をさせてください。」
おっとぉ。これは第二のチャンスが舞い降りたんじゃないか?頼むからいらないことは言うなよ。
「このような者と話すことなど何もありません。」
本当に何を言ってるのだろうかこいつは。
「いえ、あります。私には彼と話すことが、話さなければならないことがあるのです。」
僕を呼び止めた理由はなんなんだろう。女王様が僕のことを気になってたとかかな?だったら嬉しいけど、どうもそんな雰囲気には見えない。あの堅物も女王の命令に背くわけにはいかないだろうし。
「、、、分かりました。では、見張りをつけますので」
「私は彼と二人で話したいのです。ここにいる者は全員この部屋から出てもらいます。」
「なにをおっしゃているのです。このような者と二人きりなど、危険極まりないことはおやめください。」
「それでも、私は彼と二人で話したいのです。」
あの堅物そうな男が迷ってる。二人で話したいなんて、これってそういうことなんじゃない?僕のことを好きなんじゃない?
「分かりました。では、この者を拘束しますので、なるべく距離をとってください。あと5分以内に終わらせてくださいね。」
「ありがとう。ヴィンセント。」
ほーう。あの堅物はヴィンセントというのか。そして名前から堅物そうな感じがするのは僕だけだろうか?
僕と女王様以外の人たちが部屋から出ていく。そして王室の扉が閉まると
「確かあなたの名前は蓮斗でしたよね?」
「はい。僕の名前は滝沢蓮斗と言います。」
「あまり聞いたことがない名前ですね。どこか遠くからいらっしゃったのですか?」
どうしよう。さっきのヴィンセントって感じからして、ここで使われている名前は外国よりだよな。だとすると
「ここよりも遠方にある小さな国から来ました。」
「そうなのですね。本当に申し訳ありません。せっかく遠方から来てくださったのにこのような仕打ちをしてしまって。ヴィンセントは少しだけ過保護な所があって、このような事態を招いてしまいました。」
「いやいや、そんな謝るようなことじゃないですよ。こんな経験したことがなかったのでむしろ新鮮でした。」
「ふふ。やっぱり面白いですね。さっきは久しぶりに笑いました。あのように自身を名乗った者を見たことがなかったもので。」
「面白かったですか?良かった〜。僕の持ちネタの一つだったので笑ってくれる人がいて自信持てました。」
「そうですね。確かに面白かった。他にもあるのですか?そのようなネタ?というものが。」
「はい。もちろんあります。」
「では今度聞かせてください。」
こんなに長く女性と喋ったことは今までない。ルシエナ様ありがとう。
「それでは本題を話しましょうか。」
本題?なにかあったっけ?
「あなたが女神の使いであるということについてです。これは本当なのですか?」
「えーと。僕が女神様の使いというのは、半分合ってて半分違うというのが本音です。」
「半分違うというのは?」
「僕は女神様と連絡を取ることができるのですが、女神様から能力をもらっているわけではないんです。なので半分合ってると表すのが正しいかなと。」
「なるほど、やはりあなたが、、、」
「女王陛下そろそろお時間です。この物を広場へ移動させます。」
「あら、もうそんな時間ですか。では、また今度話しましょう。あなたならきっとまた私に会えます。」
「女王様。さっきの言葉って」
「おい、早く行くぞ。他の方々も待っておるのだ。」
僕は無理やりその場から動かされ、広場の方へと移動した。
「では、神の使いの力を見せてもらおう。」
魔法も扱うことができない僕がこの場を乗り切るのはほぼ不可能に近い。もう言い訳も出てこないし。ここで終わりか。
「蓮斗、聞こえますか。」
ルシエナ様の声が聞こえる。幻聴かな?
「幻聴などではありません。あなたならこの場の皆を驚かせる方法があるはずです。」
「なんでそんなこと。僕にだって思いつかないのに。」
「今までのあなたの人生でこのような場面は幾度もあったはず。その度に逃げ、諦め、流れるがまま過ごしてきた時も確かにありました。でも一つだけ。たった一つだけ、あなたが信念をもって続けていたものがあるはずです。」
信念?たった一つ?何の話だろう?
思い返せば僕の人生は失敗続きだった。母さんが教えてくれたピアノも、父さんが教えてくれたスポーツも何一つ続けることができなかった。そんな僕がたった一つ続けていたもの。
唯一自信を持って言えるもの。
その記憶の鍵は弟との思い出の中にあった。
あれは暑い夏の日のこと。
「兄ちゃん。外に遊びに行こうよ。せっかくこんなに晴れてるのに家にずっといるなんてもったいないよ。」
「弟よ、兄は今忙しいんだ。これが完成すれば、僕の絵はさらに進化するぞ。ふふふ。」
「ねぇねぇ。兄ちゃん。行こうって。」
「今回はパス。また今度な。」
今思えば、あの時の俺は弟のことを何よりも妬んでいた時期だった。両親に甘やかされている弟を見ていると、胸の奥から嫌な思いが込み上げてくるのが、僕は嫌いだった。
「もういい。僕一人で行ってくるから。」
「わかった。気をつけて行ってこいよ。晩飯前には帰るんだぞ。」
僕は弟にそう言った。弟の顔は、とても不機嫌で不満で今にも泣き出しそうな顔をしていたのを覚えている。
「じゃあ、行ってくるね。」
まさかな、本気で一人で行くつもりなのか?流石に冗談だろ。弟の当時の年齢はまだ5歳。とても一人で遊びに行くことができるような年齢ではない。それもあってか、僕は本気にしてなかった。
弟が外へ出て行ってから数時間が経ち、僕の絵はようやく完成した。
「できた。これは僕が今まで描いた絵の中で過去最高傑作に違いない。あいつにも見せてやろ。」
家中を探し回ったが弟の姿はなく、名前を呼んでも全然出てこない。いつもなら名前を呼んだら笑顔で向かってくる。
そんな弟の姿を思い出す。
「今日は言い過ぎたか、仕方ない。帰ってくるのを待とう。」
だが、弟はいつまで経っても家へ帰ってくることはなく、空も暗くなりはじめ、夕陽は沈みかけていた。
「まだ帰ってこないのか。どこまで遠くに行ったんだ。」
時間はもう6時を過ぎている。すると玄関の扉が開き母が帰ってきた。
「母さん、ただいま。」
母は僕に対して見向きもしてくれない。やっぱり僕はダメなやつなんだな。
そして母は弟がいないことに気づいたのか、僕に弟の居場所を聞いてきた。
「昼頃に遊びに行ってくるって言って、まだ帰ってきてない。」
僕がそう言うと母は僕の服を掴みながら泣いていた。この人は僕がいなくなったとしてもこうやって悲しんでくれるのだろうか?僕は子供ながらにそんなことを思っていた。
でも確かに、僕も弟のことが心配だ。母は泣き止んだ後急いで警察へ連絡を入れていた。
弟はどこに行ってしまったのだろう。後悔している。弟を一人で行かせてしまったこと。ちゃんと顔を見てやれなかったこと。一緒に遊んであげられなかったこと。
そんなことを考えていると自然に涙が溢れてくる。
僕が見つけるしかない。その責任が僕にはあるから。母が電話で警察に弟の特徴を話している隙に僕は夜の闇へと向かっていく。
「初めて夜に外に出た。」
外は思ったよりも明るく、まだお店の光が街を照らしていた。
弟がいそうな場所は大体見当が着くけど、どこも微妙に離れていて、明かりが少ないんだよな。
「よし、行こう。」
家に置いてある自転車を出し、こぎ始める。
待ってろよ。いま行くから。
山の中では、セミの鳴き声、木々を通り抜ける風の音、不気味なほどに暗い森。そんな中、一つ木の下で泣いている小さな少年がいた。
「どうしよう。家に帰れない。」
少年はどうやら山に遊びに来て迷子になってしまったらしい。こんな暗い場所に少年が一人。子供一人ではどうやっても森を抜け出すことができなかった。
「兄ちゃん、僕、一緒に遊んで欲しかっただけなんだよ。ただかまってほしくて、こっちを見てほしくて。」
いくら泣いても、後悔しても、それを森が吸い込んでいく。彼は後悔していた。兄の言うとおりに今度一緒に遊びに行っていればこんなことにはなっていなかった。
そしてこの少年は、空腹と眠気で今にも気を失いそうになっていた。
「助けて。兄ちゃん。」
すると
「当たり前だろ。どこに行ったって助けに行ってやる。」
ぼんやりとした目には兄のような者がかすかに写っていた。それを最後に少年は気を失ってしまう。
「なんだろうこれ。あったかくて、とても安心する。」
どれくらい眠っていたのだろう。気がつけば僕を背負った兄の姿がそこにはあった。
「お、起きたか。怪我とかしてないか?」
弟は僕の背中で泣きじゃくる。
「ごめん、ごめん。僕が兄ちゃんの言うこと守ってれば、こんなことにはならなかったのに。」
兄の足や服を見ると、どこも汚れていて、足は傷だらけになっていた。
「何言ってんだよ。たまたま夜に散歩したくなって、外へ出たらお前がいたんだ。本当にたまたまだよ。」
僕は兄の背中に顔を埋め
「ありがとう兄いちゃん。」
「ごめん、あんまり聞こえなかったんだけど。もう一回言ってくれない?」
弟がそんなことを言うなんて、珍し過ぎてこれが現実なのか夢なのかわからなくなってきた。
「何も言ってないよ。それより早く家帰ろ。お腹すいた。」
「お前が迷子になってたのが悪いんだろ。」
「迷子になんかなってない。もう少しで帰るつもりだったんだ。」
弟は少し強がっているようだった。
「そうか、それじゃあすぐに帰ろうな。僕のとっておきの絵も完成したことだし。見せてやってもいいぞ。」
「え、見せてくれるの。どんな絵なの?」
弟は目を輝かせながら僕の顔を覗き込んできた。
「仕方ないなー。少し早いが見せてやろう。」
僕はポケットからその絵を取り出し、弟に見せてやると
「かっこいい。ねぇねぇ僕にこの絵ちょうだいよ。」
よほど気に入ったのか、弟はその絵をまったく手放そうとしなかった。
「もう一人で遊びに行かないって約束できるんだったら、くれてやってもいいぞ。」
「わかった。もう絶対一人では遊びに行かない。」
「友達とか母さんとかに遊びに行きたいって頼めよ。そしたらいつでも遊びに行ってもいい。」
すると弟は満面の笑みで
「うんうん。僕が一緒に遊びに行きたいのは兄ちゃんだけだから。約束して。今度僕と一緒に遊びに行くって。」
断ったらまた泣きそうだしな。仕方ない。
「わかったよ。今度一緒に遊びに行こうな。」
「本当に?やったー。じゃあね遊園地。」
「そんなところ二人で行けるわけないだろ。しかもここから何時間もかかるんだぞ。」
「じゃあどこでもいいよ。兄ちゃんとならどこへでも、、、」
弟は、疲れ切ったのか僕の背中でまた眠ってしまった。本当に自由な奴だ。そして僕の自慢の弟でもあるこいつをいつまでも見守ってやりたい。そう心の中で誓った。
「そうだ。僕にしかできない、僕にしか描けないものがこの世にはある。」
すると蓮斗の右手に一本の鉛筆が現れる。
なぜ現れたのか、これで何をすればいいのか。
今は考えるよりも手を動かせ。ここにいる誰もが驚くようなそんな物を。
やるしかない。僕にできる精一杯の事を
「奴はいったい何をしてるんだ。」
「どうやら本当だったのですね。」
「女王陛下なぜここに来たのですか。この者の処遇など女王陛下にはなんの関係もないことです。」
「あります。私に、いや、この世界に関係のあることです。もちろんあなたにもね。ヴィンセント。」
女王陛下は何か知っているようだったが私にはそれが何か理解できない。
「何のことですか?」
「まぁ見てなさい。きっと驚くものが見れますよ。」
女王陛下は何を言っておられるのだ。このような者にいったい何の価値があるというのか。女神の使いというのはあの場を乗り切るための言い訳ではなかったということか?
「もうちょっとだ。ここをこうして。よし、できた。」
絵が完成した。すると僕の描いた絵が淡い光を放つ。
「うわ、何だこれ。何でこんなに光ってるんだ?」
光はどんどん大きくなる。すると光が大きくなるにつれ絵も変化していき、だんだんと実体が形作られていく。
そうだ。この生物は、僕が昔憧れた存在しない生物。弟と僕を繋いでくれた、そんなかけがえのない絵。
大きな翼に鋭い歯、赤い鱗に、大きな目、長いしっぽと大きなツノ。
「こ、これは。まさか」
そしてこの絵の正体が姿を現す。
「ド、ドラゴンだと。」
「はははは。やっぱり蓮斗、あなた面白いわ。こんなことができるとは流石に想定外です。」
僕が描いた絵が実態化した?何で、どうして。そんな考えが頭の中を駆け巡る。
ゆっくりとドラゴンの顔が僕の方へと近づいてきた。
「蓮斗、僕を描いてくれてありがとう。」
あれ、何だろうこれ。目から涙が
「ありがとうはこっちのセリフだ。」
僕が言い終わるとドラゴンは空へと飛び上がり大きな空の彼方に消えていった。
「やりましたね。蓮斗。さすが私が見込んだ人間。私はやっぱりすごいのです。」
目に浮かんだ涙を拭き取る。普通はさ、僕を褒めるところじゃない?なぜこの女神が自慢げなんだ。
「ルシエナ様はわかってたんですか?僕にこんな能力があるって事。」
「いえ、知りませんでしたよ?なんかこんな感じに言ったら、何とかなるかなと思っただけです。」
一瞬でも感謝しようとした僕の気持ちを返して欲しい。
「こういうのを日本では火事場の馬鹿力というのですよね。とても素晴らしい言葉だと思います。」
まぁこの場を乗り切ることはできたから今はよしとしようかな。あの堅物、いやヴィンセントだっけ?こっちに近づいてくる。まだなんかあるのか?
「おい、あれは何だ?本当に女神の使いなのか。」
どうしよう。この後のこと何も考えてない。仕方ないなんか適当に、あれ、、、
その言葉に答えようとした時、急に頭がふらついてくる。あれ、これやばくね?せっかく頑張ったのに、タイミング悪すぎるだろ。
そして僕の意識はそこで途切れた。僕の絵があんな事になるなんて、弟に話したら絶対驚くに違いない。あっちに戻ったら見せてやろ。
「ヴィンセント、この者の処遇は私が決めます。良いですか?」
「で、ですがこの者は現在罪に問われている罪人なのですよ?」
「私が言ったことに何か文句でもあるのですか?」
「いえ、分かりました。」
「そうですか、それならば良いのです。よし、では蓮斗を早く回復させるためにあそこに行きますよ。」
「え、あそこですか?女王陛下私はこの国を守るためにもここを離れるわけにはいきませんので、申し訳ありません。」
たとえ女王陛下の命令でもあそこだけには行きたくない。そんな感じが言葉を言わなくても女王はわかっていた。
「そうですか、では私一人で行ってきます。」
「何を言ってるのですか、それはいけません。もしも女王様の身に何かあったら。」
「大丈夫ですよ。ちゃんと護衛もつけるし。それにたまには外にも遊びに、、おっほん。えー外へ視察に行くのも悪くないかなと思いまして。」
ヴィンセント、かなり迷ってますね。いつもは堅物だからからかいがいがあります。
「分かりました。では腕利きの護衛をつけるので、どうか危険なことはしないようにお気をつけてください。」
「分かりました。それではさっそく向かいます。皆さん今日はお集まりいただきまして誠にありがとうございました。では。」
広場にいた者たちは皆、今日のことを忘れることはできないだろう。
そして広場にいたある者はこう語った。
あの時見た物は、夢でも幻でもなく確かに現実であったと。
他にも、城の中からドラゴンのような物が飛んでいく姿を見たという者が城に殺到した。
果たしてあれは何だったのか。
蓮斗の能力とは絵を実態化させるものなのか、女王は一体何を知っているのか。
それが分かるのはもう少し後のお話。




