亡国国王、聖女との出会い
キルケー・ソウダート。
ソウダート王国の国王だった。
そう、過去形である。大国の公爵家よりも規模が小さい程の小国ではあったものの、自然は豊か魔物も少なくて幸せな笑い声が響く、とても…とても居心地のよい国であった。
そんな大切な国を彼は、1日で失った。
響く声は笑い声ではなく悲鳴。
ここら辺では居ないような魔物。
魔物たちに喰われていく国民。
荒れていく自然。
目に入る物全てが拒絶したくなる様な光景であった。
「ここは私達が食い止めます!国王様、お逃げください!…死ぬなよ、キルケー。行け!」
そう言ったのは、彼の乳兄弟である幼馴染み。
「て、敵は…っ、魔物を指揮…した…ろーぶの、男…」
彼に長年付いてきてくれた影が命と引換に持ち帰ってきた情報。
「最後まで命懸けで国王様をお守り致します。」
そう言って、支えてくれた騎士団長。
「ソウダート王国は…まだ…国王様がいらっしゃいます。だから…また…。」
励ましの言葉を掛けてくれたのは、宰相。
しかし、彼は絶望で心が折れそうになっていた。
命より大切な王国を…国民を…先祖代々守り続けられてきた全てがなくなった。
「生きろ」と親友に励ましと、数少ない残った部下達が居なければとっくに諦めていた。
隣国のヴェルナー公爵領に逃げ込み街には入らず、隠れるようにして洞窟内でサバイバルの様な生活を送ってきた。
生き残った者は、それなりに腕の鳴るものが多い。ただ、服装にバラツキがあり、時期的に他国から盗賊が流れてきている事もあり、街道に出れば盗賊に間違われる事が多いのだ。
勿論、ソウダート王国が何者かに襲われて地図から消えた事はコチラにも伝わって居るだろうし、公爵領は豊かだ。事情を説明すれば匿ってくれる可能性が高い。
だが街へ行くまでに捕まり、奴隷になってしまう事は避けたいので、街道沿いで隠れ情報収集を行った。
曰く、白銀の公爵令嬢は創造神の加護を受けている
曰く、黒髪の侯爵子息はオオカミの獣人ハーフで、月の女神の加護を受けているらしい
曰く、公爵令嬢が白銀のドラゴンとペガサスをテイムした
曰く、こちらの方角に外国の盗賊退治に向かっている軍を率いていたのを見た
そんな情報に賭けることにした。
噂でしかない。だが、もうどうにでもなれと言う気持ちが強かった。
自分はもう、国王でもない。あの日に全て失った。ならば…。
「お前らの一番上は誰だ!話がある!出てこい!」
私が言葉を発する前に、右腕であるボスナーが乱暴な言葉で騎士団を煽った。
ボスナーは、元々孤児で私が拾った。それまでの極貧生活で身に付いた動作が、極度に緊張している時に出てきてしまう。
その悪癖が最悪の形で出てしまった。
「出せる訳ねぇだろ、盗賊野郎!」
「そうだ、そうだ!」
「宝を渡せと言われて渡すバカがどこにいるんだ!」
正論で返す言葉もない。私たちは盗賊野郎ではないが、騎士達の立場になれば同じ事を言うだろう。
「皆、静まれ!」
「私は、話を聞く為に前に出る。各自、小隊事に周囲警戒に当たれ。」
そう言って出てきたのは、見た目年齢8歳頃の白銀に髪が輝いていてアメジストの瞳が綺麗な少女だ。
…なぜ「見た目年齢」なのかと言うと、耳が木の葉を伸ばしたような…いわゆるエルフの耳であったからだ。エルフは初めて見たが、自然に跪きたくなる様な…私は国王だったが、本当に高貴な存在とはこういった人なのだと感じる。
そして、少女が跨っているのは馬は馬でもペガサス。横に浮かんでいるのは、小さめのドラゴン。
私だけでなく、全員跪いてから少女は口を開く。手には槍と剣の間を取ったような長柄の武器。見た限りでは、相当のマジックアイテムのようだ。
「先程は私の所の騎士団員が失礼した。私はハルノス・ヴェルナー。ヴェルナー騎士団遠征隊隊長だ。…名前を聞かせてもらっていいか?」
「ハルノス様、乱暴なお言葉でお引き留めしてしまい、申し訳ございません。私はキルケー・ソウダートと申します。こちらはボスナー。私の右腕でございます。先程は失礼な事を言い、申し訳ございませんでした。」
「楽にして良い。その事はこちら側も応戦してしまったため、不問にしよう。何故、騎士団を引き留めたのだ?」
公爵領にやって来た経緯、街にさえ入れず困り果てていることなどを話していく。
その間、ハルノス様は勿論先程までこちらを憎々しげに見ていた騎士達も話を聞いてくれていた。
「事情は分かった。ただ、どうするべきかの決定権は私にはない。領主である父に連絡し、指示を仰ごう。」
「ありがとうございます!」
『ありがとうございます!』
本来なら、あんな失礼な事を言って、無礼だと首を取られていてもおかしくなかった。
本当に…この方は、創造神様の…。
もし…もしも、街に入ることが出来たなら。
このお方にお仕えしたい。初めてそう思う人に出会えた。




