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2043 ーリテラ・ノヴァの予言ー  作者: 砂東 塩
Chapter13 渦中
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#88 妥当な対応

「はあ?」と、合田部長が間の抜けた声を出した。


「惣領。ここまで話しておいて、今さら〈漆黒の夜【公式】〉じゃないかもしれないと言いたいのか?」


 蒼君は「はい」と当然のようにうなずく。


『予言に便乗した、別のハッカー集団の仕業という可能性もありますよね。いずれにせよ、相手は大手企業の広告システムにハッキングするだけのスキルは持ってるということです。

 インサイト・エンジンとハッカーの交渉は警察も把握していたはずですが、どのくらい関与していたのかはわかりません。これまでどんな交渉をしてきたのかも知りようがないです。

 でも、インサイト・エンジン側が気づいていない可能性も考慮して、伊藤刑事にはひと言伝えておきたいです。うちが口出しすることではないとは思いますけど、電話しても構いませんか?』


 この質問は、合田部長に対してのものではなかった。佐伯部長は数秒考え、「そうね」とうなずく。


「それに、楽々バザールや、異変のある他のサイトにも問い合わせておいたほうがいいかもしれないわ。サイト側からもインサイト・エンジンに報告がいくだろうから」


『それはやっておきました。普通の顧客のふりをして、広告がおかしいですってメール送付済みです』


 一希君が言うと、佐伯部長はフッと表情を和らげる。


「仕事が早くて助かるわ。新田君が落ち込んでるかと思って小山内さんにも同行してもらったのに、思ったよりメンタルは強いみたいで安心した」


『あー……、いえ。正直に言うと、こんなふうに気遣ってもらえるのは予想外というか。本当に、感謝してます。

 メンタルが強いのかはわかりませんが、大元は自分が関与してることだし、何もせずにじっとしてるのは逆に怖かったんです。それで、問題なさそうな範囲で予言関連のことを調べてました』


「新田は、なんやかんやで自分から首突っ込んでるよなあ。結城先生のこともだし」


 一希君は反応に困った様子で微妙な笑みを浮かべ、その隣で蒼君が『そうですね』とうなずいている。


『新田さんは面倒見が良すぎるんです。ということで、僕はこのまま新田さんの家で寝て帰ります。伊藤刑事には僕から電話かけておくので、あとはお願いします』


 蒼君はそう言うと、大きなあくびをしてから電話をかけ始めた。そう言えば、彼は夜勤明けだ。


『じゃあ、また何かあったら連絡します。お疲れさまです』


 一希君と小山内さんがペコッと頭を下げ、通信は切れた。執務室には4人分のため息。


「あとは警察に任せるしかありませんが、世間は『やっぱり犯行予告だった』と騒ぐでしょうね」


 糸井部長の言葉にうなずいたその時、私の手の中でスマホが鳴った。見ると蒼君からだ。


「もしもし。伊藤刑事に電話してるんじゃなかったの?」


『終わりました。それより、新田さんのことばかりで京スポの記事のことを話すのを忘れてました。あの記事にあった元司書って、三野さんですよね?』


「だと思う。京スポなんかの取材を受けるようには見えなかったのに」


『そうですか? 自分の翻案抜粋だけは予言だと信じてるみたいだったし、品は良さそうだけど、承認欲求は強いほうだと思いました。

 三野さんのPitterアカウント「Min」の投稿も確認したんですけど、新文部内のこととか、予言のこととか、あとはライブで僕らに会ったことを匂わせるような投稿もしてました。けっこう目立ちたがりですよ。僕と理久さんが撮られた写真もリポストしてたし』


「そうなの? 教えてくれればよかったのに」


『あ……、隠してたわけじゃないです。うっかり忘れてただけで、でも、すいません』


 慌てる蒼君の姿が見られないのが残念だ。隠しごとをしないという約束を、ちゃんと守ろうとしてくれているのだろう。


「いいよ。色々バタバタしてたのはわかってるから」


『じゃあ、元司書のことは理久さんから伝えておいてください。どういう経緯で京スポと接触したのかはわからないけど、三野さんがリテラ・ノヴァの登録ユーザーなのは間違いないので』


 通話を終えると、3人の視線がこちらに向けられていた。私が京スポ記事の『元司書』について説明すると、「意外な伏兵がいたわけか」と合田部長が苦々しい笑みを浮かべる。


「惣領と本宮さんの写真を見て、自分たちに接触してきたのがDRI職員だって知ったんだろう。探られたと思ったのかもしれない。まあ、実際そうなんだから仕方ないが」


「三野さんには、連絡をとろうと思えばとれると思います。PitterのDMが開放されてたはずなので」


 言ってはみたものの、予想通り佐伯部長は「やめておきましょう」と首を振った。


「今回の京スポ記事に正面から反応するのは良い手とはいえないわ。最初に言ったように、サイトに掲載中の経緯説明文に追記して、新田君の謹慎処分決定までの事情を説明しましょう。その後で追記のことをPitterでアナウンスして、あとは様子見。合田部長と糸井部長はどう思いますか?」


「妥当だと思います」と糸井部長はうなずく。


「『どうせ京スポだから』と半信半疑の人も少なくないでしょうし」


「京スポ相手にキャンキャン騒げば騒ぐほど、『やっぱり何かあるんじゃないか』って見られるのが関の山ですからね」


 合田部長も佐伯部長の方針に賛成のようだった。


 追記内容については佐伯部長が秦さんと検討して早急に掲載することになり、キュレ部では京スポ記事へのネットの反応を調査・監視することになった。


 自席に戻ってパソコンを起ち上げ、Pitterで『京スポ』『DRI』と検索すると膨大な量の投稿がヒットする。見ている間に次々と新しいポストがされて、世論という津波がDRIを飲み込もうとしているように感じた。


 人々は〈漆黒の夜【公式】〉の投稿を「犯行予告」とする一方で、鼠小僧やアルセーヌ・ルパンのような義賊として持ち上げ、「正義の制裁」という言葉がトレンドに乗った。


 DRIは「裁かれるべき罪人」とされ、そしてこの日の午後。「正義」の名のもとで、一希君の名前、経歴、写真までがPitterに出回り始めたのだった。

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