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2043 ーリテラ・ノヴァの予言ー  作者: 砂東 塩
Chapter11 サイバー犯罪
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#69 サニーディ・ワイド

 6月23日火曜日。DRIオフィスはいつもと同じようでいて、みなどこかソワソワしていた。


 昨日、斉田さんと堂坂府警の刑事と匠真が帰ったあと、会議室では今後のこと――主に、一希君の処遇について話し合いが持たれた。


 その結果、一希君は当面通常業務からは外れるが、別室で今回の事件に関する調査業務を行うこととされた。別室と言ってもAI開発・アルゴリズム研究部内にあるガラス張りの特別な部屋らしく、つまり、常に監視状態に置かれることになる。


 彼の犯した罪については基本的に伏せることとし、当初は4人の部長、及び当事者の私と蒼君だけの秘密にと考えていたが、同じフロアで過ごす9階メンバーが不信感を抱くのは目に見えていて、結局、彼らにも一希君の倫理規定違反に関しては伝えることになった。


 それ以外に決まったことと言えば、一希君を西京大との共同研究から外すこと。蒼君がいないと成立しない研究のためDRIとして研究から撤退するという判断は見送られたが、一希君の抜けた穴は埋めないまま現状維持ということになった。


 9階の雰囲気がどんなことになっているのか、私は朝からずっと気になっている。しかし、あまり8階と9階を行ったり来たりしていては他の職員にまで怪しまれるため、大人しくキュレ部にいた。


 Deeeeep解散予言とライブでの事故は、今がピークといった様相でメディアを賑わせている。


「理久、ニッポンテレビで始まったみたい」


 市原に手招きされて彼女の席に行くと、パソコン・モニターに映っているのは『サニーディ・ワイド』というワイドショー。櫻井さんも「何やってるの?」とやって来て、鑑賞会が始まった。


 MCはニッポンテレビの顔になりつつある中堅アナウンサー生瀬新。出演しているのは芸能コメンテーターの岡垣紫月、サイバー犯罪対策専門アドバイザーで元警察官の山本透、社会派ベテラン芸人のタクマン、それと、若手人気アーティストのMOkaだ。


『さて、連日お伝えしております、人気アイドルグループDeeeeepのライブ会場での事故。そして、それに先立つ予言めいたPitter投稿についてです。

 昨日正午、関係各所……つまり、芸能事務所スターライト・ネクストと、AI翻案図書館を運営するNPO法人ディープ・リーディング・イニシアティブから公式見解が発表されました。まずは、VTRで経緯を振り返りたいと思います』


 VTR映像では、翻案予言botによるDeeeeep解散予言とライブ会場での事故と被害状況、その原因となった翻案予言botのデマ投稿、さらにそれが乗っ取りによるものだったということまでが簡単にまとめられていた。


 その後、SLNとDRIの公式声明文が順に映し出され、アナウンサーの生瀬が何箇所か抜粋を読み上げる。さらに、匠真が昨日投稿した翻案予言botの状況説明文。続いて、昨夜のうちにリテラ・ノヴァサイトにアップした謝罪文。


 謝罪文というのは、非公開データの流出に関するものだ。今のところは「不正アクセスによる情報流出の可能性があり、現在調査中」「捜査事案のため、詳細は公表できない」という、昨日警察と擦り合わせたままの文面。


***


MC生瀬: では、もう一度声明文を映しましょうか。これですね。SLNとDRIの両社が「フェイク写真であること」「警察に協力し、調査を進めていること」を強調しました。特にDRI側は昨日の夜になって「不正アクセスによる情報流出の可能性」にも言及しました。これは捜査過程で判明したものということなんでしょうが――。

 スッポンの異名を持つ名物芸能レポーターの岡垣さん。事件の被害者と言えるこの2社の発表を受けて、世間の反応はどうでしょうか。


岡垣:そうですね、SLNの対応は非常に迅速で、ハヤトさんのスキャンダルという最悪の事態は回避できた形です。

 しかし、Pitterを見ていると「本当にデマなのか?」「事故は本当に防げなかったのか?」という疑問の声は根強く残っている。これは、あの事故がサイバー犯罪と絡んでいるとわかったために、様々な憶測を呼んでいるように見えます。翻案予言botの投稿も、DRIの昨夜の発表も、結局は裏でどんなことがあったのかにはまったく触れていません。警察から情報を漏らさないよう言われているとしても、もう少し説明があって良いのではないかと思います。


MC生瀬: たしかに。「捜査中です」「話せません」では納得いきませんからね。

 えー……、では。続いて、サイバー犯罪対策専門アドバイザーの山本さん。元警察官から見て、DRIが昨夜発表した「不正アクセス」という言葉が持つ意味合いについて解説いただけますか?


山本:この「不正アクセス」という言葉は非常に重い。単に翻案予言botというアカウントによるデマ拡散であれば、企業イメージの毀損で済みます。しかし、その翻案予言botは「乗っ取り」を主張し、その後に過去の投稿をすべて削除している。

 当然ながら、DRIの言う「不正アクセス」はこの乗っ取りのことではありませんから、DRIにも何者かによる「不正アクセス」があったということです。警察の捜査対象となっているということは、おそらく予言の元になっている翻案データが漏洩したのではないかと推測しています。


MC生瀬:流出したのは翻案データと思われる……ということですが、リテラ・ノヴァ登録者の個人データなどは流出してはいないと考えてよろしいでしょうか?


山本:個人情報の流出があればそういった発表があるはずです。調査中ということなので断言はできませんが、個人情報が漏れた可能性は、私は低いと考えています。

 いずれにせよ、こういった不正アクセスがあったということは、DRIだけでなく、翻案予言botもサイバー犯罪の被害者であるということを示唆しています。

 警察が動いている以上、これは単なるいたずらでは済まない、組織的な、あるいは高度な技術を持った犯行という可能性もある。当事者であるSLN、DRI、翻案予言botが揃って警察の捜査への協力をアピールし、詳細を伏せるのも、こういった犯罪捜査ではありがちなことです。とはいえ、これだけ世間の関心事になっているわけですから、人々に不信感が残るのも仕方ない。

 私の隣のタクマンさんも、ずいぶん不機嫌な顔をしてますからね。


タクマン:この顔は生まれつきや!


MC生瀬:いやいや、タクマンさんは普段は恵比須さんみたいな顔されてますよ。密かに拝んでるくらいです。


タクマン:また調子のええこと言うて。

 でもまあ、不満があるのは山本センセの言う通りですわ。結局、どんだけ難しい言葉を並べられても、国民が知りたいのは「なぜ事故が起きたのか」「予言は本当にデマだったのか」ちゅうことですやろ?

 ハヤト君のスキャンダルはフェイクだとわかった。それはええ。だとしてもや。ライブ会場で、あんなぎょうさんの人が予言に踊らされて、怪我人まで出てもうてる。

 予言を信じるなっちゅうんは、また別の話や。SLNは予想して警備強化した言うてるけど、警備員増やしただけちゃうんか? 

 DRIも翻案予言の拡散を憂慮してたみたいなこと言うてるけど、ホンマに何もできへんかったんか?

 できることせずにおって、犯人の「不正アクセス」を許したんちゃうか?

 さっき山本センセは予言元になった翻案が流出したんちゃうか言うたけど、なんでそれがライブの事故と繋がるんか、俺にはさっぱりわかれへん。肝心なとこが全部ぼかされとって、何のクイズや言いたいくらいや。


岡垣:タクマンさんの言う通り、何が起きてるのかわからないっていうのが一番の問題ですよ。翻案予言の火付け役と言ってもいい翻案予言botは、過去の予言文を全部削除して「全部捏造だった」と言ってますけど、それだけじゃ何の火消しにもなってません。

 Pitterを見ると、翻案予言botの過去の予言文のスクショがたくさん出回ってます。そのどれにも「当たった」というコメントがたくさんついてる。間違いなく、翻案予言botの予言を未だに信じてる人はいるんです。彼らに現実を突きつけて目を覚まさせるには、いったい何があったのかをちゃんと説明してもらわないと。


MC生瀬:えー、ゲストのMOkaさんはこの事件どう感じていますか?

 同じ若手アーティストとして、何か思うところがおありかと思いますが。


MOka:私、Deeeeepさんの曲はよく聴くんですよぉ。だから、今回の件は本当にショックだったんです。

 スターライト・ネクストさんは大きな事務所だし、きっと大丈夫だろうと思うんですけどぉ、やっぱり、怖いじゃないですか?


MC生瀬:怖いというのは、もし自分の身にも同じことがあったらという意味ですか?


MOka:ですです。

 もし、私のライブでも同じことがあったらどうしようとかぁ。あとは、PitterでDeeeeeepさんの個人情報が漏れたんじゃないか〜って言ってる人もいてぇ、私は大丈夫なのかなって。


MC生瀬:山本さん、今MOkaさんがおっしゃったことについて聞かせてもらってもいいですか?


山本:Deeeeepの情報が漏れたということはないと思います。今回、ハッカーのターゲットになったのは翻案予言botとDRIですから。

 平井颯人さんがDRIと翻案契約を交わしているので、彼の個人情報がDRIのサーバーにあるのは間違いありませんが、もしそれが漏れていたり、もしくは痕跡があっただけでも、声明文などで済まさず会見を開いているはずです。


MOka:でもぉ、私もPitterとかやってるし、いろんなサービスとかアプリとか登録してるのでぇ、やっぱり心配。

 

山本:こういう事件があると、みなさん自分の情報は大丈夫なのかと心配になると思います。そういう際にセキュリティを見直すのは良いことです。

 普通に暮らしているとサイバー犯罪の脅威は身近に感じないかもしれませんが、この事件でちょっと話題になったDRIのAIエンジニアの惣領蒼さんなんかが、まさにそういった脅威から情報を守る仕事をしているわけです。

 彼は高専時代に天才と騒がれていたようですが、今回はハッカーにしてやられたということでしょう。DRIはデータガバナンスについて、改めて見直す必要があります。でないと、登録者は安心してリテラ・ノヴァを利用できませんからね。


タクマン:山本センセ。それがハッカーの本当の狙いっちゅうことはないんですかね?

アイドルのハヤト君が狙われるのは、まあ、俺もこういう商売やからわかります。売れれば売れるだけ、恨みや妬みを知らんうちに買ってますわ。

 でも、ハヤト君のデマに利用されたDRI職員っちゅうのは一般人ですやろ?

 知名度の高いアイドルを利用して、実際はDRIか、この職員に個人的な恨みを抱いてるっちゅうことはあらへんやろか。


山本:その可能性はゼロではないと思います。しかし、公にされた情報は限られていて、現時点ではなんとも言えません。平井颯人さんとのニセ密会写真の元になった写真が、ハッカーが用意したものなのか、それとも翻案予言botのものなのか、それともまったく別のとこから用意したものなのかもわかっていません。


MC生瀬:山本さん。翻案予言botは、あのアカウントで今後何かしら発信をすると考えられますか?

 または、プラットフォーマーによってアカウント削除されることなどもあるでしょうか?


山本:そうですね。まずプラットフォーマーによるアカウント削除の可能性は十分にあります。特に、今回の騒動で社会的な影響が大きくなっていますから、利用規約違反や公序良俗に反する行為があったと判断されれば、運営側が強制的にアカウントを停止する措置を取ることは十分に考えられます。

 しかし、翻案予言botが今後何かしらの投稿をするかというと、その可能性は低いでしょう。すでに「乗っ取り」を主張し、過去の投稿を全て削除している上、警察への協力も表明しています。

 むしろ、厄介なのは騒動に乗じて『なりすましアカウント』や『模倣犯』が出てくる可能性です。実際、なりすましはいくつか見つかっていますから。


タクマン:センセ、それって、予言信者が別のアカウントで「予言」を広めようとしてるっちゅうことですか?


山本:というより、インプレ稼ぎのためでしょう。予言信者は、なりすましアカウントを通報してアカウント凍結させているようです。


タクマン:なんや、わけわかれへんな。


岡垣:結局、大事なのは不確かな情報に振り回されないことですよね。フェイクやデマはもちろん、予言も同じです。


MOka: 私ぃ、予言とか気にしちゃう方なんですぅ。占いとかも「当たるはずない」って思いながらもつい見ちゃって。

 あっ、そう言えばこの番組も占いコーナーありますよねぇ。あれも信じないほうがいいですかぁ?


MC生瀬:えー……、せっかくなので、占いコーナーは見てもらってですね、当たった時だけ信じてもらえれば。


MOka:なにそれぇ。岡垣さん、どう思いますぅ?


岡垣:当たらなくてもかまわないという軽い気持ちで、個人で楽しむぶんには問題ないと思いますよ。

 今回の件で問題なのは、予言を利用して世間を混乱に陥れようとしたことですから。


MC生瀬:岡垣さんから、至極まっとうなご意見をいただきました。みなさま、占いコーナーは当たらなくてかまわないという気持ちでもって、あくまでも個人でお楽しみください。

 では、えー……。CMを挟んで、この夏公開予定の長編アニメ映画『迷刑事トーマの四次元鞄〜漆黒星のヴォルフガング〜』の製作現場に潜入しました。

 話題のDeeeeepメンバーが初声優に奮闘する様子を取材しましたので、ぜひチャンネルはそのままで。






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