九十四話 はじまり
二〇八一年 九月
暁啓はとある村に流れ着いた。
北へ車で走り、たどり着いた。
人間ではない人間の住む村。
【神馬村】
暁啓は村の人間からすれば不審者に他ならない。
「何者だ?」
若い男――暁啓と同じくらいの年齢の男は村の入り口に停められた車を目撃し、警戒を強めながら暁啓に近づいた。
「怪しい者ではない」
「……」
両手が空であることを示して警戒心を解こうとするが、状況が状況だ。
簡単には空気は変わらない。
「少しの間でいい。住む場所を探している」
「どこから来た?」
「転々としている。碓氷さんという人に聞けばわかるはずだ」
「……確認する」
昔の縁を持ち出して交渉を一つ。
数年前にC2の外に出た際に立ち寄ったことがある。
それだけの理由だが、藁にも縋る思いに違いはない。
暁啓は基本的にC2の中で生きてきた。
唯一の外との接点。
「ところで、名前は?」
村へ歩き出した男は振り返って問いを一つ。
「那須暁啓」
「……あぁ、それと」
「ん?」
「君は一体何ができるんだ?」
「なんでも」
「…………期待しよう」
若い男が村に入ってからしばらくの時間を空けて軽トラックが一台現れた。
降りてきた老父……碓氷は舐めるように暁啓を見る。
「お久しぶりです」
「……おぉ! 久しぶりだなぁ! 元気にしとったか?」
挨拶を一つ投げたところで碓氷は暁啓を思い出した。
まるで孫にでも会ったかのような笑顔が咲いた。
「ボチボチです」
「ほんで今日は何?」
珍客と呼んで差し支えないだろう。
暁啓に対して常套句のような言葉ではあるが、心の底からの疑問を投げる。
「色々とありまして……簡単に言えば追い出されまして」
「追ん出された? 何さした?」
「方向性の違いといいますか……」
「バンドみてぇな理由だな?」
「あはは……」
「んで、どーすんの? ここ以外にアテなんてなかんべ?」
暁啓からの曖昧な返事を見て、何かしらの理由があると察した碓氷は深くは切り込まない。
だが心配はしている為、これからを尋ねた。
「えぇ。とりあえず少しの間お邪魔して、その後は放浪でもしようかな。と」
「そーけ。んまぁ、皆には話しとくからゆっくりしてけ」
「ありがとうございます。もちろん協力できるところはしていくつもりです」
「あれ、ほんとぉ? んじゃ早速頼もうかね」
「よろこんで」
お世話になる以上、何でもする。
それを当たり前と思う人間性を暁啓は持ち合わせていた。
故に内容を聞くまでもなく即座に快諾を返す。
「よし、歓迎会すんべ」
碓氷は笑顔を咲かせる。
「かんげい……かい?」
「お前ぇの歓迎会さすんべよ。今日は寝ずに楽しむべ」
まさか酒は飲むよな? その言葉を付け足した碓氷。
言葉の意味を理解し、自分の酒の強さを思い出した暁啓。
「……あっ……よろこんで」
深呼吸の後、心を落ち着かせてから――
――引きつった快諾を返した。
こんにちは、
下野枯葉です。
本当にお久しぶりです。
なんとか生きております。
さて【はじまり】
この物語の始まりはどこだろうと考えた時。
C2誕生がはじまりであると思ったのですが
その他にも、いくつもの【はじまり】があることに気づきました。
なので、重要な6章にこの題を置きます。
暁啓の約束がなければここですべて終わってしまっていたでしょう。
何者にも成れず、嘆くことさえできない。
只の童でいられた……のかもしれません。
これから始まる夢のような時間は本当に夢であれば良かったと
私は心の底から思います。
えぇ。
本当に。
さて、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




