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38 アルバイト日和6

 三人が慌ただしく、少し離れた隣りのテントに向かった。

 頭にターバンを巻いた、いかにも砂漠の民といって風情の男二人。髭の青年ザァイと髭の初老イシュマシュ。

 男たちを呼びに来た黒髪の女性は二人と同じ浅黒い肌をしており、やはり二人と同じくゆったりした袖付きローブとズボンを着ていた。

 男たちの青い目とは違って、女の人は淡い茶色の瞳をしていた。


 辺りは夕暮れが始まっていた。

 雲のない空は、まさに全面が空って感じで、黄金を思わせる朱色から徐々に白く、そして灰色を混じえ、やがて濃い紺色になるまでのグラデーションが綺麗だ。

 天を覆うような星雲が、薄っすらと浮き出ている。

 真横からの太陽光も砂漠の砂丘に立体的な影を作っている。砂地の風紋のひとつひとつが浮き上がって見えた。これもまた、とても綺麗で目を奪われる眺めだった。


 神秘的な一幕に心を奪われていたけど、向こうのテントの中から「くそったれめっ」と悪態をつく声が聞こえて、気持ちが現実に戻った。

 さっき毒がどうとか言っていたな。

 誰か倒れているんだろうか。


 でもまあ、あれだ。

 少し心配な気持ちはあるけれど。

 部外者が顔を出すような状況じゃないだろうな。

 だって毒なんて素人だし知識も無いし、とくに力になれるとも思えないし。

 関わったって邪魔になるだけだ。


 それより俺は砂漠の誘導灯の塔がどんな感じになっているのか、しっかり確認を取っておかなくちゃいけない。

 三浦さんと、もう一人の水田という大学生もだけど、あの砂漠の洞窟から出て来たのなら、まず間違いなく始まりの街イチザートへ向かっているだろう。

 ここから徒歩で五時間程かかるって話しだったが。


 多分俺は、南側に大回りしながらイチザートを目指していたのだと思う。

 あの洞窟から始まりの街までは、直線だとそこまで離れていない可能性が高い。

 彼らは、何かしらの移動手段を持っていたかも知れないし。


 あぁもう色々後手に回ってる気がする、早くイチザートに行って三浦さんの手がかりを探したいよ。

 しかしこうなるとやっぱり、探索や捜索のスキルが欲しいよなぁ。

 大きな都市らしいし、探し回るのが大変そうだよなぁ。

 あるいはユンピアなら何か良い対策を知ってたかもだけど、ここに居ないからな、あいつ肝心な時に役に立たないんだから。


「マレビト! 待ってくれマレビト!」


 塔の様子を確認するためテントから離れて歩き出したら、後ろから声をかけられた。

 振り返ると表情の歪んだザァイがいた。

 浅黒い肌なので分かりにくいが、青ざめているようにも見える。


「なにか?」

 只ならない様子に、用心深く返す。

 なんか知らんが、そんな顔で見られても困るぞ。


「お前はマレビトなのだろう、女神の祝福を受けているのだろう。その祝福で俺の息子を救ってくれないか!」

「は?」

「頼む、このままだと夜まで持たない、死んでしまう!」

 え、いきなり何を言ってるの。

 無理に決まってるじゃないか。

 そもそも祝福ってギフトの事だよね。俺のギフトってマーキングした場所にワープできる能力だから、治療っぽいのを期待されても困る。

「ええと、悪いけどそんな力は持ってな……」

「そこを頼む!」

「いやだから」

「私からも頼む!」

「ええーっ」

 いつの間にか初老のイシュマシュまで来ていた。

 両膝を地面につけて、両手で反対の腕のひじを持つような姿勢を作る。

 そうやって俺の目を見るのだが、相変わらず眼力が強い。

「先程は失礼な態度を取ってすまなかった。しかし私は間違いに気づいた。この時にこの場所で稀人に会ったのはきっと女神ダーナの導きだろう。救いの手が用意されていたのだ」

「いやいやいや、それはどうかと」

「差し出せるものなら何でも差し出そう、孫のシランジュを救ってくれるのなら私の命でもかまわない」

「まてイシュマシュ、それは駄目だ、もしも命を差し出すのなら俺の命だ」

「ザァイよ、私の決意と私の言葉を盗んではいけない」

「いや、そこは譲れない」

「待った、ちょっと待った!」


 冗談じゃない、いったいどんな勘違いをしているんだ。


「あの本当に無理ですよ。確かに俺は稀人なんでしょうけど、何でも出来る万能じゃありません。むしろ程遠いです」

「そんな……」

「いや、だが」


 ある種、不毛な言い合いをしていた二人が顔を見合わせる。


「別に俺が腹を立てて拒んでいるわけじゃないです。出来ないんです。女神からの祝福もプレイヤーひとりに対して一つだけ与えられるもので、俺のギフトは怪我や病気、毒などの治療に使えるものじゃありません」

 まぁもしも、だ。もしも俺がRV四号型からログインしていれば、今すぐ毒を消す治療魔法を習得できたかも知れないが。

 現状では不可能だ。

 スキルを覚えるためには自分のマイルームに戻る必要があるけど、そもそもユーザーインターフェイスが脳裏に浮かばないから、選択したくても選択肢が表示されない。

 まさに手も足も出ない。


「……それじゃ本当に駄目なのか」

「はい、残念ですけど」

「だったら、どうすれば良いんだ!」

「ザァイ、落ち着け」

「落ち着けだと! あんなに苦しがっているシラに何も出来ないんだぞ。……くそ、あの毒消しを売った商人はいつか見つけて殺してやる。金貨2枚も払わせたくせに、たかが白サソリの毒も消せないとは!」

「違うぞザァイ、毒そのものは弱まっているのだ。白サソリは全身を麻痺させて心臓も止めてしまうが、シラは呼吸をしているじゃないか」

「だったらどうして!」

「分かっているだろうシラはまだ3才だ、始めから砂漠超えには不安があった。そこに来て白サソリの毒だ、疲れ切った幼子には負担が強すぎたのだ」

「そんな馬鹿な……。毒消しを飲んで寝ていれば治るんじゃないのか!」

 イシュマシュが首を振る。


 だけど、ちょっと待って。

 毒は薄まっているの?

 問題ないくらいに?

 本当なら回復できたはずなのに、身体が弱りすぎて治らないって話しなのか。

 問題がそれだけっていうのならば。

 もしかして何とかなるんじゃないのか。


「あの……」

「何だ稀人、いや無茶を言ったようで悪かった。私達はしつけの出来ていない犬のように飛びついてしまった。恥じ入るばかりだ」

 イシュマシュは沈んだ口調で、それでもしっかり謝罪を口にする。

 思い込みが激しくて付き合い難いが、誠実な人柄を思わせる。

「いえ、それは大丈夫です。それよりも毒の話しですが、本当なら問題ないのに、体力を消耗してるから回復しないのですか」

「その通りだ稀人よ、毒消しを飲んだのが大人であれば数分で回復しただろう。しかし砂漠を渡って疲れ切った幼子には耐えられなかった」

「うん、だとしたら……」

「な、なんだマレビト! 何か手があるのか!」

「だから落ち着くのだザァイ、だが、ふむ、何か良い手立てがあると言うのか!」

「いや待って、確実ってわけじゃないですからっ」


 いきなりテンションの上がる二人に戸惑ってしまう。

 手立てがあるっぽく口走ったのは早計だったろうか。

 でもこれは毒ではなくて、体力の問題らしい。

 という事は、要するにHPの管理の話しじゃなかろうか。


 俺は回復魔法が使えるわけじゃないけど、仲間のヒットポイントに直接関われるスキルを持っている。

 HPリンクだ。

 ここで使えるんじゃないのか。


「女神の祝福ではなくて普通のスキルですが、俺はHPを、つまり自分の生命力を分け与えられるんです」

「なんと」

「自らの命を削るのか」

「はい。いえ身体を休ませれば回復するので、削るって程じゃありません。だから毒は消せませんが、体力さえ保てれば治るというのなら、試してみる価値はあります」

「おおっ!」

「その価値は充分にある、やはりお導きか!」

「なら急ぎましょう、案内してください」

「わかった、こっちだ!」


 二人に連れられて大きなテントにやってくる。

 こういう造りって、テント小屋と呼ぶのかも。

 巻き上げられた入り口から入ると、敷かれた毛布の上に幼い男の子が寝ていた。

 黒髪を短く切った小柄な子だ。3才なら小さくて当然だけど。

 そばの黒髪の女性は母親らしかった。ザァイの妻だろう、心配そうに子供の手を握っていた。

 イシュマシュが周囲にある水桶や座布団のようなものをどかせながら、俺にうなずいた。


「ミャーリァ場所を開けてくれ、マレビトがシランジュを診てくれる」

 呼ばれた女性が顔を上げて俺を見る。

 その表情は憔悴している。

 彼女は握っていた子供の手を離したが、その場を動こうとはしなかった。

「それじゃ、やってみます」

 反対側にまわって、子供のそばに膝をつく。


 HPリンクを繋げるためには二つの条件があった。

 ひとつは接触する事で、もう一つは本人の許可を得る事だ。

 俺は子供の手を取るとリンクを繋げるため念じた。

「ん、やっぱりか……」

 自分と子供のHPを繋げようとしたが、魔力を弾かれるような感触がある。

 やはり本人の了解の意思がないと、リンクが繋がらないのだ。


「どうした、駄目なのか」

 俺の表情を読んだらしいザァイが不安そうな声を上げた。

「俺のスキルは相手が了承しないと使えないんです。この子は昏睡しているようなので、ちょっと難しい。もう少しやってみますが、生命力を繋げるのを受け入れてくれないと、こっちからは何も出来ません」

「なんてことだ、ここまで来てまだ試練があるのか!」

 ザァイが悔しげに言う。


 前に俺がチェルシの命を救った時、あれも本人の承諾を得たわけじゃなかった。

 あれは人工呼吸してたんだっけ。

 ……うーん。

 この子に人工呼吸するのは、なんかちょっと違う気がする。

 声をかけてみるか。

 応えてくれたら良いのだけど。


「君はシランジュだろ、俺はナミノって言うんだ。聞こえるかなシランジュ、君を助けるために俺のスキルを受け入れて欲しい。ほら感じないか、この感覚だ、弾かないで受け入れてくれ」


 シランジュの頭に手を当て、耳元で話しかける。

 たぶん意識は無いと思うけど。

 どこか、少しでも無意識に引っかかれば、受け入れてくれるかも知れない。

 警戒させないように、優しく頭を撫でる。

 もう一方では、強くならないように手を握っている。


「聞いてシランジュ、お父さんもお母さんも君を助けたがっている。俺も君を助けたいけど、この感覚を受け入れてくれないと出来ないんだ。元気になるために、俺と繋がってくれないか」


 向かい側で、母親らしい女性もシランジュの手を握った。

 目が合ってうなずいた。

 浅黒い肌に黒髪の女性、茶色い瞳、こうして近くで見ると意外に若かった。たぶん20歳になっていない。

 そういや旦那のザァイも、髭が生え放題だけど若かったもんな。

 もしかして大学生くらいだろうか。

 まさか3才の子持ちで高校生の年齢って事はないと思うけど。

 いや文化の問題だし、有り得るだろうか。


「んんっ……」

 シランジュが小さく呻いた。

 その瞬間、HPリンクが繋がる感覚があった。

「おっ」

「どうした!」

「大丈夫、いま繋がった」

「や、やったのか!」

 集中するためザァイの様子は無視させてもらう。

 確認するとシランジュの最大HPは9で、現在のHPは1だった。

 マジでギリギリじゃないか。

 すぐに自分のHPを彼に移す。

 8ポイント移動させて、俺は92、シランジュを満タンの9にした。


「おおっ、顔色が戻ったぞ!」

 ザァイが声を上げる。

「稀人よ、心から感謝する」

 またイシュマシュが両膝をついた。

 一度リンクが繋がれば、後は離れていても大丈夫だ。どちらかが意図的にリンクを拒絶しない限り接続は維持される。

 きちんと確認を取ったわけじゃないけど、恐らく互いの声が聞こえるか、あるいは視界に入るくらいの距離でも継続は途切れないだろう。

 まあテントの中であれば何の問題はない。

 俺はシランジュの側を離れて、他の家族に場所を返す事にした。

 すると、すぐにザァイが滑り込んできた。


「これで大丈夫なのか、もう安心して良いのだな」

 イシュマシュが問いかけてくる。

「毒を消す力はないけど、そっちは薬が効いているんですよね」

「もちろんだ、錬成魔法を駆使した高価な解毒薬だった。いざという時のために購入しておいたのだ。虫や動植物系の毒素であれば、まず間違いなく解毒できる」

「なるほど」

 さすがダナウエル大陸だ、魔法の薬があるんだな。

 もしかしたら習得できるスキルの中に魔法薬作成があったかも知れない。魔法の薬を作るとかちょっと憧れるなぁ、そのうち生産系のスキルもチェックしなくちゃ。

「解毒できているなら、後は体力的な問題なので大丈夫だと思います。専門家じゃないので断言は出来ないですが」

「そうか、だったら充分だ、あの様子を見れば分かる」

 そう言ってシランジュに視線を向ける。

 さっきまでの苦しそうで弱々しい呼吸じゃなく、穏やかなしっかりした様子になっている。

 唇にも血の気が戻ったようだ。

 母親の表情も緩み、子供の頬を撫でていた。


 ふう。

 一時はどうなる事かと思ったが、無事に終わって良かった。


「稀人よ、あなたはこれからどうするのだ。大きな借りが出来てしまった、あなたに何か礼を返したい」

 イシュマシュが問う。

「うーん特に思いつかないです、俺はイチザートに行きたいだけで」

「行ってどうするのだ、何なら私たちと行動を共にしないか、水や食料も多少の余裕はある」

「ええとですね、じつは人を探しているんです」

「人探しの旅をしていたのか」

「あ、いや、旅ってほどではなくて……。半日ほど前に友人がさらわれたんです、今は友人と犯人を追いかけている途中なんです」

「なんと!」

「そんな事情が……」

 話を聞いていたザァイから声が漏れた。


 そうなんだよな。

 本当はここで時間を使っている余裕はない。

 今すぐにでもイチザートを目指したいところだ。


 しかし今夜は無理だろう。

 シランジュの容態がある。

 確かにHPは満タンにしたし、瀕死の状態から回復して安定しているけど。

 まだ身体から完全に毒が抜けたわけじゃない、徐々にHPが減る可能性もある。


「なるほど最初に会った時の必死な様子に疑問を持ったが、お前は攫われた友人を追っていたんだな」

 ザァイが言う。

「俺は道標になる塔をよく知らなったから、砂漠の真ん中で途方に暮れてたんです。だからイチザートへの方角が分かって凄く助かりました」

「半日前か……。すまない稀人よ、私達があなたを足止めをしてしまった。そうだラトゥーを一頭差し出そう、砂漠ではとても役立って価値のあるものだ。むろんそれだけで恩を返せたとは思わないが」

 イシュマシュが言う。

 なるほど、確かに移動するなら便利かも知れない。

 だけど生き物を飼うってのは、それなりに大変そうだ。

 むしろ俺一人なら食料も水もいらないから、この上なく身軽に砂漠を歩ける。


「ありがたいけど遠慮しておきます。ちゃんと世話が出来るか不安だし、いつまでも砂漠に居るわけじゃないし」

 宿とかに預けっぱなしになりそうだし。

「そうか……、仕方ないな他に考えよう」

「えっとお礼が頂けるなら普通にお金とか駄目ですかね。じつは持ち合わせがまったく無くて心細いんです。いや小銭程度で良いんだけど」

「金でいいのか」

「ああ稀人よ、私達にとって親切を金で評価するのは失礼にあたるのだ。だが無一文だと言うのなら、確かに手を貸すべきだな」

「助かります。一晩の宿代があれば充分なので」

 すぐに三浦さんを見つけて連れ帰るつもりだし、もしも長居する事になったら、自分で何かして稼げば良いし。

 居酒屋だろうが工事現場だろうが、バイトで鍛えられた俺なら楽勝だ。

「ふむ」

 イシュマシュとザァイが互いに顔を合わせてうなずいた。


 やがて夜が更けて皆が眠りについた。

 陽の落ちた砂漠は、昼間からは想像がつかないほど気温が下がる。

 一説によれば水分を含まない砂のせいらしい。乾燥した砂は熱を溜め込まないらしいので、きっと銅の鍋のように熱伝導が高いのだろう。

 下手をすると氷点下まで下がる外気から逃れるため、テントの入り口はしっかり閉めて、母親はシランジュを抱いて毛布をかぶっていた。


 俺はまったく眠くないので、夜更けに塔の確認に行った。

 外の寒さは想像以上というか、想像外って感じで。

 まさか砂漠の夜風が、真冬の吹雪のように冷たいとは思わなかった。

 風に混じった砂粒が小さな氷の欠片のようだ。

 ただ俺のダナウエルでの身体は暑さにも寒さにも強いらしく、上着一枚でもぜんぜん平気だった。たぶん体力値が高いお陰なんだろうけど凄く助かった。

 あと砂漠の景色は凄かった。

 空一面に散らばった星々は、本当に見事だった。

 

 肝心の塔は一見すると冠を積み上げたような作りで、ピシャの斜塔に似ていた。

 もちろん傾いてはいないけど。

 広めの岩場に建てられており、てっぺんから真上に向けて、白い光を伸ばしていた。

 光の長さは10メートルくらいだろうか、ネオンみたいに目立っている。

 白光は付近一帯の魔除けも兼ねていて、魔法抵抗力の低い小型の魔物が近づかないそうだ。特に夜は毒虫類が活発になるというので有り難い。

 塔の上から三分の一くらいの場所と三分の二くらいの場所に、それぞれ三角形の足場のような物があり、先端が一番近い次の塔を示していると聞かされた。

 上の三角がイチザート方面への目印で、下段の三角は砂漠の外の街ブランコ方面を指しているらしい。

 塔の建つ場所は、ここみたいな岩場か、集落のあるオアシスという事だった。


 観光めいた確認をすませてテントに戻ると、皆ぐっすり眠っていた。

 この一家は小さな集落の生活用品を作っていた血筋らしく、今回イチザートを目指しているのは、なにか集落でトラブルがあったのと、幼いシランジュに教育を受けさせるためらしかった。

 他家の事情だし、あまり踏み込んだ話しはしてない。


 テントに戻ってシランジュの様子を見たらHP7になっていた。

 満タンの9に戻しておく。

 その後はとくに変化もなく、恐らく完全に回復したと思わせた。

 やがて朝になった。


 陽が登り始める少し前に、彼ら一家は目を覚まして旅の準備を始めた。

 目覚まし時計も無いのに起きれるのは凄い。

 シランジュは、あたりが明るくなるまで眠っていたけど。


「ナミノは食べないの?」

 と可愛らしい声でシランジュが問う。

 簡易な朝食の場で、幼いシランジュは俺の側から離れなかった。

 他の家族は、微笑ましげに眺めている。


「俺は稀人だから、食事の必要はないんだ」

「ふーん」

「でも美味しいものは好きだからなぁ、街に着いたら何か食べようかな」

「そっか!」

 小さな腕を組んだシランジュが何度もうなずいた。

 この子が俺に懐いているのは、恐らく繋ぎっぱなしのHPリンクの影響だ。

 お互いに何となく、そこにいるって存在感を覚えるのだ。

 なんか身近って感じに。


 朝の内、気温が上がり切るまでに、一家はテントを出発する。

 結局俺も一緒に行く事になった。


 ラクダに似た四頭のラトゥーに荷物を積んで、そのうちの一頭にはシランジュと母親のミャーリァさんが乗った。

 残りの男ら三人は自分の足で歩く。

 シランジュとミャーリァさんは、お揃いの円柱形の帽子をかぶっていた。

 俺もまたザァイからターバンをすすめられて、生まれてはじめて頭に巻いていた。

 異物感があるかもと想像していたが、意外としっくり来て悪くなかった。少なくとも直射日光に髪を焼かれるより百倍は良かった。


 やがて太陽が真上に差し掛かる頃に、始まりの街イチザートが見えて来た。

 人口7万人を超える、砂漠の大都市である。

 二つのオアシスと大きな森があり、三方向の砂漠外の街と交易している。

 独自の魔法や学問も発達して、高い文化水準を保っているそうだ。


 三浦さんは、この大都市のどこかに居るのだろうか。

 あの大学生たちがどうやって今回の仕掛けを作ったのか分からないけど。何としても見つけ出さなくちゃいけない。

 きっと心細く感じているであろう三浦さんを思い、俺は決意を新たにしていた。




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