第20話〜のんびりと〜
今日は2つ投稿しています。
第20話とハロウィン話です。
元冒険者が率いていた盗賊団を退けることに成功してから2日後の昼、フィロスたちは中継地点の少し大きな村に来ていた。
ルナの情報ではこの村から次の町までトンファー馬車で1週間とちょっと掛かるらしい。
ルナは慣れているらしいが、ファルーにはすこし長いんじゃないかと思う。
取り敢えず、今日明日とこの村で食料の補給をして明後日の明け方に出発の予定になっている。
なぜ水分は補給しなくてもいいのかと言うと、ルナが魔石使用型の水筒を持っているからだ。
この世界の水筒にはコップ付きは無く、直飲み式だったためフィロスはルナが間接キスを気にするのではと思ったが、飲みながら顔色を伺ったところ間接キス自体が存在しないようなのでフィロスも気にしないことにした。
御者台に座って一応立っていると言った感じの、門番たちに軽く挨拶すると村の中へと入っていく。
「ルナ、ここで商売の予定は?」
「無いよ。明日は休んで明後日の朝にはちゃんと出発できるよ。」
「了解。」
御者台から中に話しかけるとルナが答えてくれた。
さすがに昼ごろともなると覚醒しきっているようだ。
「何か今失礼なこと考えたでしょ!」
フィロスの心の中を見たかのようにルナが御者台に顔を出す。
「いや、そんなことない。景色を楽しんでただけだ。」
フィロスは適当にごまかしておいた。
嘘は言っていない。
「確かにモワイヤンの村とは少しばかり違うからねぇ。」
そう言いながら、ルナが御者台に出てくる。
それに続くようにファルーが御者台に出て来てフィロスの膝に収まった。
「りん、ご。」
突然ファルーが何の脈絡もなく普人語を喋る。
実はこれは、昨日始まった。
これまでずっとファルーは普人語の教本を大事に読んでいたが、ついに単語なら読めるようになって来たのだ。
それを自慢するように笑顔で2人に披露してくる。
それが最高に可愛いのだ。
『りんご、食べたいのか?』
聞くとファルーはふるふると首を横に振る。
お腹が空いているわけではないようだ。
「ふぃ、ろす、るーな。」
そこで俺たちは固まった。
萌え死ぬ前に思考を停止させたらしい。
我ら獣人族の防衛本能は素晴らしい。
「?」
2人が固まってしまったのでファルーは小首を傾げてしまっている。
そんな中、宿泊予定の宿屋の前に着き、トンファー馬車は止まった。
トンファーはフィロスたちに声をかけようと振り向き、ため息を吐いていた。
3人は宿屋に入っていくと、受付で2泊分の料金を払い部屋の鍵をもらい部屋へと向かった。
部屋にはは木造が映えるようにか淡い光が付けられ、窓からの風景は何もないが綺麗な野原が広がっていた。
内装は木製のテーブルやイスがあり、ダブルベッドより少し大きめの、確かクィーンとか言ったか、そんなベッドが置いてあった。
いつの間にか川の字で寝ることに慣れてしまっていたらしく、フィロスは受付で部屋はどうするか聞かれた時にほぼ無意識のうちにダブルを一部屋と頼んでいたらしい。
それを聞き、3人でいるのを見て女将さんが気を利かせてくれたのだろう。
「フィロス、何かする予定とかあるの?」
ルナが荷物を置きながら聞く。
「特に無いな。でも、何か美味しいものが食べたいな。」
「ちょうど良かった、今日の夜は何か食べに行こうよ。『ファルーちゃんも美味しいもの食べたいよね?』」
『うん、たべたい。』
「じゃあ、どこか良いところないか探しておくか。」
「キミの服も新調しないとだし。」
「そうだな。」
ルナからもらった売れ残りの服だが、あの盗賊団との戦闘でボロボロになってしまったのだ。
今はまだあった売れ残りを貸してもらっている。
「服か、クリーペルでファルーに何か買ってやれば良かったな。」
そう言って、フィロスはしゃがみファルーの頭を撫でる。
ファルーは分からず首を傾げていた。
「クリーペルなら可愛い服も売ってたかもね。」
ルナはニヤニヤとフィロスを見る。
「ルナも見たいだろう?ファルーが子ども用のドレスとか着ているところを想像してみろ。」
「あ、すごい見たい。ちょっとクリーペルに戻らない?」
ルナはファルーを見つめてちょっと怪しい笑顔になる。
「ファルーの親御さんたちが心配してるから早く帰らないと。それと、その怪しい顔はやめろ。子どもに嫌われるぞ。」
言われてすぐにルナは顔を戻した。
「とりあえず、今は俺の服と夕食の場所の散策だな。」
「うん、行こっか。」
『ファルー、ご飯食べるとこ美味しそうなところ探しにいくぞ。』
『うん。』
フィロスが腕を広げるとファルーが寄ってきてそれを抱き上げる。
そのまま部屋に鍵をかけて受付で返すと村の中を3人で歩き出した。
と、言ってもファルーはフィロスの腕の中にいるため歩いていないが。
『食べたいものがあったら言うんだぞ、ファルー。』
『うん!』
ファルーはフィロスに笑顔を向ける。
つられてフィロスも笑顔になった。
ゆっくりゆったりと村の中を歩いていく。
すれ違う村人たちはみんな3人を見て暖かく微笑んでいた。
少なくとも見た目は普人種の2人から明らかに尻尾も獣耳もある娘が生まれるはずはないのだが、3人が仲良く歩く姿は自然と村人たちを笑顔にさせた。
その後、ファルーが美味しい匂いがするとフィロスとルナを止めた店は、主に魚を使った料理を出す店だった。
まだ少し時間が早いと場所だけ覚えて置いてそこを素通りし、少し行ったところにあった空き地でのんびりとした後、装飾店に向かった。
装飾店では男の服を見ていてもつまらないしどれでも良いので適当なのを選んだ。
いかにも旅人という感じの柔らかく薄めの素材で出来ているシャツとズボンと、元から全部そうなのか裾がやけに長い仕様だったためベルトを購入した。
買ってその場で更衣室を借りて着替えると、ファルーがすぐに擦り付けるように抱きついてきた。
その様子を見て装飾店の店主も苦笑いしていた。
適当なところで終わらせ装飾店を出るが、まだ夕食には少し早いぐらいの時間だった。
この世界は24時間制が確立されているものの、そこらへんに時計が設置されてるという事は無いし、少し裕福な家庭が気が向けば買う程度の値段なので明確に時間を指定されたらそこは裕福な家庭だと思っていいらしい。
『ファルー、お腹すいたか?まだいいか?』
装飾店を出てから腕を離れようとしないファルーに問いかける。
『おなかすいた!』
ファルーがこう言うのでルナの方を向くと、私は構わない、とでも言いそうな顔をしたので先ほど通り過ぎた飲食店に向かうことにした。
飲食店の前まで行くと、焼き魚のいい匂いがファルーの尻尾を振らせた。
扉には営業中の小さな看板が紐で下げられていたので遠慮なく扉を開けて入っていく。
その時、扉の内側の上にかけてあったベルが優しい音を奏でた。
「いらっしゃいませー、席にご案内いたします。」
奥から優しい雰囲気の女の人が出てくると3人を空いた席に案内してくれた。
「ご注文が決まりましたらそのベルを鳴らしてください。」
そう言って、テーブルに置いてあるベルを示すと下がっていった。
その後、大変悩んだファルーが決めるまでに体感で30分ほど掛かった。
運ばれてきた魚料理はとても美味しくすぐに完食してしまった。
代金を払った後、お腹がいっぱいになりウトウトし始めたファルーを抱き上げて店を出る。
日も沈みかけ、少し暗くなってきた村の道をファルーを起こさないようにゆっくりと歩く。
とりあえず、明日は休みだからゆっくりしてもらえばいいが、明後日からは少し長めの旅となるため少し心配だ。
何も起こらないといいが。
と、無意識に心の中でフラグを立てていくフィロスであった。
宿屋に戻ると受付で鍵を受け取り、部屋には部屋には明かりをつけずに入っていく。
ベッドの真ん中にファルーを寝かせた後、ルナがランプに火を灯しテーブルに置いた。
それを挟むようにフィロスとルナはイスに座った。
「そういえば、心配したって言ってばかりで感謝の言葉は言ってなかったね。改めて、ありがとう。」
「俺はルナの護衛だからな、任務を全うしただけだ。」
「それでもだよ、ありがとう。」
「そうか、どういたしまして。」
ランプに照らされてルナの笑顔が優しく光る。
「1つ聞くね。突然名前を教えてくれた、思い出したんだっけ、それは何でなの?」
「盗賊たちと戦った時に胸に矢を受けた。その時に呼ばれたんだ。」
「誰に?」
「アイビー、俺を呼んだ娘だ。」
「呼んだ?」
ルナがさらに首を傾げる。
俺が違う世界からの人間だと言う事は言っていなかったか。
見知らぬ人ならまだしも、文字通り一緒に寝るほど仲が良くなったのだ、ルナは商人でもある、秘密を知っておいてもらったほうが何かと手伝えることもあるかもしれない。
「俺も知ってる事は少ないが、話しておこう。まず、実は俺はこの世界の人間、じゃなかった、獣人族じゃない。」
「え、異世界から来たって事?」
そうか、この世界からしたらあっちが異世界なんだな。
「そうだ。異世界からアイビー、俺がつけた名前なんだが、その娘に呼ばれてこの世界に来たんだ。」
「へぇ、どんな子なの?」
「頭の横から大きいツノが生えている。」
「魔人種の子かもね。その子のところには行ってあげなくていいの?」
「色々あって自分のしたいことを優先しろって言われたよ。」
「そうなんだ。」
「異世界って聞いて驚かないんだな?」
「驚いたけど、キミってどこか普通とは違う感じがしてたから。」
「そうなのか、自分は普通なつもりだったんだが。」
「他には?」
「他はまだ思い出せてないな。」
「元の世界のこととかも?」
「あぁ、忘れてしまったよ。」
「そっか、また思い出したら教えてよ。」
「わかった。何か思い出したら教えよう。」
「うん、約束ね。」
そう言って、ルナは右手の薬指を出す。
出しにくいな、小指とか親指にはしようと思わなかったのか。
ルナの薬指にフィロスも自らの薬指を交差させ、約束をした。
「明日も休みだが、どうせ朝からファルーに起こされるだろうからな、そろそろ寝るか。ルナは明日の朝はどうする?」
「うーん、起こさないでもらえると嬉しいな。」
「わかった。まあ、その時に考えるさ。」
「りょーかい。寝よっか。」
ルナがファルーの横に寝転がる。
フィロスはランプを持つとベッド脇の小さなテーブルまで持っていく。
「キミもおいでよ。」
ルナが寝転がったまま、右腕でファルーを抱き寄せ、左腕を広げてフィロスを呼ぶ。
「他にベッドも無いしな。」
なぜなのかはわからないが、自然と言い訳が口をついて出ていた。
フィロスもファルーの横に寝転がり、ルナと手を繋ぐ。
まるで新婚の夫婦のようだ。
「お休み、フィロス。」
「あぁ、お休み、ルナ、ファルー。」
フィロスはランプのガラスを開け、中の魔石に触れると明かりを消した。




