〜Trick or Treat〜
今日は2つ投稿しています。
第20話とハロウィン話です。
※これは時間軸の異なるお話です。
「はい、キミはこれ着て。」
そう言って、ルナに渡されたのは黒っぽい服だった。
広げると舞踏会で男の人が着るような黒いスーツのようなものだとわかる。
「理由を聞いてもいいか?」
「今日が何の日か知らないの?」
常識だよと言わんばかりの目でルナはフィロスを見た。
今日は確か10月31日だが、この世界の記念日などは全くもって分からない。
「知らないな。」
「ハロウィンだよ!みんなで仮装して、飾り付けして楽しむんだよ!」
この世界にもハロウィンがあったのか。
「仮装はいいが、飾り付けなんてどこにするんだ?用意もしてないし、どこかのパーティーにでも参加しに行くのか?」
「そっか、キミは知らないんだよね。知らないならちょうどいいや。そろそろだと思うから外に行こう。あっ、これ持って。」
ルナに少し大きめの膨らんだ袋を受け取る。
中を見ると、たくさんの糖玉やらチョコやらクッキーやらが入れられていた。
ルナと一緒に外に出ると、仮装をした子どもたちが広場でワイワイと走り回っていた。
「そろそろ6時だからね。初めて見るのは驚くよ。この国だけの文化らしいし。」
何か特別なことが起こるのだろうか。
そう思っていた時、子どもたちが一斉に静かになった。
どうしたのかと思い子どもたちを見ると、皆どこか遠くの方を見つめているようだ。
フィロスとルナもそちらの方を向く。
そちらにはあの大きなスィエロ山がそびえ立っているだけだ。
その時、山の方から低く響く鐘のような音が鳴り響いた。
「「「ハッピーハロウィーーン!!」」」
それと同時に子どもたちが揃って声を上げた。
そして、かぼちゃをくり抜いたジャック・オー・ランタンや、こうもりやゆうれいの飾り付けが至る所に現れる。
「これは?」
「天人種の人たちの魔法だって言われてるよ。」
「そうなのか。」
やはり魔法は常識を超えていく。
「そういえば、ファルーは?」
フィロスは我に帰り思い出したように慌てる。
その様子を見てルナはくすりと笑った。
「そんなにファルーちゃんが好きなの?」
「当たり前だ。あんな可愛い娘、滅多にいないぞ。」
「はいはい。ファルーちゃんなら街の子たちと街を回ってるよ。」
ルナが広場の一角を指差す。
そこには、1人の女の人の周りに群がる子どもたちがいた。
その中に紛れてファルーのであろう尻尾の先が覗いている。
「何やってるんだ?」
「お菓子をもらいに行ってるのよ。少ししたら私たちのところにも来るから座って待ってましょ。」
ルナが、これまたハロウィン仕様にされたベンチに座るのでフィロスも横に座った。
ハロウィン仕様のベンチに牙のないヴァンパイアと魔女が子どもたちを眺めながら微笑んでいるのは名状しがたい気持ちになる。
「ルナはお菓子貰ってこなくていいのか?」
「大丈夫だよ、後で貰うから。」
「そうか。」
やはりルナも女の子だ、お菓子には目がないのだろう。
そのままルナと雑談をしながら子どもたちを眺めていると、子どもたちが2人のところまでやって来た。
「「「トリックオアトリート!!」」」
子どもたちが声を合わせて言う。
みんな魔女やヴァンパイアや狼男やフランケンやらの仮装をして、手に下げたジャック・オー・ランタン型のカゴにもらったお菓子を入れていた。
そんな子どもたちを見てつい頬が緩む。
広場にいる大人たちも子どもたちを見て微笑んでいた。
「はいはい、お菓子欲しい人はちゃんと並んでね。こっちのヴァンパイアのお兄さんからももらえるからねー。」
慣れているのかルナが子どもたちに声をかける。
ルナの言葉に子どもたちの半分ほどがフィロスの前に集まる。
「お兄さん、ヴァンパイアなの?」
「キバあるの?」
「ボクもヴァンパイアー!」
「お菓子ちょうだい!」
「いたずらー。」
おうおう、元気のいいこって。
とりあえず、質問に適当に返しながらお菓子を配っていく。
「ヴァンパイアだぞー。」
「キバは無いな。」
「おぉ、ヴァンパイアなかまだな。」
「はい、お菓子ね。一度に食べ過ぎないようにね。」
「お菓子あげるからいたずらはやめようかー。」
色々な方向から質問を浴びせられ大変なのだが、子どもたちの可愛さにそれはかき消されている。
しかし、袋から勝手に持っていくような子がいないのはさすが異世界と言うべきなのか、この街の大人たちの教えがいいのか。
いや、どちらもか。
だいたいの子どもに配り終え、そろそろ終わるかなと思っていた頃、ふと視界の端に橙色の何かが通った。
フィロスは自然と袋の中身を確認していた顔を上げる。
そこには、オオカミ少女コスをしたファルーが恥ずかしそうに立っていた。
『ファルー?』
フィロスが問いかけると、ファルーは黙ってフィロスの下まで歩いてくる。
ファルーの前にいた子どもを避けてフィロスの近くまで来ると、ファルーの姿がよく見えるようになる。
ファルーは元から生えている耳と尻尾に合うような獣の手と、黒と橙色を基調とした下がカボチャになっている服を着ていた。
そんなファルーがフィロスの目の前まで来たためフィロスは抱き上げる。
『どうした、ファルー?』
「‥‥‥‥‥‥と」
「ん?」
「とりっくおあとりーと」
「よし、この袋ごと持っていけ。」
フィロスは反射でそう言っていた。
ファルーを下ろすとまだまだ1人分よりは多い量のお菓子が入った袋を渡す。
それを受け取ったファルーは恥ずかしそうにしながらも笑っていた。
「全部あげちゃっていいの?」
「当たり前だ。もうあげる子も居ないみたいだからな。」
「ふーん、ま、いたずらすればいいんだけど。」
「え?」
「何にもなーい。」
フィロスにはルナの言った後半が聞き取れず聞き返したが、何も無いと言われてしまった。
あまり追及してこんな日に不快に思わせてもいけないと、フィロスもそこでやめておいた。
それよりもファルーだ。
「ルナ、この衣装、お前が用意したのか?」
「そうだよ、可愛いでしょ。」
「最高だ。」
「わたしも抱っこして。」
「あたしもー。」
「あぁ、はいはい。」
手を広げて来る子どもたちを抱き上げ、ファルーの前にしゃがむ。
『ファルー、大丈夫だ、似合ってるぞ。』
『うん、ありがとう。』
腕の中の子たちはフィロスの獣人語に首を傾げている。
その様子もまた可愛らしかった。
「もう回らなくていいのか?」
「お兄さんたちでさいごだよ。」
「さいごー。」
「最後ならもうそろそろ帰らないとだよー。」
そこにルナが口を挟む。
「子どもたちがハロウィンの日に外に出ていいのは7時までなの。その後は、悪霊や魔女たちを大人たちが退治するのよ。」
「そうなんだよ。パパ、強いんだよ。」
「つよいー。」
「へぇ、じゃあそろそろ帰らないとな。」
フィロスが下ろしてやると、またねーと言って子どもたちはそれぞれの親の元へ帰っていった。
ファルーだけがそこに残る。
そのファルーをフィロスは抱き上げた。
『俺らも中に入るぞ。魔女や幽霊に襲われちゃうからな。』
『うん。』
「まぁ、大人たちが子どもたちを早めに寝かせてお酒を飲むためなんだけどね。」
「そうだろうと思ったよ。」
ファルーを抱いてルナと一緒に宿屋に入り、女将さんに鍵をもらう。
部屋まで行き鍵を開けて入ると、天井に下げられたジャック・オー・ランタンに明かりを灯す。
「おい、ここにも飾り付けが出るのか。」
「街全体が、国全体がそうなるのよ。さすがに森の中には出ないけど、街道脇には出てるみたいね。」
「天人種って人たちは俺らの想像の遥か上を行くんだな。」
「それより!」
「なんだ?」
「トリックオアトリート!」
ルナが笑顔で両手を差し出す。
「え。」
「あれ?お菓子あんなにあったのにもう無いの?」
「すまん、無いな。」
ファルーに残りを全てあげてしまったからな。
後でもらうといっていたのはこのことだったのかと今更に思う。
「じゃあ、イタズラだね。」
ルナが妖しく微笑んだ。
この後、ファルーも加わりフィロスは色々とイタズラをされた。
その後、ファルーを寝かしつけギルドの酒場で冒険者たちのハロウィンパーティーに参加した。
フィロスとルナは仮装のままで行ったがちらほらと、特に女性冒険者たちに仮装している人がいたので悪目立ちすることはなかった。
男性冒険者たちにさんざんいじられたが。
ルナはそこでもトリックオアトリートと言って回っていた。




