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第19話〜盗賊団の団長〜


アイビーの影が完全に消えてから歩きだし、魔法陣を抜けるとまた周りは暗闇となった。

先ほどまでとは違う、月にでも降り立ったようなふわふわとした歩きになる。

一歩踏み出すたびに少しずつ地面が遠くなり、やがてついには体が地面に向かうことさえやめた。

そのまま上も下もわからぬ程にくるくると浮遊し、気付くと俺は胸に矢を刺しながら地面に横たわっていた。

先ほどまでの暗闇ではなく月明かりに少しだけ照らされる土の道。

盗賊たちは俺を射たと思われる弓使いを囲んで盛り上がっていた。


「よくやった、カイティス。お前の弓術は最高だぜ。」

「ナイス、カイティス!」

「さすがはカイティスだ。」

「当たり前だ。このくらいできなくては盗賊などやっていられないからな。」


カイティスと呼ばれた男は天狗になっているようだ。

その時、盗賊団の団長が馬の上から指示を出した。


「馬車を追いかけるぞ。」


その瞬間、青年の中で何かが解き放たれた。


行かせない。

あいつらは俺が守る。


青年は立ち上がる。

周りが、特に弓を射たカイティスが、驚きの声を上げている。


「なんだ、こいつ。」


青年は胸の矢を掴むと引き抜き、カイティスの方へと投げる。

その矢はカイティスの右腕に深々と突き刺さった。


「ぐあぁっ!?」


カイティスの悲鳴が上がる中、盗賊たちは声が出せなくなっていた。

青年の胸に黒色の炎が上がり、矢の刺さっていた傷口が塞がっていく。

火の色は黒だというのに周りは嫌に照らされている気がする。

その時、団長が部下たちに大声を出す。


「堕落だ!殺される前に殺せ!」


団長の声に我に帰った盗賊たちは、怒号とともに青年に向かって走る。

青年はおもむろに腰の剣を抜くと、中段に構えて盗賊たちに言い放った。


「俺らを狙った事、後悔させてやる。その後悔の念の中、死にゆけ。」


盗賊の1人が青年に斬りかかる。

それを青年は剣を斜めに構え受け流し、剣の腹で思い切り盗賊の脛を弾く。

盗賊は派手に転ぶように地に倒れ伏した。

それを見て他の盗賊たちの動きが止まる。


「何をやっている、早く殺せ!」


団長の言葉に戸惑いながらも、盗賊たちは一斉に青年に向かって襲いかかった。

ここら辺はさすが盗賊団ということなのだろうか、多対一には慣れているらしい。

すぐに青年を取り囲むと青年の死角を突くように攻撃を繰り出していく。

しかし、それを青年は1つずつ確実に受け流し膝や頭を剣の腹で叩くことで戦闘不能にさせていく。


そして、青年を囲んでいた盗賊が最後の1人になった時、突然その盗賊の頭が地に落ちた。

青年がそちらの方を見ると、血に濡れたバスタードソードを持った団長がついに馬から降りて立っていた。


「てめぇ、よくもやってくれたな。」

「全員、殺してはいない。気絶しているだけだ。」

「殺したか殺してねぇかなんて聞いてねぇ。俺はお前が盗賊というものを舐めていることに対して怒っているんだよ。」

「ちゃんと行動不能にはしているだろう。」

「ちげぇよ。盗賊はそこにいる奴らだけが全てじゃねぇ。どこかでいくつもの違う盗賊団と繋がっているのさ。お前は、俺らを全員殺さなければさらに多くの盗賊に狙われるってことなんだよ。」

「盗賊が説教か。」


青年が団長を睨むと、団長は失敗した、というような顔になる。


「はぁ、まただな。」

「また?」

「部下たちも気絶してて聞こえないだろうからな。俺に殺される前に少し話に付き合え。」


そう言って、盗賊たちが倒れている中に適当に座る団長。

青年は剣は納めず、どちらもが剣が届かない程度の位置に座ると剣を膝の上に置いた。


「俺は元々、冒険者だったんだ。しかし、ある貴族の護衛中に盗賊に襲われてな。今、俺が率いてる団のさらに上の盗賊団にだ。その時、護衛対象を守りきれなくてな。」

「それで、なんで盗賊になる?」

「待て、最後まで聞け。冒険者の護衛任務、特に貴族の護衛ってのは失敗すると大抵は死刑にされる。俺は、それから逃げたくて最後の1人になった時に懇願したんだ。命だけは助けてくれ、あんたの部下になるってな。」

「そこの団長にか。」

「あぁ、そうだ。笑いたいなら笑え。俺はまだまだ弱かったんだよ。」


そう言って、団長は自嘲気味に笑う。


「あんた、名前は?」

「俺の名前はサージアスだ。お前は?」

「俺の名前は、フィロスだ。」

「そうか。じゃあ、フィロス、立て。あまり長話してると部下たちが起きるかもしれん。始めるぞ。」


サージアスは立ち上がる。


「何を?」

「殺し合いに決まっているだろう。」

「殺す気が無いのにか?」

「何故そう思う。」

「今から殺す相手に名乗る奴はいない。」

「俺がお前を殺さなくても、俺はあの馬車を襲いに行くぞ。それをお前が止める必要はあるだろう?」

「そういうことか、わかった、全力で止めよう。」


青年も立ち上がる。

青年は膝に乗っていた剣を持ち上げ、中段に構えるとサージアスに言った。


「あんたとは違う会い方をしたかった。」

「俺もそう思うな。次会うときは空の上だ。先に行っていろ。」

「それは俺のセリフだ。」

「来い。」


サージアスが剣を中段に構えると、青年はサージアスに向かって走り出す。

サージアスは青年が来るタイミングに合わせて、剣に横薙ぎに振る。

青年は無理矢理止まることでそれを避け、その時に下がってしまった剣をそのままに上に振り上げる。

しかし、サージアスは青年の剣を鍔で止めそれを弾く。

さらに青年は体制を立て直すと剣を大上段から振り下ろす。

それをサージアスは剣身で受け流すと同じく大上段からの振り下ろしを繰り出した。

しかし、剣を受け流され少しよろけていた青年はそのまま倒れこむように前転をしてサージアスの後ろへと回る。

青年はその転がる勢いを乗せ、剣の腹をサージアスの膝に横から叩きつけた。

かなりの衝撃に思わず倒れこむサージアス。

青年はすぐに立ち上がるとサージアスの剣を蹴飛ばし、首筋に剣を突きつけた。


「動くな、俺の勝ちだ。」

「先に空の上で待っているぞ、フィロス。」

「じゃあな。」


青年は剣を、下に向けながら上段まで持ち上げる。

そこから落とすように剣を突き刺した。



しかし、剣は首には刺さらず横の地面に刺さっていた。


「いきなり仲良くされるのは殺す時の後味が悪い。次からは気をつけたほうがいいかもな。」


青年の言葉にサージアスは一瞬驚いていたがすぐに笑い始めた。


「はっはっはっ、わからねぇこともねぇが、こういう場合はあまり躊躇は無しに殺しておくものだ。俺がここぞと反撃してきたら死ぬのはお前かもしれないんだぞ?」

「その時はその時さ。それが俺の運命だ。どのみち、あんたその膝じゃ立てないんだろ?」

「そうだな、クリーンヒットって奴だな。」

「またどこかで会おう。」


そう言って、去ろうとするフィロスにサージアスが待てと言う。


「さらに強いやつを相手にすることになるぞ、良いのか?」

「全部返り討ちにしてやる。」


その時、サージアスにはフィロスに黒い羽が生えているような気がした。


「そうか、じゃあ行け。」

「あぁ、じゃあな。」


フィロスは剣の柄を離すと走り出した。



数十分走り続けたところで、一台の馬車を見つける。

そのまま走って行くと、フィロスの足音に気づいたのか、荷車の幌が開けられ中から心配そうな顔のファルーとルナが顔を出した。

ファルーなんて泣いてしまっている。

フィロスの確認した瞬間、2人の顔は心底安心したような顔に変わる。

フィロスが近くまで行くと、2人から手が差し伸べられる。

ファルーは思いっきり両手を広げていたため、抱き上げてやり、ルナの手を借りて荷車に乗り上がる。

そして、フィロスが荷車に座ったのを見届けるとさらにルナが抱きついてきた。


『心配させないでよ!次やったら処置しないからね!』


半分涙声になっている。


『ファルーも、しんぱい、した!』


ファルーもフィロスに抱きつく腕を強くする。


『ごめんな、もう、ないよ。この前も同じことを言ったが、今回は本当だ。俺はもっと強くなってお前らを守る。無茶はもうしない。』

『ほんと?』『本当に?』


ファルーとルナが同時に上目遣いできいてくる。

それをフィロスは無言で抱きしめ返してやった。


『そうだ、俺、名前を思い出したんだ。』

『名前を教えてくれないし、名乗ってるところも全然見ないから気になってた。』

『だよな。色々あって、記憶喪失を起こしてたんだ。俺の名前は、フィロスだ。』

『ふぃろす?』

『あぁ、そうだぞ。フィロスだ。』

『ふぃろす、だいすき!』

『俺も大好きだぞ、ファルー。』


フィロスはファルーの頬に自分の頬を擦り付ける。

普通はこれは変態になるのだろうが、獣っ娘であるファルーとの間には匂い付け、愛情表現のようなものなのである。


『わ、私も、フィロスのこと好きよ!』

『そうか、俺も大好きだぞ。』


さっきから少し遠慮がちだったルナをフィロスは強く引き寄せる。

ルナは少し頬を赤くしていたが、すぐにフィロスに体を預けた。


『トンファー』

『何も言うな。今ここにいれば文句は無い。歩き出すぞ。』

『わかった。これからもよろしく。』

『わかった。』


答えるとトンファーはゆっくりと歩き出した。


『フィロス、ケガはない?』

『してない。』

『おなかすいた?』

『少し空いてるが、今は眠い方が強いからな、寝ないか?』

『こんな体勢で?』

『誰かに見られるわけじゃない、良いだろう。今はお前らを抱きしめていたい。じゃあ、お休み。』

『え、うん、お休み。』

『おやすみ。』


フィロスは沈むように眠りにつき、ファルーがそのフィロスに甘えるように抱きつきながら寝るのを見ると、ルナは観念したようにフィロスの胸に頭を置いて眠りについた。


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