第18話〜記憶〜
暗い。
何も見えない、暗闇だ。
真っ暗な中に俺は立っている。
俺は、さっき矢が胸に刺さって死んだんだ。
しかし、自分の胸を触るもそこに矢はない。
ここは普通、俺は死んだんだよなとかつぶやいたりするところなのだろう。
じゃあ死んだとは思わないのか、と聞かれるとそういうわけではない。
ただ、もっと天国か地獄かわかりやすいものだと思っていたのだ。
その時、どこからともなく声が聞こえて来た。
「フィロス、聞こえないの?フィロス。まだダメなの?」
一言で言い表すなら幼女の声。
ファルーとは少し違い、高めの声だ。
その幼い声で誰かの名前を呼び、またダメかとため息をついている。
そのフィロスとかいう人とこの暗闇の中で会えるのかは分からないが、今にも泣いてしまいそうなその声につい声を掛けてしまった。
「どうかしたのか?」
ちなみに、どこにいるかわからないので暗闇を見つめながら。
「え‥‥」
話しかけられるとは思っていなかったのだろう。
幼女の呼ぶ声が止まる。
「すまん。声が聞こえたから。」
「フィロス、聞こえるのね!やっと繋がったのね!」
幼女は安心した声を出す。
しかし、俺はそのフィロスという者ではない。
ちゃんと修正してやらねば。
「俺はフィロスじゃない。期待させてすまな
「ううん、フィロスはフィロスだよ。だって、あたしがフィロスに名前をつけてあげたんだもん。」
「名前をつけた?」
それこそ俺ではない。
なんせ俺の名前は‥‥いや、今はそんなことはいい。
とりあえずこの娘にちゃんと俺がフィロスじゃ無いってわかってもらわないと。
「うん、あの時はこんな真っ暗じゃなかった。真っ白なとこにあたしとフィロスしかいなかった。」
幼女がやけに細かく説明していくので、頭の中にその様子を想像していく。
「真っ白だったけど下には今みたいに魔法陣があったわ。ずっとね。」
「いや、こっちには見えないよ。」
「え?さ、探してみて!どこかにあるはずだよ!」
泣きそうになっている幼女の声に俺は周りを見回す。
しかし、それらしいものは見えない。
どころか、自分がどこらへんまで見えているのかもわからない。
自分の目先さえも見えていないのでは無いかというほど真っ暗だ。
とりあえず、足の感触はあるので何かにぶつからないようにしながら歩いていく。
その間も幼女は俺に話しかけてくれていた。
「フィロス、ほんとにそっちには魔法陣はないの?」
「無いよ。今探して歩いてるから。」
「そう、見つけたらすぐに教えてね。」
「わかってるよ。」
幼女の泣きそうな声にいつの間にか俺は優しく声を出していた。
「君の名前を教えてくれない?」
「え、アイビー、フィロスがつけてくれた名前だよ?」
「アイビー?」
その言葉に俺は一瞬足が止まり掛けた。
アイビーは、元の世界にもあった花だったはずだ。
確か、
「花言葉は、永遠の愛、友情、不滅、誠実。」
「うん!フィロスはあたしに友達って意味の名前を付けてくれた。」
フィロスは以外と詩人っぽい人らしい。
「フィロス、俺とあった時のことをもう少し教えてもらえるか?」
「うん、フィロスは最初にあたしと会った時、とってもびっくりしていた。」
「だろうな。今でも驚いているよ。」
「あたしがフィロスに友達になってくれたらなんでもしてあげるって言ったら、フィロスはもうすでに願いは叶ったって言っていたの。」
「願いは叶った、か。」
フィロスはほんとに不思議な人だな。
そう思いながら、なおも歩いていく。
何かに当たることもなければどこかに着きそうな気配もない。
「それで、無条件に契約は出来ないって言ったらフィロスはもう平凡には戻れないように俺を縛ってくれって言ったの。」
「平凡‥‥」
俺の心に何かがのし掛かるような感覚を得る。
「だから、あたしは契約でこの世界にフィロスを縛って友達になってもらったの!」
楽しそうに語る幼女の声。
そんなに友達が欲しかったのか。
「それで、今から会うって時にフィロスが名前を聞いてなかったって言って、あたしにはまだ名前がなかったから、無いって言ったらアイビーって名前を付けてくれた。」
このフィロスは90%俺と同じ世界から来ている。
しかし、何か引っかかる。
それを見つけるために俺は幼女を促した。
「それから?」
「名前を付けて貰ったからお返しに名前を付けてあげたの。俺にも名前を付けてくれないかって言われたから。」
確かに元の世界の名前を使うのは違和感で怪しまれるかもしれないからな。
その世界の住民であるこの娘に名付けて貰えばおかしく思われないかもしれない。
「それで、最後に‥‥‥」
幼女の声が詰まる。
「どうした?」
俺が聞くと幼女はゆっくりと話し出した。
「最後に、フィロスは俺はここまでの記憶を失ってそっちに行くだろうから、また会えたら名前を聞いてやってくれって言われたの。」
「そうなのか。」
「うん。だから、あなたの名前を教えて。」
「俺の名前は‥‥‥」
言えなかった。
なぜかはわからないが名前を思い出せないのだ。
これでは幼女の言う通りだ。
しかし、俺はフィロスではない。
今まで幼女が語って来た内容を覚えていないのだ。
その時、急に頭が痛み出し、俺は地面にうずくまった。
「どうしたの!?大丈夫?」
幼女の慌てる声が聞こえる。
そして、俺はでかい針で刺されるような痛みの中、何かを掴み掛けていた。
「アイビー、もう一度名前を聞いてくれるか?」
「前みたいに呼んでよ。」
「え?」
「フィロスはあたしのことをアイって呼んでくれる。」
「そうか。もう一度俺の名前を聞いてくれるか?アイ。」
幼女の声を復唱するようにアイ、と発しただけで頭痛が増していく。
もう気を失う寸前だった。
そこに幼女の声が掛かる。
「あなたの名前を、教えて。」
「俺の、俺の名前は、フィロスだ。」
青年がそう発した瞬間、暗闇だった周りは一気に全てが白へと変わり、地面には複雑で巨大な魔法陣が浮かび上がった。
その中心に青年は立っている。
そして、その前には黒に塗りつぶされたような背の低い人型の影が立っている。
青年は片膝をつくとその影に話しかけた。
「ありがとう、アイ。全部ではないけど思い出せた。俺はフィロスだ。寂しかったよな。すぐに会いに行く。こんなところで死んでいる場合じゃなかったな。」
「うん、大丈夫だよ。もうフィロスとあたしは心で繋がってるんだもん。好きなところを見て来て。それがフィロスのもう1つの願いでしょ?」
「ははっ、バレていたか。」
あの時、自室で寝た後、俺は突然白く何もない空間に出た。
そこで意味もわからず歩いていると、この娘と会ったのだ。
今みたいに、あの時も黒い影だった。
影が地面に手を付くと綺麗な文様の魔法陣が浮かび上がり、話しかけられた。
「あたしと友達になって!」
それからはさっきまで幼女の言っていたことと同じだ。
まだ覚えていないことの方が多いが、自分とアイだけは思い出せた。
「フィロス、あたしたち離れてても友達だよね?」
「あぁ、もちろんだ。」
「あたしいい子で待ってるから、絶対に帰って来てね!」
「絶対に帰るよ。」
まだまだ思い出せないことばかりだが、少しずつ思い出せばいい。
なんせ、俺とアイには寿命というものは存在しないから。
それがなぜだったかも思い出せないが。
「じゃあ、そろそろ戻るぞ。」
「また話しかけていい?」
「いつでも来い。」
「うん!またね。」
幼女の影は可愛く手を振ると消えていった。
さて、俺は戻らないと。
こんなところで死んでられるか。
俺は魔法陣を抜けるために歩き出した。
稚拙な表現ですいません。
次回はかっこよくしますので、ご容赦ください。




