第12話〜黒剣士〜
※今回少し少なめです。すいません。
馬車と接触しないように大通りを横断すると、ギルドの前までやってきた。
相変わらず中の騒がしい様子が外まで聞こえてきている。
その扉を開け放ち中へ入ると、一層騒がしさが増した。
中の様子はプリーモの冒険者ギルドとほぼ一緒で、酒場と一体となっており、掲示板が設置され、受付がある。
プリーモのギルドより1、2回りほど広いのを除いて言えば、プリーモとの違いは、受付の場所がプリーモでは奥側だったのに対しここでは左側に設置されているということか。
その分、大きく開いた右側ではプリーモより多くの席が用意され、その分多くの冒険者が料理や酒を楽しんでいた。
俺は、適当に適当に端の方の席に座り、周りの冒険者たちの姿を見ていく。
四大港というだけあって、実に様々な服装の人たちがいる。
腰に短剣を指し、フードを付けたシーフのような男、自らの身の丈をも超える大剣を背負う女戦士、全身を黒い鎧に包み、同じく腰に差す剣も黒く禍々しく見える黒剣士。
そして、俺がその黒剣士を見ていると、その視線に気づいた黒剣士がこちらに歩み寄ってきた。
これはやってしまったかもしれない。
正直に格好良かったから見惚れていたと言えば許してもらえるだろうか。
男剣士は俺の机の前まで来るとそのまま円形の机の俺の前に座った。
そして、おもむろに口を開いた。
「馬車小屋には行ったか?」
「え、あ、あぁ、行った。」
「商業ギルドには?」
「さっき行ったな。」
「‥そうか。もっと見るからに歴戦の男が来るかと思ったが。」
ごつい黒色の鎧に見合わない少し高めの声で悩み始める黒剣士。
こんな格好をしているが、予想以上に若いのかもしれない。
「格好いいですね、その鎧。」
「そうか、ありがとう。」
棒読みしてしまった俺の言葉に、少しの間自分の黒い鎧を見直す黒剣士。
少しして黒剣士はハッと気づくと俺の方へと向き直った。
「そうだ、鎧を見せるために来たのではない。本題に入るぞ。」
「はぁ、本題に。」
今から本題に入るらしいが、俺が何かしたのだろうか。
慰謝料でも請求されるのか。
「君も、グランベルのことは知っているな?」
「誰だそれ?」
「え?」
「いや、知らないな。」
知らないものは知らないからしょうがないじゃないかと言いたいが、言ったら切り捨てられそうなので黙って待つ。
「ハートリア・グランベル。あの貴族商人のことだ。」
「貴族商人‥‥?あの、赤紫色鎧の刀使いを従えた男のことか。」
「あぁ、そいつだ。」
「へぇ、あいつハートリアって言うんだ。」
「何故君は標的の名前も知らないんだ。」
「ん?」
片手で頭を抱える黒剣士。
何か話が噛み合ってない気がする。
「そのグランベルが今日日の出後間もなく、商業ギルド館内にて、またあの海人種の娘に言い寄り、その付きの旅人に剣を抜かせたらしい。その旅人はつい最近一緒になったようだが、周りにいた者たちの証言から悪いのはグランベルの方らしい。これから探して詳しく話を聞こうと思っている。」
「あー、それ、俺だな。」
「は?」
黒剣士は唖然となり固まってしまった。
「恐らく、あんたがここで会うはずだったのは俺じゃない誰かって事だな。」
頭を落ち着けようとしているのか、頭鎧の上から両手で頭を抱えてしまう黒剣士。
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黒剣士は抱えていた両手をバンッと机に叩きつけると頭の上に感嘆符を浮かべた。
その音に驚いたファルーが肩を跳ねさせた。
「あぁ、すまない、狐ちゃん。で、君があの海人種の娘の付きの旅人か。どおりで馬車小屋にも商業ギルドにも行っているわけだ。」
「あの質問は合言葉だったのか。」
「そうだ。しかし、この質問も変えないといけないな。実はここでは自警団の一員と合流して、その後に君に話を聞きに行く予定だったんだ。」
「そうだったのか。じゃあ、先にその自警団の一員を
「自警団の間者は俺だよ。」
声に振り返ると先ほど見かけたシーフの男だった。
「馬車小屋に
「あぁ、行った行った。いや、行ってないけどどっちも行ったって答えるから失礼するぞ。」
俺と黒剣士の合言葉を言い合う場面を見ていたのだろう。
シーフの男は合言葉を省略させると俺と黒剣士の横、つまりファルーの対面に座った。
「ちょうどいい。今朝の事を教えてもらえないか?」
一応仲間のようだし、ハートリアについて何か聞けるかもしれないという事で、俺は商業ギルドでの出来事を話した。
「あの用心棒が厄介だな。直前までどこにもいなかったのにこちらが剣を抜くとどこからともなく現れる。そういう報告も確かに何件か来ている。守護霊なんじゃないかと噂されるほどだ。」
「いや、それはないだろう。競り合った時俺とあの用心棒は会話をしている。」
「まぁ、ただの噂だから元から信じてなんざいなかったからそれはいいんだが、どのみち剣を抜いた状況で交渉ができるとは思えないしな。」
「それより、あんたらは何をしようとしているんだ?」
「まだ言ってなかったな。私が説明しよう。」
黒剣士が名乗りを挙げるが、慌ててシーフの男に止められた。
「待て待て、これ以上は関係者以外には教えられない。お前もあいつを殴りたいのはわかる。しかし、勝手に動かれると困るんだ。」
「じゃあ、その計画に俺も参加させてくれ。最後に1発殴れればいい。他は、指示に従う。」
「‥‥はぁ。」
本来はこんな素人が計画の一部に入ってくる時点でイレギュラーなのだろう。
シーフの男はため息を吐いて、片手で頭を抱え、手振りだけであとは説明しておいてくれと黒剣士に送ると仲間たちのいる机に戻って行った。
それを見計らうかのようにウェイトレスが注文を取りに来た。
「ご注文は。」
抑揚のない声だった。
黒剣士はいらないと言ったので、俺はコーヒーとミルクを、と頼むと無言で頷き、厨房の方へと入って行った。
「さて、軽く説明しよう。グランベルはAランク商人でかなり大きい商業団体の同僚も務めている。父親が起業し、それを継いだ形だが、父親より商才はあるようだ。」
Aランクと言えば、Sランクがない場合最高ランクとなるので高い方なのだろう。
「そして、ある確かな筋からの情報なのだが、」
一気に潜入捜査やスパイっぽくなる言葉の1つである。
「グランベルは、いや、グランベル商会は奴隷売買に関わっているという情報が前々から来ていてな。君の護衛している海人種の娘のように、商人をしている女性にしつこく声をかけて自分の旅団に入れようとしていざこざを何度か起こしている。しつこく声をかけるのも迷惑ではあるが、それはその子たちの為にもなるからあまりにもしつこくない限りはこちらも黙るしかないという状況だ。しかし、国に禁止されている奴隷売買を認めるわけにはいかない。」
「無理やり連れて行かれたような人たちは別として、奴隷になるしかなかったような人や、望んでなったような人たちはどうなるんだ?助け出すだけ助け出してほかって置かれたらそのままのたれ死んでしまうだろう。」
「そうだな。だから、国も両ギルドも奴隷売買を黙認せざるを得ない状況になってしまっているのだ。だから、私たちが出来ることは無理やり連れ去られた者たちを助け出すことだけだ。」
話が少し暗くなってきてしまったところで、ちょうど良く先ほどのウェイトレスがコーヒーを持ってきた。
ウェイトレスはカップを俺の前に置き、軽く礼をすると厨房に下がっていった。
俺はカップの取っ手を持つと一口飲んだ。
予想に反して少し甘くなっていたが、これはこれで飲みやすいので良しとした。
「グランベルの旅団の出発は1週間後らしい。それまでに奴隷たちのいる場所を探し出し救出する。」
黒剣士がちょうど説明し終えたところでシーフの男がまた俺たちの机までやってきた。
「明日の7時、北東門まで来てくれ。詳細は明日伝えよう。」
「分かった。」
「了解。」
そして、すぐにシーフの男は他の席で飲んでいた仲間たちと一緒に冒険者ギルドを出て行った。
話が終わってから、ずっとファルーを見ていた黒剣士はファルーがミルクを飲み終わるとハッと我に帰り、ではまた明日会おう、と去って行った。
ファルーが飲んでいる間に行ってきてしまっても良かったのだが、やはり心配だったのでミルクを飲み終わったファルーを連れて受付まで行き、多くなってしまった魔種の素材を渡し計算しておいてもらうことにした。
その間に、すでにほとんど痛みは消えてしまった腕を診てもらうために階段を登り診療室を訪ねた。
部屋には右手が鱗で覆われた海人種の女性が白衣を着て事務作業をしていた。
その女性に腕を見せると、手から光を出し少しの間動かなくなり、光が消えるとちょっと炎症を起こしているだけだから大丈夫、と何もないところから氷を発生させ、袋に入れて渡してくれた。
恐らくこれが回復系統と氷属性系統の魔法なのだろう。
しかし、確かに腕は折れていたはずなのだが、これも転移・転生者特有の能力なのだろうか。
どうせなら、痛みも減らして欲しかった。
その後、受付に戻り、硬貨で重くなった袋を受け取って街を見て回りながら宿に帰ることにした。
まだ太陽は登り切っておらず、いくつか取引先を回る言っていたルナは帰りが遅いと予想されるので時間があるのだ。
ファルーの手を引いてギルドを出るとそのまま北西大通りの屋台群を見ながら歩いていった。
途中で果実売りの前で止まって、これたべたい、と言ったファルーにリンゴを買ってやったり、ファルーに似合いそうな髪飾りを見つけ買って付けてやったり、新鮮な魚を焼いたものを食べ歩いているうちに太陽はとっくに南を通り過ぎていた。
ご機嫌そうに振られるファルーのしっぽを見ながら、脇道に入り、宿屋に向かい始めた。
宿屋前の広場まで来た時、広場で遊んでいる子供たちを見て、遊んできていい?、と聞くので、ファルーの言葉は通じないからな、と言いながら行かせてやったが、ファルーも本当は遊び盛りな年齢なのだ。
急ぎすぎてもファルーがついてこれないが、出来る限り早く親の元に返してやらないといけないと改めて感じた。
どれぐらい時間が経ったのか分からないが、いつの間にか広場のベンチに座りながら寝てしまっていた俺はファルーに揺すられて起こされた。
『おはよう。』
『あぁ、おはようだな。』
互いに笑いながら挨拶を交わすと、俺は立ち上がり、ファルーを連れて宿に入って行った。
PV?が1000を越えました!
ありがとうございます。
拙い文ですが、これからもよろしくお願い致します。




