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第11話〜クリーペルの港町〜

ルナたちが商業ギルドを出て行った後、ギルド内の全員が固まってしまっていたがローズを筆頭に少しずついつもの雰囲気に戻っていった。


「リュウタロウ、なんで斬らなかった!」


我に返った男は戦士に向かって怒り始めた。


「お前のあの抜刀術なら一瞬で黙らせることも出来ただろう。」

「死人に口無し、と?」

「そういうことだ。」

「それをこの公共の場で言ってしまうあたりあなたはすごい人ですよ。」


リュウタロウと呼ばれた戦士は呆れ顔でため息を吐いた。

そこへ、先ほどまで男を囲んでいた美女2人が駆け寄ってきた。


「ハートリア様、大丈夫ですか?」

「ハートリア様、お怪我はありませんか?」


それにハートリアは振り返り答える。


「えぇ、大丈夫ですよ。怖い思いをさせてしまいましたね。」

「いえ、滅相も無いです。」

「そうです、ハートリア様のお誘いを断るあの女がいけないんです!」

「ははは、あの子は少し恥ずかしがり屋なだけですよ。いつかは僕の旅団に入ってもらいますからね。‥‥えぇ、いつかは、僕の物になってもらいます。」

「無礼な女にも手を差し伸べ続けるハートリア様、さすがですわ。」

「さぁ、君たち、出発は1週間後だ。それまでクリーペルを楽しんで。僕はあの子を手に入れてこよう。」


意味深長な言葉を並べ、ハートリアと呼ばれた男は美女とともに商業ギルドを出て行った。




俺は、左腕の痛みをこらえながら黙ってルナを波止場の先まで引いて行った。

へりに座り、横に座るように右手で地面を叩いて示す。


少しの間、沈黙が続いた。


先に口を開いたのはルナだった。


「ごめん、ちゃんと言わないといけなかったね。」

「‥‥これ見て。」


青年は腕を出す。

その腕は、通常折れないはずの方向に折れ曲がっていた。


「あの鎧の人、剣を抜く時の威力だけでこれだった。多分次はない。」


そう言うと、青年は痛々しい音とともに腕を元の方向に戻した。


「ごめん。」

「違うよ。喧嘩を売ったのはあっちで、買ったのは俺個人。ルナだったら手は出さなかったろ?その攻撃に耐えられなかった俺の体が悪いだけ。」

「‥‥ごめん。」

「だから、違うって。俺はルナの護衛で、ルナの仲間だ。仲間に守ってもらったら普通はなんて言うんだ?」

「‥‥‥ありがとう。」

「あぁ、どういたしまして。」


俺は下を向いて泣きそうになっているルナを撫でる。

それを見て、膝の上のファルーが少し頬を膨らましていたため、ファルーの頭も撫でてやった。

そのまま、ルナが落ち着くまで朝日の反射する海を眺めていた。


数分して、落ち着いたルナが喉が渇いたと言うので、テラス席から海を見ることができる海岸沿いの大通りのカフェに入ることにした。

カフェのテラス席に座り少しすると、猫耳を生やしたウェイトレスさんが注文を取りに来た。


「ご注文はお決まりですか?」


普人種以外の獣人族も普通に働いているのか。

いや、思い返せば俺の目にはファルーしか見えていなかっただけで、プリーモでも視界内には何人かいたようないなかったような。


『狐ちゃんは何にしますか?』

『‥これ。』


突然の獣人語に耳をピクリと動かしたファルーは、メニュー表のミルクらしき飲み物を指差しながら答えた。


「私はコーヒーで。」

「じゃあ、俺もそれで。」

「かしこまりました。少々お待ちください。」


コーヒーがあったことにも驚きだが、なんせ俺はメニュー表が読めない。

誰かの言ったものに便乗するしかない。

そろそろ本気でこちらの文字の勉強をしないといけないな。


また少しして、同じ猫耳のウェイトレスさんが2杯のコーヒーと1杯のミルクを運んできた。

ウェイトレスさんが店内に戻っていくと、ルナはコーヒーを一口飲んでため息を吐いた。

俺もマグカップに口をつける。

そして、ルナは1度深呼吸をすると話し始めた。


「聞こえていたとは思うけど、実は私海人種なの。」

「あぁ、知ってたよ。」

「え?」


俺が気づいてることがそんなに驚くことだったのか、ルナの話の腰を見事に折ってしまった。

なので、俺から少し話すことにした。


「普人種のことを話す時のルナはどこか他人事のように話していたし、普人種は獣人語が喋れないって自分で言っておきながら自分で喋っていたしね。先ずもって、モワイヤンの村で起こしに行った時、腕の鱗が見えていたから。」

「そうだったんだ。じゃあ、海人種の伝説は知ってる?」

「いや、ほとんど知らないな。」

「じゃあ、かいつまんで説明してあげる。」


知識を披露することが好きなのか、ルナの声には明るさが戻ってきた気がした。


「今から百数十年前まで続いていた戦乱の刻のことは知ってるよね?」

「あ、あぁ、なんとなくはな。」


恐らくこれは小学生でも知ってるとかそれぐらいのレベルでのこの世界での常識だ。

知らないと言ったら変な目で見られるかもしれない。

そんな俺の焦りはつゆ知らず、ルナは続きを話し始めた。


「戦乱時代の海人種はマーフォークって呼ばれていたの。で、今もそうなんだけどマーフォークは水中が得意で、普人種には戦う手段が少なかったの。そして、マーフォークたちは海人種特有の〈魅了〉の魔法を使って普人種の人たちを虜にして海に引きずり込んだって言われているの。だから、普人種の人たちは今でも海人種を恨んでいる人が多いのよ。殺し合ったならまだしも、ほぼ一方的に海に引きずり込まれただけだから。この国の国王は共存派だから町に入ったりはできるけど、他の国じゃ入国さえ許されていなかったり。そんなわけで、本当はキミにも秘密にして王都までついてきてもらおうと思ったんだけど、最初からばれていたなんて、今更だけど無用心だったかな。黙っていてごめんね。キミは、海人種は嫌いかな?」


ルナは陰りのある顔で、少し上目遣いで尋ねてきた。


「俺は、‥‥過去のことはあまり気にしない。自分のことも他人のこともね。過去じゃなくて今と、未来を変えていけばいいんじゃないかなと思っている。ルナは〈魅了〉の魔法で人を殺したことがあるのか?」

「ないよ。」

「じゃあ、自分の祖先が何をしたかなんて気にしなくていいさ。俺はルナのことは嫌いじゃないよ。大事な仲間だ。」

「そっか、ありがとう、元気出たかも。」


まだ少し暗いがさっきまでよりはマシな笑顔でルナは微笑んだ。

そして、冷め始めたコーヒーをルナは一気に飲み干した。

それを見たファルーは真似してミルクを一気に飲み干した。

後、2人の視線が俺に集まる。

俺もなのか。

俺は苦手なコーヒーの苦味を我慢して一気に喉に流し込んだ。

俺は実はコーヒーが苦手なのだ。

じゃあなぜ頼んだ。

そうだ、字が読めないからだ。

その後、俺らは飲み終わったカップを回収しに来たウェイトレスさんに渡し、何をするにしても先ず拠点となる宿屋を見つけなければということで、カフェを出た。


この町は、海に接するように馬車二車線分以上の円形のロータリーがあり、その中心にある噴水を中心として放射状に広がっている。

ロータリーから東、西、北北西、北北東に向かって4本の二車線道路が生え、そこから一車線道路やそれより細い道が枝のように伸びている。

カフェはそのロータリーから西の大通りを少し歩いたところにある。

大通りに面した店のため、少し値段が高いようだが、味は確からしい。

そして宿屋だが、俺はファルーのために少し高めの大通り沿いの宿に泊まることも考えた。

しかし、ルナもいるためこちらで勝手には決められないし、2人分の宿泊費が高いのも事実だった。

それをルナに正直に話すと、いつもクリーペルでルナが使っている宿屋を紹介してくれることになった。

西の大通りから幾つか内側に入り、馬車の通れない道を進んでいくと少し開けた場所に出た。

そこでは、その近所の子ども達が遊んでいて賑やかになっていた。

子ども達の遊びの邪魔にならないように隅を歩いてその広場に面した建物の1つに向かう。

大きめの民家にも見えるそれは周りの雰囲気に自然に溶け込んでいた。

ルナが扉を開け中に入っていくので、俺とファルーもそのあとに続く。

中では、箒を持った少しふくよかな40代ほどの女性が掃き掃除をしていた。

扉の音に気づくと顔を上げ、ルナを見ると笑顔で迎えてくれた。


「あら、ルナちゃん、お帰り。」

「ただいま、女将さん。」

「その後ろの男の子は彼氏さん?あら、可愛い狐ちゃんもいるのね。」


女将さんに突然抱き上げられ、一瞬その可愛い狐耳をピクッと反応させたが、女将さんの柔らかな笑顔につられて笑顔を返していた。


「か、彼氏とかじゃないよ、女将さん。王都まで一緒に行ってくれる仲間なの。」

「あら、見つかったのね、良かったわ。じゃあ、ルナちゃんは君に頼んだよ。」


そう言って女将さんは俺の肩を叩いた。


「はい、ルナは無傷で王都まで連れて行くつもりです。」

「うん、それで今日は止まっていくんだろう?」

「はい、ダブルが一部屋と、シングルが

「待って、私もファルーちゃんと寝たい。」

「そうか、じゃあ俺が

『いやだ。』


2人して俺に最後まで言葉を発させてくれなかった。


「じゃあ、ダブルを一部屋。とりあえず、1週間分お願いします。」


諦めた顔で一部屋を頼むと女将さんは微笑を浮かべていた。


「はいよ、一泊銅貨30枚だから、1週間で銀貨2枚と銅貨10枚ね。」


人数じゃなく部屋数で値段が変わるのか。

そう思いながら俺は腰の巾着袋から銀色の硬貨を2枚と、銅色の硬貨を10枚取り出して女将さんに手渡した。

この袋、元はあの商人のものなわけだが、少しずつ使っているせいで随分と軽くなってしまった。

代わりに、重くなった背中の鞄から魔種の素材をギルドで換金してもらえば少しは重くなってくれるだろうか。

そう言えば、大きい鞄は馬車に放置していたな。

この後、取りに行くとしよう。


「あら、これだけでいいのよ。」


突然、女将さんは言うと10枚の銅貨のうち、他より一回り大きなものを取り他の9枚を返してきた。


「あっ、すいません。うっかりしてました。」


俺は軽い笑顔を浮かべ受け取る。

実は、うっかりしていたわけではないが女将さんが一枚を取っていったので、予想はできている。


「大きさで見分けるなんて見落としやすいですよね。」

「そうだね、大銅貨は柄なんかもそのままに少し大きくしただけだしね。はい、これが部屋の鍵ね。二階の一番奥だからね。」


うまく名前を聞き出すことにも成功し、俺とファルーとルナは階段を上がり部屋に向かった。

そのまま扉を開けて入ると、ウッドハウスの寝室といった感じの柔らかく綺麗な部屋があった。

奥にダブルベッドが1つ設置され、簡易的なキッチンも備え付けられている。

あちらの世界の通過で換算するとどれくらいになるのかはわからないが、この部屋で一泊銅貨30枚は安い方なんじゃないかと思うほどだ。


「安いし、綺麗でしょ?」


部屋のど真ん中で立ち尽くし周りの見回していた俺に鞄を置いたルナが話しかけてきた。


「隠れ名店だな。」


この世界に傘はないので、恐らく剣立てであろう所に腰から外した鉄の剣を立て、部屋の隅に鞄を置いた。


『ファルー、おいで。荷物貸して。』


俺と同様に新しい環境にキョロキョロしていたファルーを呼び寄せると、その体にあった小さな鞄を下ろさせる。


「さて、ルナ、俺は魔種の素材の換金ついでに冒険者ギルドの診療所に行きたいんだけど、ルナは何か予定ある?」

「あっ、うん、この後取引先に物届けて仕入れもして、時間かかると思うから、鞄出したいなら馬車小屋までは一緒に行こうか。私も商品持ってこないといけないし。トンファーにもご飯あげてこないと。」

「分かった。今日のところは荷物取ったら解散でやること終わったらこの宿に戻ってくることにしよう。」

「了解。じゃあ、馬車小屋に行きましょうか。」


俺らは宿の鍵を預けて宿を出る。

女将さんには、帰りは別でどちらかが先に帰ってくるだろうと伝えておいた。

子ども達の遊ぶ広場の隅を通り、小通りを経て大通りに出る。

大通りの市は、既にいろんな人で賑わっていた。

よく見ると、普人種以外の獣人種らしき姿も時折見かける。


「何、可愛い子でも見つけたの?」


ルナがニヤニヤとした顔でからかいを入れる。


「いや、よく見ると獣人族意外といるんだなって見てたんだ。」

「普人種も獣人族よ。」

「そうだったな。普人種以外のってことだよ。」


会話をしながら俺はほぼ無意識の内に、迷子になっては大変だと思いファルーを抱き上げた。


「ねぇ、腕、大丈夫なの?」


言われて初めて気づくことだってあるものだ。

折れた骨を一時的に無理矢理元に戻しただけの左腕で、まだ平均より少し小さいとはいえ、10歳ほどの少女を持ち上げていた。


「あぁ、あまり痛みはないな。念のため、診療所で見てもらうだけ見てもらうよ。」

「そう、キミが大丈夫ならいいけど。」


そんな、普通なら絶対大丈夫なわけがないはずの会話をしながら、歩いていると馬車小屋の前についていた。

ルナが小屋の受付の人にギルドカードを見せ、中に入ると様々な大きさの馬車がずらりと並んでいた。

所々で、商人が忙しなく荷物の出し入れをしている姿もうかがえる。


「先にトンファーに会いに行こう。」


ルナがそう言うので、馬車と馬車の間をすり抜け馬小屋の方へ入っていく。

そこでも、かなりの数の馬や魔馬種が綺麗に繋がれていた。

その中にトンファーを見つけそこへ向かう。


『それでね、わたしのご主人がね、剣でズバッて。かっこよかったわよ〜。』

『そうか、よかったな。』


魔馬種同士で会話していた。


『失礼、トンファー、会いに来たぞ。』

『どうした、もう出発か?』

『あら、もしかしなくてもこの子が魔獣語が話せるっていう普人種の子?』

『そうです。どうも、その普人種の子です。よろしく。』


握手しようにもどうすればいいか全くわからないので、それはやめておいた。


『そこは名乗るところだろう、少年。』

『そうだが、普人種なのに話せるってところをつい強調したくなってな。』

『面白い男だ。』

『確かに面白い子ね。』


そんな感じで話しているとトンファーの近くの棒にニンジンをくくりつけ終えたルナが獣人語で話しかけてきた。


『もしかしてそれ魔獣語?』

『そうらしい。』

『キミはいったいいくつの言語を話せるのよ。』

『全部話せたりしたら面白そうだけどな。』

『ルナ、少年、何しに来たんだ?』


そこで世間話が始まってしまうと思ったのか、要件を言えと急かすトンファー。

しかし、俺はついてきただけだし、ルナも飯を届けに来ただけのようだ。


『こんな狭いところであまり大きく体も動かせず、窮屈じゃないか?』


適当に話題を振る。


『ただの馬にそんなことを聞くとはな。』

『興味深いわね、この子。』

『確かに少し狭いが、他の者たちと会話していれば情報も集められ、暇も潰せる。食料も与えられるし、この町では特に朝と夕の2回、馬の大行進があって適度に体も動かせる。何も文句はないさ。』

『そうか、それならよかった。じゃあ、また来る。』

『私のことは気にせず港町を楽しめ。』

『おう。』


トンファーたちと別れ、馬車小屋に戻る。

そこで、ルナの馬車を見つけ荷物を出すとそこで一旦ルナとは別行動となった。

そして、馬車小屋を出た俺は冒険者ギルドへと向かった。


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