表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
3/4

第三章 ヒト族の都



 第一話 語り継がれた敵



 昔々――。


 神々がまだ地上を歩いていた時代。


 古き神トードゥは、新たな神々との争いに敗れ、世界の果てへ追放された。


 それから長い年月が流れた。


 ヒト族は語る。


 魔族は悪である、と。


 魔族は語る。


 ヒト族は敵である、と。


 だが。


 最初に剣を抜いた者が誰だったのか。


 最初に血を流した者が誰だったのか。


 もう誰も知らない。


 知る者がいるとすれば。


 神だけだ。


 しかし、そのことを神が語ることはないだろう。


 —


 丘陵地に築かれたヒト族最大の都。


 中央には周囲を見下ろすかの様にそびえ立つ白亜の城。


 その周囲には行政区。


 さらに外側へ住宅街が広がり、街壁の外には質素な集落が点在する。


 人間。


 エルフ。


 ドワーフ。


 かつては別々の種族だった者たちも、魔族との長い戦いの歴史の中で混じり合い、今では総じて"ヒト族"と呼ばれていた。


 細かい身体的、文化や慣習などの違いはある。


 だが敵の前では一つ。


 敵とは魔族。


 その魔族が存在するからこそ一つになれている。


 それがヒト族だった。


 ◇◇◇


 第二話 勇者テネオ



「また呼ばれたか。」


 青年はため息をついた。


 名はテネオ。


 今代の勇者。


 もっとも。


 勇者と言っても、生まれながらに特別だったわけではない。


 望む望まない、本人の意思に関係なく選ばれた。


 ただそれだけだ。


 選ばれた者は否応なしに強大な武具を授かり、勇者となる。


 拒否は許されない。


 断れば。


 家族も。


 親族も。


 全てを失う。


 だから彼は剣を取った。


 世界のためでもなく、自分の欲のためでもなく。


 大切に思う人たちを守るため、そのためだけに剣を腰に携えた。


 幼い頃。


 森で迷った自分を助けてくれた魔族のことを思い出しながら。


(全部が悪い奴じゃない。)


(……でも。)


(戦わなければ。)


 答えはまだ見つからない。


 見つかる気もしない。


 ◇◇◇


 第三話 変わり始めた戦場



 最前線の砦。


 斥候が報告する。


「最近、魔族が前へ出てきません。」


「魔物だけをけしかけてきます。」


「投石や投槍が増えています。」


「無理に追ってきません。」


「撤退も早い。」


 部族代表たちは首を傾げた。


 今までと違う。


 理由が分からない。


 なにかよからぬ企みでもあるのではないかと、邪推ばかりが頭をよぎる。


 さらに別の報告。


「魔族領深くで、人間の女を見ました。」


 会議室が静まり返る。


 見間違いではないかと聞き返すが、事細かい説明からは見間違いを疑う余地は無かった。


 想像もしていなかった。


 まさか人間が。


 捕虜か。


 奴隷か。


 研究材料か。


 誰にも分からない。


 ただ。


 嫌な予感だけが残った。


「テネオ。」


「……はい。」


「確認してこい。」


 勇者は静かに立ち上がった。


 ◇◇◇


 第四話 戦わない魔族



 鋭い小枝が茨のように突き出た鬱蒼とした森。


 一歩踏み出せば泥飛沫が勢いよく跳ねる泥濘みだらけの湿地。


 軽く擦れただけでも薄皮が傷つきそうなザラザラでゴツゴツとした岩場。


 細かいことは気にしない魔族にとって有利で、こちらにしてみれば不利な場所。


 何度も魔族と遭遇した。


 だが。


 以前とはなにか違う。


 剣を交える距離まで近付く。


 魔族はこちらを見る。


 踏み込んでくるのかと身構える。


 しかし来ない。


 下がる。


 何かの策かと気を張りながら、こちらが前に出る。


 下がる。


 油断はいけない。


 そういう戦法を覚えてきたのかもしれない。


 そう考えながら集中を切らさずさらに前に出る。


 下がる。


「……?」


 切りかかってこない。


(なんだ?)


 殴りかかってこない。


(なぜだ?)


 無理に追撃もしない。


(どういうことだ?)


 しかも。


 以前よりどこか身綺麗だった。


 革手袋。


 簡素な手甲。


 盾。


 小さな傷には布を巻いている者までいる。


(何があった。)


 テネオは理解できない。


 今までなら魔族はもっと。


 後先考えずに乱暴で。


 なりふり構わず野蛮で。


 戦術や戦法なんて感じさせない、ただただ力任せだったはずなのに。


(ダメだ、考えがまとまらない。)


 退いていく魔族を、その場は黙って見送った。


 ◇◇◇


 第五話 落とされたもの



 また遭遇。


 また膠着。


 また何もせず、逃げるようにして退いていく。


(アイツ……武器すら持ってなかったな。)


(どこからか逃げてきた?)


 去った場所に何かある。


 荷物を一つ落としていった。


 偶然か。


 故意か。


 分からない。


 剣先で軽く叩いてみる。


 何も起きない。


 慎重に拾い上げて中を見る。


 樹脂。


 油。


 蜜蝋。


 乾燥させた植物。


 香草。


(食料なのか?)


 そして。


 色鮮やかな花。


「……花?」


 戦場には似合わない。


 何に使うのかも分からない。


 毒にも見えない。


 薬にも見えない。


(これも食べる?)


 結局。


 何もわからないまま、わからないからこそ報告のため全て持ち帰ることにした。


 花だけは。


 叔母たちと妹分への土産として。


 戦わずして得た戦利品を、少しだけ別に包み直して持ち帰ることにした。


 戦わずに済んだという話も、きっと良い土産となるだろう。


 ◇◇◇


 第六話 違和感



 帰還したテネオは、見たままを報告した。


 身振り手振りを加えながら、その時の様子が分かるように事細かに。


 誰も理解できない。


 テネオの説明がヘタだったわけでもない。


 説明された状況から何も得られなかったからだ。


 報告を終えてテネオが去ったあとも議論は続く。


 戦場にいた。


 盾も装備していた。


 たぶん戦闘前提だろう。


 そもそも魔族だ。


 なのに戦わず退いた。


 しかも落としていった物。


 たぶん武器でもない。


 たぶん兵糧でもない。


 たぶん軍事物資でもない。


 花。


 油。


 蜜蝋。


 香草。


 全てがハッキリとわからない。


 だが全てが何か関係ある気もする。


 意味が分からない。


 議論にすらならない。


 部族代表たちは結論を出せなかった。


 一方その頃。


 城壁の外。


 質素な集落のひとつ。


 その中にあるテネオの家では。


「わぁ、きれい。」


 フロスが花を受け取り。


 セミナが香りを嗅ぐ。


「いい匂い。」


 それだけだった。


 戦わず済んだうえに、手に入れたのが花だったという話も皆から喜ばれた。


 戦争とは無関係な、小さな笑顔。


 小さな笑顔を作ったその花が。


 この世界を大きく変える最初の一輪になることを。


 まだ誰も知らない。


第三章をお読みいただきありがとうございました。


◇◇◇


イメージソングはこちら。


https://www.youtube.com/watch?v=SqWdxDNAwC4

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ