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第二章 巨人の里

 第一話 英雄の帰還



 巨人に鷲掴みのまま運ばれた美咲。


 森が開けたタイミングで巨人が一言。


「我らオーガの里だ。」


 眼前に広がる巨大な街を見て驚く。


「里」と聞いていたのに、人間の地方都市ほどの規模がある。


(規模名称おかしいでしょ……。)


(そもそもサイズがおかしい……。)


 鷲掴み運搬酔いと格闘しながら、自由に動かせる首だけをフル活用して美咲は周囲を見渡す。


 すれ違うオーガ達は全員半裸に近く、一見すると野蛮に見える。


 しかし建築は綺麗に区画整理され、上下水路も整備されているようだ。


 そのギャップに驚く美咲。


(……なにこの近代ラージサイズ裸族文明。)


 美咲を鷲掴みにしたオーガが帰還すると街中が騒然。


「ヒト族を連れてきた!」


「あれは生きてるのか!?」


 などと一斉に騒ぎ立てたかと思いきや、次の瞬間には誰が説明するでもなく勝手に。


「ウェルムが何か考えがあるのだろう」


「ウェルムのすることだ、いずれわかる」


 という空気になり沈静化。


 まるで自分の尻尾に驚いた猫が飛び跳ねているかのように、勝手に騒いで勝手に落ち着くといった様相だった。


(一大事変持続力みじかっ!)


(というか……ウェルム?)


 身動きが取れないという諦めのおかげで、美咲の脳内は完全に危機感消失クリーン状態だ。


 ウェルムは急に立ち止まると一言だけ。


「アスピキオ。」


 散開するオーガ達の間をぬって、若いオーガが飛び出してくる。


「はい!」


「任せる。」


 それだけ。


 アスピキオは何を任されたのか理解し、


「お任せください!」


 と敬礼のように胸を叩く。


 美咲に何も告げることなく、ウェルムはその場を立ち去った。


 美咲とアスピキオと呼ばれていた若いオーガを置き去りにして。


(なんかわからないけど、わたし、任されたー!)


(藤堂美咲の運命やいかに!?)


(いや、そんなこと言ってる場合じゃないけど……ほんとに。)


 ◇◇◇


 第二話 英雄という生き方



 アスピキオが里を案内。


 いや、連行か。


 いや、案内のようだ。


(よろしくね、ガイドさん。)


 ありとあらゆることに驚きすぎて、ありとあらゆることに麻痺しつつある美咲だった。


 ガイドさんは割と饒舌だった。


 ・ウェルムがどれだけ凄い存在なのか。


 ・魔王軍で英雄であること。


 ・オーガが魔王軍ではあまり賢く思われていないこと。


 ・しかしウェルムだけは別格。


 ・ウェルムあってこそのオーガ一族の繁栄。


 ウェルムの偉大さや尊さ、凄さや武勇伝を熱弁するアスピキオ。


 アスピキオの中で養殖されたウェルムへの尊敬を惜しむことなく開放してくる。


 一方で美咲は


「へぇ〜。」


 くらい。


 アスピキオの脂の乗ったブリカマに対して、蒸した白身魚のように淡白な反応で返す。


 そんな淡白な反応にも気づかないぐらい熱弁は続く。


 途中の建物やら謎のモニュメントについて最小の説明をしてはくれるのだが、アスピキオの熱弁によりウェルム情報以外が全く頭に入ってこない。


 里の案内と言うよりも、里の中を歩きながらウェルムについての説明を聞いただけの状態。


 淡白な反応を返す美咲にアスピキオは。


「もっと驚け!」


 と勝手に盛り上がる。


(わたしはアンタに一番驚いてるよ……)


 ◇◇◇


 第三話 ヒト族という珍獣



 自由行動開始。


 熱弁止まぬ監視付きではあるが。


 街を歩く。


 みんな睨む。


 向こうが大きいので、こちらからしたら小さい自分を見る目が全て睨んでいるように感じるだけかもしれない。


 そう思いたいという心理も働いているかもしれない。


(……なんてね)


 などと、どこか冷静に考えながら歩いていてふと気がつく。


 睨むと言うよりも、どこか憐れみの視線にも感じる。


 案の定。


「可哀想に。」


「研究されるんだろ。」


「ウェルムも酷なことを。」


 という勘違いエフェクト発動。


 結果として敵意より同情が増える。


「なんか誘拐された被害者みたいな扱いなんだけど。」


 思わず口に出た。


「ナンカユーカイ?」


「ガイシャ?」


 珍妙な言葉を発する変わったヒト族だと冷ややかにアスピキオは美咲を見る。


(とっ捕まった可哀想なヒト族って言ったほうが通じたかな?)


(実際、とっ捕まったヒト族なんだけど。)


 などと考えながらアスピキオをチラッと見る。


(アスピキオ氏、ガイド20点、通訳0点、デリカシー論外。)


 冷静な時の美咲の辛辣さは種族を選ばない。


 ◇◇◇


 第四話 英雄からの命令



 どこからかウェルムが現れた。


 一言だけ。


「材料。」


 ネイル用品を集めろという命令。


(モールス信号より必要最小限のワード……。)


(こっち来る前にも、お客さんでこんな人いたなー……。)


(て、こっちってどっち?)


 ウェルムの一言にアスピキオは二つ返事。


(それでいいのかアスピキオ氏!)


 手始めに美咲は。


 “どんなものがこの世界、この辺にあるのか”


 アスピキオに聞き取りから始まり、


 蜜蝋


 植物油


 香草


 樹脂


 などを集められそうな目処は立った。


 トップコート製作までの道のりはまだ見えないが、ネイルバーム開発のロードマップはできた。


 ◇◇◇


 第五話 呪い騒動



 せっせとネイルバーム製作用の素材集めに努めていたある日、オーガ達の間で皮膚病が流行しだす。


 美咲の体感で、全体の30%といったところ。


 この辺だけの特異な病気ということでなければ、美咲の知識にあるどうってことない肌トラブル程度のもの。


 しかし、肌丈夫というか雑な作りなオーガ達には稀有な事態らしい。


 里中パニック。


「呪いだ!」


「神罰だ!」


 オーガ達大騒ぎ。


「あー、これ乾燥と雑菌ですね。」


 完全に冷静さを失ったオーガ達。


「ザキン!?うわあああ!」


 何かもわからないのに聞き返しもしないで勝手に恐れる始末。


(目に見えない生き物の呪いですって言ったら面白いだろうな……)


 などとも考えたが、想像を遥かに上回る収集不可能なことになりそうなので言いたい気持ちをグッと堪えた。


 医薬品が必要どころか、清潔にしてスキンクリームでキチンとケアすれば治る程度のものに相変わらず大騒ぎしているオーガたち。


 対して驚きもしない美咲。


 この両者の認識には、“不吉”と“不潔”ぐらい差があった。


(小キズ程度は何とも思わないくせに、なんなの?)


(でもオモロ)


 ◇◇◇


 第六話 スキンバーム



 呪術性皮膚疾患の騒ぎが一向に収まりそうにない。


 しばらくはこの事態を個人的な楽しみとして観察しようとも思ったが、材料集めにも支障が出てきたので事態の収集を図ることにした。


 ネイルバームの材料と製造法を応用。


 材料はすでに揃っている。


 あっと言う間にスキンバーム完成。


(解呪バームって名付けたほうがウケそう……ふふ。)


 一瞬、黒美咲が顔を覗かせる。


 結局は無難に。


「お薬ですよ」


 と簡単に説明して、患者オーガに塗る。


 脳筋用にソフト変換した手入れの方法を指導。


 数日後。


「おおっ!?」


「治ってる!」


「解けた!呪いが解けたぞ!」


 などと騒いで、一連の騒ぎが止まる。


(バームは溶けたけど呪いはどうだろう……ふふ)


 黒美咲、再び。


 里もかなり落ち着きを取り戻してきた頃、あちらこちらでオーガ達がヒソヒソと噂する姿が見られるようになった。


「あのヒト族何者だ。」


「ウェルムがあのヒト族を連れてきたのはまさか……」


 なんとなくその空気を感じ取っていた美咲は思う。


(脳筋の直流思考回路ってすごい)


 そう。


 オーガ一族の思考コンデンサはひじょうにシンプルな装置なのである。


 ◇◇◇


 第七話 シンケルス



 皮膚病《呪い》蔓延もほぼ終息という頃、アスピキオが慌てて美咲のところへ来る。


 どうやら、周りはみんな皮膚が治っていってるのに、アスピキオの妹はいまだ治る気配がないとのこと。


 今では可愛いとこがあるとも感じ始めていたアスピキオが、妹だけは皆と別の呪いにかかっているのではないかと泣き出しそうな顔で美咲にうったえる。


(いいかげん呪いから離れろ)


(でもオモロ)


 心の距離が近いほど、美咲は辛辣だ。


 説明をするより対処したほうが話が早いと思い、アスピキオの妹には美咲が付きっきりで直接ケアをする。


 その最中、改善のヒントが普段の生活の中にあるのではないかと雑談まじりでアスピキオの妹、シンケルスに聞く。


 家事。


 もちろん水仕事も含む。


 アスピキオは全てをシンケルスに任せっぱなしにしていることが判明する。


(アスピキオ……呪いの正体はキミだよ)


 家事。


 特に水仕事の大半をアスピキオがしないとシンケルスの呪いは解けないと軽く脅し、シンケルスのスキンケアに全力を注ぐ。


 数日後、完治。


 治らないわけがない。


 むしろ罹患前より肌が綺麗に。


 何ならおまけに爪まで綺麗に。


 アスピキオ兄妹大感激。


 けど、きっと兄と妹で感激しているポイントが違うんだろうなと美咲は感じていた。


(面白いから黙っとこ)


(アスピキオ、爪とか気にしてなさそー)


 性格は悪くないが、悪い部分もちゃんとあるのが美咲だ。


 これを機に、アスピキオの妹シンケルスと仲良くなる。


 ついでに、水仕事を女性ばかりにさせると呪いは再来するかもしれないとアスピキオを脅しておく。


 そして、シンケルスを通じて里のオーガ女子にも美容の大切さと喜びが広がりつつある。


 さらにアスピキオを通じて、水仕事を男性が手伝わないと再び大変なことになると話が広がる。


 嬉しい副産物だ。


「日常ケアって大事なんだ。」


 という価値観も少しずつ芽生える。


 ネイルバームやネイルケアの材料集めが大優先とするアスピキオ。


 ケア方法を学ぶのが大優先とするシンケルス。


 敬愛するウェルムからの指示とはいえ、シンケルスに凄まれると材料集めを後回しにするのを拒めないアスピキオ。


 ギリギリアウトなシスコン。


 そんなアスピキオの様子を見ながら、本気度の低い声援を心の中で送っておく。


(にーちゃんガンバー)


(それにしてもオモロ)


 この関係においてのヒエラルキーの頂点は、ある意味で美咲かもしれない。


 そう、黒美咲。


 ◇◇◇


 第八話 少しだけ変わった街



 街を歩く美咲。


 以前より視線が柔らかい。


「あの薬のヒト族。」


「あのヒト族の術師。」


 相変わらず評価がバラバラではあるが、里に来てしばらくの間続いた嫌な感じは薄らいだ。


 よほど神経質にならなければ、ほとんどそういうものは無いと言っていいだろう。


 子どもが近寄る。


 女性も話しかける。


 少しずつ市民権を得る。


 嫌な感じはしなくなったとはいえ、それでもたまに遠くから睨むオーガ達もいる。


 それは美咲にというより、美咲越しに映る無口な英雄に対してという感じだ。


「ウェルムの株ばかり上がる。」


「気に入らない。」


 新たな火種。


 美咲も薄々と気がついている。


 気づいてはいるが、何をどうすればいいのかわからない。


 どうにかしたいのか、ということもわからない。


(人もオーガも変わらないね)


 結果、静観。


 そんなことを考えている美咲や微量の悪意のことなどは、ウェルム本人だけは全く気にしていない。


 気にしてないから気づかない。


第二章をお読みいただきありがとうございました。


◇◇◇

イメージソングはこちら。


True justice is”cute”


https://www.youtube.com/watch?v=SqWdxDNAwC4&list=PLotKldLgKicwR2mtugcEaagtiPB-VXA-X&index=190

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