竹の魔改造と、武装するE班の初陣
百体近い魔獣の解体作業は、想像以上に骨が折れた。
大型のミノタウロスやオーク、ホーンベアーの巨体を捌きながら、俺とヤスキヨは「この魔核、いくらで売れるんだろうな」と、下世話ながらも切実な関心を寄せていた。
やがて迎えの馬車が到着した。セラムの城塞都市まではここから一日の行程だという。 俺はせっかくなので、特性の違う竹数十本を切り出し、荷馬車に積み込んだ。
「ねえ、タクミ! この馬車の乗り心地、どうにかしなさいよ!」
街道を進み始めて数時間。豪華な騎士団の護衛がついたとはいえ、未舗装路の突き上げは凄まじい。
カレン――女子たちはこの世界の名乗り方に合わせて、いつの間にか下の名前で呼び合うようになっていた――が、荷台で悲鳴を上げている。
道中、俺たちはヴァウロニアから魔法の講義を受けた。
この世界には「マナ」という物質があり、百人に一人の割合でそれを取り込む器官を持つ者が生まれる。俺たち「勇者候補」は、その適性が極めて高いらしい。
属性は火・水・風・土・光・闇の六種。さらに、身体強化などの『スキル(属性外魔法)』が存在する。これらは「賢者の石」という触媒に触れることで引き出されるそうだ。
そんな解説を、オタク知識全般に明るいキヨシとヤスシが通訳してくれるおかげで、女子たちとの会話も驚くほど弾んだ。
かつての「キモ・オタ・カス」呼びが嘘のように、今はタクミ、キヨシ、ヤスシ。
リナさん――リナからの好感度も少しは上がっただろうか。そんな甘酸っぱい期待に浸っていると、一行は宿泊地となる小さな町へ到着した。
土塀に囲まれた西洋風の田舎町。
夕食のスープは美味かったが、インフラは魔核頼みで、風呂も冷暖房もない。女子たちが不満を漏らす中、俺は『シノガラ』のサバイバル術を活かして、環境改善に乗り出した。
まずは馬車の「サスペンション」の自作だ。
竹の弾性を利用し、荷台の裏に三脚状に割った竹をスプリングとして装着。さらに、竹そのものが持つ「竹油」を潤滑剤代わりにし、車軸の回転をスムーズにした。これで明日の乗り心地は劇的に改善されるはずだ。
次に、リナのために本格的な矢を五十本ほど作成。 そしてヤスキヨの二人には、護身用の「竹製スナイパーライフル」を組み上げた。
構造はシンプルだが、原理は強力だ。
竹筒に仕込んだ竹ひごを極限までしならせ、矢竹の弾丸を撃ち出す。試しに裏手の大木を狙うと、弾丸は凄まじい速度で幹を貫通した。六甲の訓練でウサギを狩っていた時以上の、恐るべき破壊力。これに持ち手を付ければ、力自慢の二人にとって頼れる相棒になる。
「よし、これで準備は整ったな」
夜風に当たりながら、俺は一人、闇に包まれた町を眺める。 背後で、わずかに草が擦れる音がした。風の音にしては、あまりに「意志」の宿った気配。
(……誰だ? いや、誰もいない。やっぱり気のせい?)
その気配の主が、監視役の秋山先生だとは、今の俺には知る由もなかった。
◇ ◇ ◇
翌朝、俺たちはセラム城塞都市を目指して出発した。
俺が夜なべして改造した馬車は大好評。竹のスプリングが路面の衝撃を吸収し、乗り心地だけでなく引いている馬の疲労も劇的に軽減されたようだ。
「タクミ、他の馬車にもこれをつけてくれんか!」
辺境伯に直談判されたが、丁重に断っておいた。この特殊な竹を切り出し、加工できるのは俺の『両刃鉈』とサンカの技があってこそ。素材も技術も、俺の専売特許なのだ。
道中、リナに和弓と矢を、ヤスキヨにはバネ竹ライフルを預け、実戦テストを行うことにした。
そこへ、伸縮警棒の威力不足に悩んでいたシオンが「私にも日本刀を造って」と食い下がってきた。
「竹で刀なんて、所詮は竹光だぞ?」
そう言いながらも押し切られて削り出したが、やはりこの竹は異常だ。完成した刀身は真剣以上の切れ味を誇りながら、重さは半分以下。
試し振りを終えたシオンは、不敵に微笑んだ。
「これならいける……天衝幽玄流奥義、『桜雪一閃』、いつでも出せるわ」
獲物が揃えば、試したくなるのが人情。
俺たちは辺境伯に願い出て、あえて騎士団の本隊から距離を置いた。そこを狙って現れたのは、ワーウルフに騎乗したゴブリンの集団――約三十騎の強襲部隊だ。
「よし、やれ!」
俺の合図で、リナの矢が空を裂き、ヤスキヨの放つ竹弾丸が乾いた音を立ててゴブリンの脳天をぶち抜いた。
撃ち漏らした個体が幌の上から馬車に飛び込んでくるが、俺は四メートルを超える長大な竹槍を操り、電光石火の刺突でトドメを刺していく。
最後はシオン。馬車を追い抜こうとしたワーウルフの首を、彼女の『竹光』が一閃した。 ……まさに一瞬。文字通り、雪が舞うような鮮やかさで魔獣の首が宙を舞った。
全滅まで、わずか数分。
魔核の摘出作業をしているところに、異変に気づいた騎士団が血相を変えて戻ってきた。
「……これを、君たちだけでやったのか?」
全滅したゴブリンライダーの群れを前に、騎士たちは言葉を失っている。
自分たちの武器の威力に驚くヤスキヨたちを横目に、俺は確信した。
この世界の『竹』という隠れ蓑で、モブのフリをして生き抜くのは、案外容易いかもしれないと。
◇ ◇ ◇
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