潜伏する監視者と、神隠しの古文書
――教師・秋山 side――
光の残光に身を投じ、辿り着いた先は――竹林の中だった。
だが、ここは京都ではない。肌を刺す空気が、先ほどまでとは決定的に違う。
隠密を駆使して気配を断つ私の感覚に、野生動物特有の、ぎらついた殺気がひしひしと伝わってきた。幸い、その矛先は私ではなく、少し離れた場所にいる巧たちE班に向いている。
夜目も効く私の視界が捉えたのは、文字通りの地獄絵図だった。
巨大化し、凶暴化した野生動物。さらには鬼か、あるいは牛頭の妖怪か。おぞましき異形の群れが巧たちを襲っている。
(……どうやら、死んで地獄に落ちたようね)
ろくな人生を送ってこなかった自覚はある。だが、感傷に浸る暇はない。私は背負っていたナップザックから二振りのクナイを取り出し、即座に戦闘態勢へ移行した。
しかし、私の警戒は不要だったようだ。
巧は、次々と妖怪どもを血祭りにあげている。杜若も、古武道の免許皆伝に違わぬ鮮やかな体捌きを見せている。
だが、巧の動きは別格だ。あれは『サンカ』仕込みの、殺しに特化した実戦術。武道の心得がある杜若や松島が落ち着きを取り戻せば、彼の「異常性」に気づくのは時間の問題だろう。
(巧が『サンカ』の者だと露見する前に殺るか……。あるいは、混乱に乗じて他の班員を始末し、口を封じるか)
冷徹な思案を巡らせていた矢先、新手の部隊が現れた。
中世を思わせる古めかしい装備に、彫りの深い外国人。彼らが交わす会話を盗み聞きしながら、私はサンカの深奥に眠る古文書の一節を思い出していた。
――伝説の戦士『竹蔵』の神隠し。
一部のエリートのみが閲覧を許されるシノガラの歴史書。そこに記された「異界への消失」と同じ事態が、私たちに起きたというのか。
幸い、巧が発揮した異能は、この世界の住人には「女神の加護」として受理されたようだ。巧自身も、不用意にサンカの名を出す気配はない。
どうやら、私の耳に備わった『遠聴』の力も、その女神とやらのギフトらしい。諜報員としては、これ以上ないほど「食える」能力だ。
古文書の知識のおかげで、現状は概ね理解できた。だが、まだ圧倒的に情報が足りない。
しばらくは姿を隠し、巧たちの動向を見守るとしましょう。
(せいぜい楽しませてちょうだい、竹内くん。あなたの命運は、私の指先一つに懸かっているのだから)
◇ ◇ ◇




