「女神の加護による無双」という周囲の勘違い
「じゃあ、グリザン辺境伯さん? 詩音たちをここへ呼んだ人はどこにいるのかしら」
杜若が伸縮警棒を肩に担ぎ、不敵に首を傾げる。
そんな強気な二人と違い、常識人の松島さんは顔を強張らせて口を開いた。
「ちゃんと、聞かれたことに答えたほうがいいと思います。私たちは冒険者なんて危ないものじゃありません。魔法も使えない、ただの高校生なんです。修学旅行の途中で、眩しい光に包まれて……気づいたらここにいたんです」
「……高校生? 修学旅行? うーむ、君の話を聞く限り、異世界から召喚された『勇者』に相違ないようだが」
グリザンが顎髭を撫でる。
「アステール教会が龍魔王の復活を予言し、王族が勇者を召喚したとは聞いていた。この地に降臨するとの神託もあった。神に選ばれ君たちはこの世界に召喚される時に、われわれにない強力な加護を賜るとは聞いているが……。
だが……召喚直後に、レベル上げもせず魔獣を屠る勇者など聞いたことがない。しかも、魔法も使わずに、だ」
「その魔力を帯びた青い植物は何でござるか! それが魔獣を倒す女神の加護を秘めているのでござるか!」
「自分も、尋常ならざる気配を感じるであります!」
質問攻めに遭い、松島さんが怯えたように一歩下がった。
(――莉那さんを怖がらせるんじゃねえ)
俺は無意識に、一歩前へ出た。
さっきまでの「影の薄いモブ」の気配ではない。
「この植物は『竹』といって、草と樹木の両方の特性を併せ持っている。成長が早く、柔軟でいて強靭だ。弓や槍の武器だけじゃない。工芸品、楽器、さらには食用や薬、燃料、紙……農業の土壌改良にまで使える万能素材なんだ。何より俺たちの世界じゃ、神が宿る神聖なものとして祭事には欠かせないんだよ」
(俺たちサンカにとっては、竹細工は生活の糧であり、戦いにおいては罠や暗殺具に化ける。まさにサバイバルの象徴だ。……まあ、そこは言えないんだけど)
「竹、というのか。強靭かつ神聖……なるほど、魔道具のようなものか。少なくともこの王国には存在せぬ植物だが……。ローズ王女の祈りに応え、創造神が勇者召喚の触媒として、この地に顕現させたのかもしれんな」
グリザン辺境伯は感銘を受けたように頷いた。
「セラム様、この者たちを領都まで連れ帰り、ギルドで鑑定を受けさせるべきかと。もし正式に勇者と判定されれば、即刻王都へ報告せねばなりませぬ」
「自分も騎士団長に賛成であります! 魔族との決戦を前に勇者の捜索は最優先事項であります!」
ブッシュとシルバーの言葉に、辺境伯は決断を下した。
「よし、儂とブッシュは駐屯地まで戻り、馬車を用意してくる。一時間ほどで戻るゆえ、その間、シルバーとヴァイデは魔獣の魔核を回収しておけ。
ヴァウロニア、お主は勇者殿たちの護衛を」
「了解っす。うちはこの人たちと親交を深めるっすよ」
ヴァウロニアが馬から降り、俺たちの方へ歩み寄る。セラム辺境伯は「この竹林が結界壁となって魔獣を防いでくれるだろう」と言い残し、土煙を上げて去っていった。
「なあ~んだ。竹内の力は女神の加護によるものなんだ? 瞳が万華鏡のように色彩が渦巻くのもその影響? すぐに元に戻ってたけど……」
「だと思う。俺も無我夢中で……。自分でもびっくりしてるよ」
桜坂は俺にこっそり囁いてきた。俺の力は女神の加護と勝手に勘違いしてくれるのは好都合だ。それに話を切るように、ヴァウロニアが親し気に話かけてくるおかげで、俺は三人から何気に離れることができた。
「ねえねえ! そのお揃いの服、いい素材を使ってるっすね。触らせてほしいっす!」
ヴァウロニアが目を輝かせ、女子三人の輪に飛び込んでいった。
制服の生地や、彼女たちが使っているデオドラントの香りに興味津々のようだ。意外にもファッションの話題で、松島さんたちもすぐに打ち解け始めた。
一方、残されたシルバーとヴァイデは、転がっているゴブリンの額から石のようなもの――魔核を抉り出していた。すると不思議なことに、魔核を失った魔獣の死体は輪郭がぼやけ、煙のように霧散していくではないか。
「……?」
驚きを隠せない俺に、シルバーが説明してくれた。
「魔獣は額の魔核で肉体を維持しているのであります。これを抜き取れば、構成を維持できず霧散するのです」
「そうそう。僕ら冒険者はこの魔核を売って生活してるんだ。魔力の結晶だからね。……君のその弓、魔核を埋め込んでいるわけじゃないんだろ? なのに凄まじい魔力を感じる。形も僕らの弓とは根本的に違うようだけど」
「そうですね。素材――和弓は竹ですが、洋弓は主に木材を使います。竹の特性を活かし、二メートル以上の長さを全体でしならせて歪みを分散させる構造なんです。射程も威力も段違いですよ」
(これもサンカの先祖たちが試行錯誤して完成させた、究極の機能美だ。欧米には竹が自生していなかったからな。素材の勝利だよ)
俺が和弓を渡すと、ヴァイデは信じられないといった様子で、自分の弓と見比べながら弦を引き絞っていた。
「おい、お前ら! 竹林の中に引っかかってる魔獣の処理も手伝てくれ!」
シルバーの呼びかけに、俺とヤスキヨは竹林の中へ。女子たちは無視を決め込んでいるが、俺たちは魔核回収を手伝い始めた。
俺にとってはひと昔の日常だけど、ヤスキヨはこちらに来た時に耐性を授かったのか、グロい作業も意外と平気だ。
竹の先端に串刺しになったウルフやゴブリンを下ろすため、ヤスキヨが竹を力任せに曲げる。
大型の魔獣さえ拘束した堅固な竹が、二人の手にかかればグニャリと手の届く高さまでしなる。
「……なんだ? その馬鹿力は。常識的に考えておかしくないか?」
シルバーやヴァイデが試しても、竹は微動だにしない。ヴァイデは「こいつらは女神から馬鹿力を授かったんだ」なんて言って、みんなで笑っていたんだが……。
ふと視線を感じ、竹林の影に潜む気配を感じた。だけど気配はすぐに消えそこには何もいなかった。
(錯覚にしたら、殺気がこもっていた。六甲で教官たちとしたの恐怖の鬼ごっこで感じた恐怖に似てたけど……。まさか、異世界に『サンカ』がいるわけないし)
俺は頭に浮かんだ突拍子もない考えに頭を振って否定したのだ。
ここまで読んで頂きありがとうございました。




