辺境の騎士団と、順応しすぎる少年少女
莉那のほうに急ごうとすると、新たに馬の蹄の音が聞こえてきた。
方向は、莉那たちのいる竹林の向こう側!
目を向けると、革鎧を纏った五人の男たちが馬を駆り、弓を構えて現れた。挟み撃ちの形になったゴブリンたちが、奇声を上げて男たちへ襲いかかる。
馬上から矢が放たれるが、猿のように機敏なゴブリンには当たらない。距離が五十メートルを切ると、男たちは弓から大剣やハルバードへと持ち替えた。
しかし、重量級の武器はゴブリンの素早さに翻弄される。馬の鼻先を錆びた剣で突かれ、嘶きとともに竿立ちになった馬から男たちが投げ出された。
(平地でのゴブリンはあんなに速いのか。あの重い剣じゃ当たらないはずだ)
俺はすぐさま手近な真竹と矢竹、そして蔦を切り、即席の弓矢を組み上げた。
距離は百メートル弱。
連続して放った矢は、騎士たちに飛びかかろうとしていたゴブリンの肩を次々と射抜いていく。
不意の援護に驚き、矢の飛んできた方――つまり俺の方を見る男たち。
俺は「早くトドメを刺せ」と顎でジェスチャーを送る。俺の矢はあくまで動きを止めただけだ。
そこからは形勢逆転だった。動けないゴブリンを男たちが仕留めていく。
俺が莉那たちの元へ辿り着く頃には、五匹のゴブリンはすべて物言わぬ肉塊に変わっていた。
「ありがと……、まさかあんたがあんなに強いとは……」
「その身のこなし、古武道の熟練者のよう」
「その弓矢の作りと命中率、どこの流派なんですか?」
莉那たちの視線が見直したとばかりに好奇に溢れている。不味い。目立ち過ぎた?
どう言い訳しようかと迷っていると先ほどの騎士たちが近づいて来た。
「助かった! 礼を言う。……して、君たちは冒険者か何かか? 妙な装束だが、なぜこんな場所にいる。それに、この『しゅっ』とした奇妙な木は何なんだ?」
矢継ぎ早に投げかけられる質問。
目鼻立ちの整った、まるで西洋の筋肉質な俳優がそのまま甲冑を着たような風貌。何より、彼らの言葉が「日本語」として脳に響く違和感に、俺たちは言葉を失った。まあ、俺への関心がうやむやになったのはよかったけれど……。
沈黙を破ったのは、やはり桜坂だった。さすがはハーフ、外国人の圧に慣れている。
「ええっと、あなたたちは……? ここはどこなんですか?」
「おお、これは失礼した。儂の名はグリザン・セラム。これでもトレミエール王国のセラム辺境伯を務めておる。で、この槍使いが騎士団長のブッシュ・クローバー。そっちの若いのが……」
「そちの槍に比べれば、わしのはまだまだでござる」
「自分はシルバー・グラス。同じく騎士団員の弓使いであります!」
「僕は冒険者のヴァイデ。辺境伯に雇われている。……君、その弓は魔道具か? 命中補正のスキルでもあるのかい?」
「うちはヴァウロニアっす。魔法使いだから分かるっすよ、その植物……ものすごい魔力を帯びてるっす」
グリザンは、ハルク・ホーガンのような髭を蓄えた屈強な中年。騎士団長のブッシュは、赤紫の短髪で相撲取りのような巨漢だ。ヴァイデはハリウッドスターのようだ。
ヴァウロニアと名乗った女性は、中東の踊り子を思わせる扇情的な装束にローブを羽織った美女だった。右耳の上でまとめた赤髪が、どこか危険な色気を漂わせている。
「トレミエール王国? どこよそれ。辺境ってことは、ど田舎なの?」
「何言ってんだよ桜坂さん! 辺境伯に冒険者、魔法使い……王道だよ、王道! こりゃ間違いなく『異世界転生』やんけ!」
「ちゃうで、これは『召喚』や! 異世界の誰かがワシらを呼んだんや。転生やったら赤ん坊からのやり直しやけど、このパターンは時空魔法で勇者一行として異世界に引っ張られた証拠やな。チート能力を授かっとるはずや!」
ヤスキヨコンビの解説が止まらない。
「辺境領っちゅうのは国境の要所や。辺境伯は国家最強の一角で、王に対しても強い発言権を持っとるんやで」
「なるほどね。設定はわかったわ。で、召喚されたアタシたちが元の世界に帰るにはどうすればいいわけ?」
「それは……召喚者に聞くしかないな。大体は魔王を倒すか、問題解決して強制送還や」
桜坂とヤスキヨの、あまりに順応しすぎた会話。普通なら腰を抜かす場面だが、カースト上位のメンタルとオタクの妄想力は、この異常事態さえ「コンテンツ」として消費し始めている。
ここまで読んで頂きありがとうございました。




