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E班の初陣:竹槍の一閃と少女の剣と道化の策

 ――回想、終わり。そして今、俺はここに立っている。

 目の前で、この群れのボスであろうミノタウロスがもがいている。 鉄格子のごとく密集した竹藪に巨体を阻まれ、完全に身動きを封じられていた。

 俺は手に持った骨董品の『両刃鉈りょうばなた』を逆手に構える。

 六甲の教育機関を卒業する際、記念品として与えられた代物だ。今思えば、忍者が使う苦無くないを大型化し、実用性を極限まで高めた暗殺具だった。

 なぜこんな危険物を修学旅行の荷物に忍ばせていたのか?

 それはおそらく、無意識に眠っていた「忍び」としての生存本能が、この異常事態を予知していたからに他ならない。

 本来、この鉈は竹細工を作るための道具だ。かつてサンカが表の家業としていた竹細工職人を装う際、町中で持ち歩いても疑われないようカモフラージュされた『得物』なのである。

 俺は目の前の竹に肉薄し、目にも止まらぬ速さで刃を振るった。

 ほとんど抵抗なく、斜めに切り飛ばされた竹の先端。皮を剥かれたその縁は、どんな鋼よりも鋭利に研ぎ澄まされた『天然の竹槍』へと変貌する。

 ゆっくりと倒れ込んできたその竹槍を掴み、俺はミノタウロス目がけて一直線に地を蹴った。

 巨像がやみくもに棍棒を振り回すが――六甲の地獄を生き抜いた俺の目には、止まっているも同然だ。

 一歩、最小限の動きでそれを躱し、俺は躊躇なく竹槍を三連撃トリプル・スロットルで叩き込んだ。

 突き刺し、引き戻す。その速度はもはや音を置き去りにしていた。

 ミノタウロスが突き出した手は空を掴んだまま、竹藪に絡まり、停止する。

 次の瞬間、その額、喉、心臓から、紅蓮の鮮血が勢いよく噴き出した。

 凄惨なはずの光景。だが、この血の匂いに思い出したのは、遥か昔に六甲山で初めてイノシシを仕留めた時の感覚だった。

 竹槍は、獲物の生命力を根こそぎ引き抜くニードルナイフと同じだ。心臓を貫けば、体内のすべての血を噴出させ、絶命へと至らしめる。

「……ふぅ」

 ようやく、周囲を見回す余裕ができた。気配はすでに察知していた。

 約三〇メートル先、俺たちE班の面々――松島、桜坂、杜若、梅田、藤井寺――は全員、この異世界に飛ばされていたようだ。

 この谷底の幅は百メートル強。先ほど生えた竹林が埋め尽くし、左右の崖と合わせて魔獣の侵入を阻んでいる。

 だが、完璧ではない。竹藪の隙間を潜り抜け、串刺しを免れた数匹の小型魔獣――ゴブリンの群れが、錆びた剣を振りかざして莉那たちの元へ襲いかかろうとしていた。

 すぐに莉那たちの元へ駆けつけたかったが、ボスの断末魔に呼び寄せられたゴブリンが俺に向かって飛びかかってきた。

 さらに竹林の奥では、囚われたミノタウロスや、力士を醜悪にしたような『オーク』たちが、仲間を救い出そうと暴れ始めている。

 十数匹の犬頭の魔獣――コボルトが、剣や棍棒で竹を切り崩そうとしていた。

 時間はかけられない。相手は力自慢の怪物どもだ。竹の檻が壊される前に掃除を済ませる必要がある。

 俺は飛び込んできたゴブリン二匹の喉を竹槍で同時に貫き、左から迫る個体には竹槍を大きく旋回させて足払いを食らわせた。ひっくり返った胸元にトドメの一刺し。返す刀で、右から襲ってきた個体を回転の遠心力を乗せた逆袈裟斬りで切り上げる。

(……突くだけじゃない。この竹、斬れるのか?)

 急造の武器とは思えない切れ味に内心驚きつつも、視線は莉那たちの方へ。

 横目でチラリと確認した限り、杜若(詩音)は予想以上に「やれる」女だった。

 彼女はロングスカートに隠し持っていた伸縮警棒を、踏み込みと同時に一閃。洗練された流れるような剣筋で、ゴブリンたちの急所を的確に打ち据えていく。

 魔獣が怯んだ刹那、彼女は竹林を背にする位置へと回り込んだ。

 さすがは天衝幽玄流。多対一の鉄則である「背後を突かせない」立ち回りを完璧にこなしている。だが、惜しむらくは警棒の打撃力だ。ゴブリンにとっては決定打に欠けるようで、じわじわと距離を詰められている。

 他のメンバーは杜若の背後に隠れるように竹藪のきわまで逃げ込んでいた。

 魔獣たちは、先ほど仲間を串刺しにした竹林を本能的に恐れているのか、奇声を上げるだけで中に入ろうとはしない。

 俺の戦いを見ていたヤスキヨコンビは、自分たちも武器を作ろうと竹をへし折ろうとしているが――通常ではあり得ない弾力を持つ竹を、素手で折ることは不可能だ。

 二人がかりで体重をかけても、竹の先端が地面につくほどしなるだけ。

 ……待てよ。その「バカ力」があれば、やりようはある。

「ヤスキヨ! その竹をゴブリンに向かって弾かせろ!」

 俺の怒声に一瞬呆然とした二人だったが、俺が手近な竹をしならせて弾く仕草を見せると、すぐに意図を察した。

「「いっけえぇぇーー!!」」

 二人が押さえつけていた竹を同時に放す。

 凄まじい速度で復元した竹の先端が、空気を切り裂く轟音とともにゴブリンの脳天を直撃した。脳漿を撒き散らして弾け飛ぶ個体が、後ろの仲間を巻き込んで転がっていく。

 ゴブリンにしてみれば、青天の霹靂ならぬ『青竹の雷撃』だろう。

 しばらくは時間が稼げそうだ。俺は一気に犬頭の魔獣たちへと突撃した。

 竹林の中では長物は不利だが、俺の槍捌きはあらゆるシチュエーションを想定済みだ。軽やかなステップで竹の隙間をすり抜け、喉、心臓、額へと電光石火の突きを放つ。

 最後に残った豚野郎の胸を貫いたところで、辺りの殺気は完全に消失した。

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