真名覚醒:サンカの末裔・蘭破(らんぱ)
パズルの最後のピースは、物語の中で斑竹姑娘が愛した男の名前。それが、シノガラの戦士が授かる真名に違いない。
「タクミ、ヒントがあったのね! 何を思い出せばいい? 私にもわかる?」
「斑竹姑娘と結ばれた男の名は……? 知るわけないか……」
「知ってるよ! 秋山先生の話が気になって、自分で調べたことがあるもの」
リナが確信を持って告げた。
「たしか――ランパ!」
(……そうだ。俺の名前は……!)
「……ランパ。俺の真名は、『蘭破』だ!!」
その名を口にした瞬間、俺の体からどす黒い瘴気が霧散した。シノガラの「ハタムラ」という呪縛の鎖が、内側から弾け飛ぶ。真名を取り戻したことで、俺の魂は再び俺のものとなった。
だが、休んでいる暇はない。操られた四人が、狂乱のままに最後の一撃を放とうとしていた。
「皆……少しの間だけ、眠っててくれ!」
俺は『蘭破』としての真の異能を解放した。瞳の色が万華鏡のように光渦巻く虹彩へと変化する。両手を地面に着け、バラバラになった竹槍の残骸に、覚醒した魔力を流し込んだ。
「――サンカ秘術・『竹錬成・籠獄』!」
瞬時に竹槍の残骸が四人を包囲し、複雑な菊底編みを施した「籠」が組み上がっていく。 四人は完全に、籠の中に囚われた。
その籠はただの竹ではない。俺の生命力を流し込み、物理的な強度と竹の特性である「魔力ドレイン」を兼ね備えた、絶対不可侵の檻だ。
「なっ……!?」
シオンの剣も、カレンの魔法も、鋼鉄より硬くしなやかな竹の壁に弾き返され、あるいは吸収されていく。四人はそれぞれ緑の光を放つ檻の中に閉じ込められ、その動きを封じられた。
檻の中から、なおも虚ろな目で壁を叩く仲間たち。俺は肩で息をしながら、寄り添うリナの肩を抱いた。
「……助かったよ、リナ。お前がいなきゃ、俺は今頃、自分の手を仲間の血で染めてた」
「……おかえり、タクミ」
「でも、真名の呪縛を解放する方法を知ってたよな」
「うん、たまたまね。『千と○尋の神隠し』でね。白って龍が自分の本当の名前を思い出して従属の呪縛を解くシーンが心に残っていてね。でも、まだ終わってないわよ」
リナの視線の先には、すべてを見通すようなルナ・カグナールの瞳があった。
「真名を取り戻し、己が殻を破りし者よ。サンカの末裔・蘭破。そなた、ようやく『験』の入り口に立ったに過ぎぬ」
カグナールは静かに微笑む。それは敵としての冷酷さではなく、導き手としての厳しさを孕んでいた。
「さて、檻に閉じ込めし四人の魂を、いかにして救い出す? 真名の呪縛は、内側から解かねば意味を成さぬぞ」
「解呪するには、自力で真名を取り戻すか、呪詛をかけた者に解かせるか……それが叶わなければ、殺せばいいはずだろ?」
「相手は王女、しかも召喚者。元の世界に帰る術が失われるやもしれんぞ?」
「そんときゃその時だ。あんたの得になる話なんだから、邪魔はしないだろ?」
「うむ、もちろんだ」
カグナールと言葉に確信し、そして俺はリナを見た。
「俺たちは行かなくては。リナ、この塔の頂上へ連れて行ってくれ。そこから、トレミエールの王都へ飛ぶ!」
マジックバックルの中の「カイト」を確認し、リナの補助で塔を登ろうとしたその時、四人の様子が急変した。
彼らは力任せの脱出を試みようとしていた。今まで以上に必死に神聖武具を竹に叩きつけ、カレンはワープを、シオンはテレポートを試みる。だが、浮かび上がった魔法陣は竹に魔力を阻害され、虚しく弾け飛ぶ。
「「「「「うううううううううっ! 出せ、出せぇぇ!!」」」」」
「出せ! ロザリア・トレミエール様を守らなければ……っ!!」
「ヤバい、ヤバい、ロザリアさまああああああっ!?」
狂ったように叫んだ直後、ぷつりと糸が切れたように四人が倒れ込んだ。
「なに、何が起こったの!? まさか、死んでないよね……!?」
リナが心配そうに俺の顔を覗き込むが、俺にも何が起きたのか分からない。カグナールの方を見ると、彼はどこか愉快そうに微笑んでいた。
「――いま、ロザリア・トレミエールは失せ給ひぬ」
カグナールの口から、古色蒼然とした響きが漏れ出た。




