竹中の姫君:暴かれた禁忌「シノガラ」
俺はふらつくシオンを抱き留め、周囲を警戒した。
すると、青龍が沈んだ血溜まりから眩い光が溢れ出し、地面を突き破って巨大な「竹」が急速に成長を始めた。
それは一瞬にして青龍の体を串刺しにすると、彼を天高くへと連れ去っていく。
これまでにも目にした光景だ。だが、今回は状況が違う。
生えてきたのは、大人一人が抱えるほどの太さがある巨大な一本の竹。
天を突くほどに伸びたその竹は、一節だけを神々しく発光させていた。
黄金色に輝く竹の節から、クナイの先端らしき鋭利な刃が突き出した。
それは見る間に内側から竹を四角く切り裂くと、扉を蹴破るような勢いでパッカリと開き、中から一人の少女が姿を現した。
その第一印象は、ただただ神々しい。内側から溢れ出す神秘的な光に包まれ、色鮮やかな十二単を纏った姿。艶やかな黒髪に透き通るような白肌は、非の打ち所がない美貌を形作っている。
だが、その瞳だけは異質だった。瞳孔は爬虫類のように縦長のスリット状で、タクミと同じ万華鏡のように光を散りばめた虹彩が怪しく煌めいている。
「そこに倒れているのは……お父様! 私はお父様の血によって、呼び戻されたのですね」
ドッサッ!! そこに天から青龍が落ちてきた。
少女は倒れている青龍を認めると、地を滑るような動きで駆け寄り、その亡骸に寄り添った。貫かれた胸に懐から取り出した純白の布を当て、静かに呪文を唱える。
「――『ヒール』」
すると、鮮血に染まっていた布は、まるで時間が巻き戻るかのようにみるみる白さを取り戻していく。俺たちは言葉を失い、その光景をただ呆然と見守るしかなかった。
だが、青龍は生き返ることはない。
「もはやすべきことなし。して、お前たちは、いかにせむとするぞ?」
「はっ?」
「……『お前たちは誰だ』って聞いてるみたい」
高貴な身分を思わせる古風な言い回しに、カレンが素っ頓狂な声を出す。すかさずリナが小声で通訳した。
「誰って……あたしたちはこの世界に召喚された勇者。あたしがカレンで、こっちがリナにシオン。男連中がタクミ、キヨシ、ヤスシよ。……ところで、あなたは何者なの?」
「わらわが名はルナ・カグナールと申す。いにしえのカグナール領主が娘にして――勇士らには『龍魔王』と呼ばれて侍りき」
ゆったりとした口調で告げられたその正体に、弛緩していた俺たちの警戒心は一気に跳ね上がった。
「左様に心臆することなかれ。おのれらが郷へ戻るべき道、説き聞かせんと申すに。それとも、戻らぬおつもりか。私を亡き者になさば、二度と故郷を拝むことは能はじ」
少女――ルナは、俺たちの殺気を受け流すように言葉を継いだ。
「そう警戒せずとも、お前たちを元の世界に帰す方法を教えてやろうと言っているのです。それとも、帰りたくはないのですか? 私を倒してしまえば、二度と故郷の土を踏むことはできませんよ」と言っているようだ。
カグナールの言葉に、俺たちは顔を見合わせた。正直、あの胡散臭いトレミエール王国の姫君より、目の前の彼女の方が信頼できる気がした。
「……どうすれば帰れる?」
俺は初めて、重い口を開いた。
「さて、そなたはサンカの民にや。真に左様ならば、授かるべき証と、耐え忍ぶべき験あらん」
サンカであることが資格であり、試練を受ける権利がある……? 前回の戦いで、敵だった竹蔵もサンカだった。彼女はサンカのことを深く理解して言っているのか、それとも……。
「そもそもサンカとは、山や自然の力を統べる、世を捨てし異能の徒なり。古の出雲族の血を引き、『シノガラ』と呼ぶ秘めたる結社をなし、世の裏側に深く根を張りて、時の権力者を影より操る者たちに侍り。掟『ハタムラ』は絶対にして違うこと許されず、よしんば『シノガラ』の正体を見し者あらば、逃れ得ぬ死の報復を賜るのみなり」
カグナールの言葉は、俺の隠していた正体を白日の下に晒すも同然だった。
「「「「シノガラ?!」」」」
「「「「ハタムラ? それを知ると死の報復って……」」」」
仲間たちが絶句する。だが、一番の衝撃を受けていたのは俺自身だった。いや、俺という個人の意識が、別の「何か」に塗りつぶされていく。




