絶望の先読み:鞘を抜かぬ剣神
シオンを追って瘴気の森へと踏み込んだ俺たちを、待ち構えていた魔獣の群れが包囲する。
打ち合わせ通り、プラム率いるエルフの精鋭たちが前列に躍り出た。
「ここは任せて先に行け!」
前回の戦いと同様、彼女たちは自分たちの役割を弁えている。龍魔王と渡り合う力はなくとも、背後を支える盾としてはこれ以上なく頼もしい。
「死ぬなよ!」
「ふふっ、それって『死亡フラグ』と言うんじゃろ?」
俺の激励に、プラムが茶目っ気たっぷりの笑顔で返す。……この異世界にも「死亡フラグ」なんて言葉、浸透してるのかよ。
「アホか! それはしんがりを務める時のセリフや」
「タクミは、この戦いが終わったら彼女に告白するんやろ?」
ヤスシに間違いを訂正され、今度はキヨシからニヤケ面で突っ込まれた。
「彼女って誰のこと?」
「タクミにそんな人いたの!?」
リナとカレンが食いついてくるが、今はそれどころじゃない。俺は素早く話題を切り替えた。
「カレン! あそこに見える城のテラスにワープできるか?」
「もちろん! 見えてさえいればお安い御用よ!」
「よし、頼む!」
「うん。先に行ったシオンが心配だもんね」
うまく話題を替えられたみたいだ。今度は、転移の直前、ヤスシとキヨシが足を止めて振り返った。
「プラムさん、無理したらあかんで」
「ホンマ、危ないと思ったらすぐ逃げるんや」
「案ずるな。妾たちは大丈夫じゃ。おぬしらに惚れるようなヘマは決してせんからのう」
ヤスキヨの気遣いに、プラムが小粋なジョークで返す。
本来ならズッコケる場面だが、カレンはそれ以上のふざけを許さぬとばかりに、凛とした仕草で『ゴッデス・スタック』を掲げた。
魔獣使い(ティマー)のヒロンが倒れ、魔獣たちの統制は乱れている。彼女たちの腕なら、いざとなれば離脱は容易なはずだ。
「『ディメンション・ゲート』っ!!」
魔法陣が俺たちを包み込み、視界が激しく揺らぐ。次の瞬間、俺たちは城のテラスに立っていた。
◇ ◇ ◇
一方、一足先に突き進んだシオンは、城の中心部にある吹き抜けの大広間にいた。
彼女は片膝をつき、愛剣ゴッド・ファングを杖代わりにどうとか体を支えている。肩を大きく上下させ、荒い息を吐くその姿は、明らかに満身創痍だった。
対峙する青龍は、騎士剣を鞘に収めたまま肩に担ぎ、圧倒的な余裕を漂わせている。
「弱い。弱すぎるな。期待外れも甚だしい。これでは龍魔王様への贄にもならん」
青龍は冷淡に首を振り、シオンを見下した。
その言葉通り、シオンの剣は掠りもしなかった。青龍の「先読み」は、シオンがこれまで知る達人たちのそれとは次元が違ったのだ。
シオンが最速の踏み込みを見せても、青龍は微かな魔力の揺らぎ、視線、呼吸、そして筋肉の予備動作からすべてを察知する。最小限の動きで切っ先を躱し、あるいは受け流す。
広範囲斬撃『ボルテックス・インフェルノ』も『アビス・フレアー』も、発動のための魔力が臨界に達する前に、ピンポイントで剣を合わせられ不発に終わる。
シオンがいかなるフェイントを織り交ぜようとも、その威力が増す前に軌道を押さえ込まれ、ゴッド・ファングは無慈悲に弾き返される。
奥義『桜雪一閃・改』すらも同様だ。壁のような斬撃の濁流を繰り出す前に、その「起点」を止められれば無力に等しい。
しかも、青龍はまだ剣を抜いてすらいない。獲物を弄ぶ猫のように、爪を隠したままシオンを追い詰めていた。




