四天龍魔ヒロン:数千の盾と十の残矢
竹束に身を隠しながら、俺は竹林の中を滑るように移動し、鎧武者たちの懐へと肉薄した。
火縄銃を投げ捨てた武者たちが、一斉に刀を抜く。
面頬の奥に潜む眼窩には、深い闇の中で青白い呪いの炎が揺らめいていた。
俺は竹槍を構え、鎧武者の群れの中へと躍り込んだ。
数十の武者に包囲されながらも、竹槍を振り回し、その呪力を削り取っていく。 そこへ、縮地を限界まで加速させたシオンが、閃光となって飛び込んできた。
死地を分かつ乱戦が始まる――。
激しい乱戦の最中、シオンが振るう神剣『ゴッドファング』が猛然と唸りを上げた。
だが、呪力を実体化させた鎧武者たちに対し、その神聖な斬撃は絶望的に相性が悪かった。
剣技の冴えは、間違いなくシオンが上だ。
四方から肉薄する白刃を最小限の動作で躱し、予備動作なしのカウンターを叩き込む。古武道の真髄――先読みの『後の先』。
だが、武者たちはシオンの鋭い斬撃を避ける素振りも見せず、全身で受けながら執拗に食らいついてくる。
「くっ、キリがない……っ!」
斬っても斬っても、即座に肉体が修復されていく。終わりなき消耗戦。シオンの額に焦りの汗が滲む。
一方で、俺の振るう竹槍は、以前とは比較にならないほどの変貌を遂げていた。
鋭い切れ味もさることながら、切り裂いた断面から「死」が侵食するように敵が霧散していく。核となる人型の依り代さえも黒く変色し、まるで汚泥のように溶け落ちていくのだ。
そこへ、空から凛烈な声が届いた。
「シオン! 道は私が切り開くわ!」
ワイバーンの群れを蹴散らし、リナが舞い降りる。彼女が放つ竹の矢が、シオンを囲む武者たちを次々と貫いた。
矢が突き刺さった箇所から黒い侵食が広がり、俺の竹槍と同じく、不死身のはずの武者たちが音もなく消滅していく。
「ここは任せて、先に行きなさい! この奥にはシオンの力が必要な剣神『青龍』が待ち構えているはずだから!」
「……うん、わかった!」
短く応じ、シオンは地を蹴った。元領主城の中枢へ向け、立ち塞がる魔獣を薙ぎ倒しながら疾風の如く突き進んでいく。
残った俺たちはリナと共闘し、数十体の鎧武者をすべて討ち果たした。
だが、その先に立ち塞がったのは、四天龍魔の一角――『ヒロン』。
「ふふ、よくここまで来ましたね」
ヒロンは冷ややかな笑みを浮かべ、巫女装束の懐から新たな依り代を取り出した。
その数、数百。ばら撒かれた人型は、主を守る不気味な盾のように旋回を始める。
リナが即座に矢を放つが、依り代の一体が自らその軌道上に躍り出た。肉の壁となって強引に矢を押し留める。
「……不味いな」
リナの残矢はもう十本を切っているはずだ。
『一矢一殺』で仕留めたとしても、この物量では計算が合わない。
しかも、依り代たちは執拗にこちらの隙を突き、鋭い刃となってホーミング弾のごとく飛来してくる。
俺の竹槍以外では消滅させることができず、後から合流しようとするカレンやヤスキヨ、プラムたちが展開するアイスウォールやアースウォールも、文字通り紙のように突破されてしまう。
防戦一方。このままではヒロンの本体に指一本触れることさえ叶わない――。
だが、俺もただ守っていたわけじゃない。
この新しい竹の「性質」が、戦いの中で見えてきた。




