叢生(そうせい)転移:血脈の呼び
「リナ、風魔法で肉壁をどかしてくれ! キヨシ、俺たちはあれをやるぞ!」
「「『メルトダウン・バースト』!!」」
ヤスキヨの魔法により、地面が底なしの泥濘へと変貌する。魔獣の侵攻が目に見えて鈍化した。
「『トルネード・アロー』っ!!て ……えっ!? 何これ!?」
放ったリナが驚愕の声を上げるのも無理はない。 今の俺が作った矢をギルドの『賢者の石』で測定すれば、魔力値一二〇%という異常数値を叩き出すだろう。
進化した竹が持つ「細胞死」のスキル。触れた瞬間から腐食が伝染し、個体を根こそぎ消滅させるその威力は、矢が通った一筋だけが完全に消滅し、地面が露出するほどだった。
二割増しの威力に歓喜したリナは、新調した竹矢を五十連射。押し寄せる魔獣を次々と「虚無」へと変えていった。
一方、俺はカレンと共に、アプリコット王国国境付近の砦へと降り立っていた。 目の前には、立ち枯れて見る影もない竹林が広がっている。
「なるほど、無残なもんだな」
「……で、どうするんじゃ?」
カレンとプラムが同時に問いかけてくる。
「再生させるのさ。『叢生』するんだよ」
俺は止血に使っていた布を解いた。治りかけていた右腕の傷に、クナイを当てる。 薄皮を切り裂き、滲み出した鮮血を地面へと滴らせた。
脳裏に浮かぶ言葉を、呪文のように紡ぐ。
「『地下茎は繋がり、理は一つ。此の節を飛ばし、次の節へ芽吹け。――叢生転移』」
地面を伝う血脈が、まばゆい光を放つ。 ボコボコと大地を突き破り、タケノコが、そして巨竹が爆発的に成長していく。
「すごい……!」 「なんじゃ……こりゃあ!?」
呆然とする二人を余所に、俺は自分の感覚を確かめていた。
「やはり二度あることは三度ある――か。どうやらこの竹は俺の血をトリガーにして爆発的に増殖するらしい」
答えるタクミの瞳は、万華鏡のように複雑な色彩が渦巻く虹彩の輝きを放っていた。
「……またその目になってるわ。タクミ、あんた本当に日本人なの?」
「うーむ、竹蔵もかつてそのような瞳をしていたことがあったような……。だが、これで魔獣の侵入は防げる。礼をゆうぞ!」
砦から飛び出したエルフたちが歓喜で抱き合っている。
「カレン。それじゃあ、本来の目的に戻ろう」
「ついに、龍魔王の牙城に突撃ね! まっかせない!!『ディメンション・ゲート』」
俺とカレンたちはシオンの元に返ってきた。
◇ ◇ ◇
四天魔龍の一角、ヒロンを背に乗せた巨大ワイバーン『カムイ』が火炎を吐き散らし、戦場を蹂躙している。
「はあっ!」
シオンが鋭い斬撃を放つが、カムイが巻き起こす猛烈な暴風に軌道を逸らされ、空を切る。上空ではリナが巨大な影の隙を伺っていたが、群れをなすワイバーンたちが主を守る盾となり、彼女の行く手を阻んでいた。
しかし、リナの動きはもはや人業ではない。反重力と慣性無効を組み合わせた異次元の機動で、ワイバーンの牙と爪を紙一重で回避。その合間に、正確無比な一矢を次々と敵の眉間に叩き込んでいく。
「カムイ! あの生意気な女剣士を塵にしろ!」
ヒロンの罵声が響く。
ギャイイイイイイイイイーーーーーン!!
『カムイ』が、鼓膜を震わせる咆哮とともに急降下を開始した。巨大な翼が陽光を遮り、シオンを底なしの影が飲み込む。それはもはや獣ではない。鋼より硬い鱗を纏い、尾の一振りで城壁すら粉砕する歩く要塞だ。
だが、シオンは動かない。
袴を模した制服の裾を風になびかせ、ただ静かに腰の『ゴット・ファング』に手をかけている。深い呼吸。周囲の喧騒さえも、彼女が放つ凍てつくような剣気に同調し、静まり返った。
カムイが地上数メートルまで迫り、その鋭い鉤爪が彼女の喉元を裂こうとした、その刹那――。
「――桜雪一閃」
低く短い呟き。 瞬間、視界をホワイトアウトと見間違うほどの斬撃が爆ぜた。
シオンの姿が消える。あまりの神速に、網膜が情報の処理を拒破する。
カムイの巨体が慣性を殺しきれず、シオンがいた場所を猛スピードで通り過ぎ、岩山を削る凄まじい轟音とともに着地した。
数秒の静寂。直後、カムイの全身から鮮血が噴き出した。




