爆ぜる竹林、進化の予感
その瞬間だった。地面を走る血脈のように光が広がり、大地が輝き始めたのだ。
この光景、見覚えがある。
――ドドドドドドドドドドーーンッ!!
大地が激しく震動し、竹が一斉に芽吹いた。
それは植物の成長というより、爆発に近い。タケノコから成竹へと、早送りの映像のように一瞬で育ちゆく。
目の前のオーガは、遥か頭上で「モズの早贄」のように串刺しにされていた。
竹林は瞬く間に前方へと広がり、百メートル先の魔獣までもが次々と大地に縫い留められていく。
「な、なによこれ……タクミのせい!?」
「た、竹が生えたぁぁっ!?」
カレンとリナが絶叫に近い声を上げるが、俺はそれどころではない。サンカのポーションを傷口に流し込み、聖なる布『比礼』で必死に止血を試みる。
この現象は二回目だ。俺の血が落ちた場所から、間違いなくこの竹林は発生している。
(偶然じゃない。俺の血が触媒となって、休眠状態の地下茎を促成させたのか……?) 頭の中で仮説が閃くが、口から出たのはもっと直感的な言葉だった。
「竹が一斉に枯れるのは、ただの死じゃない。『次世代が生き残るために計算されたリセットボタン』なんだ。一斉に枯れながら、地下では新しい世代が牙を研いでいたんだよ」
「……理由はともかく助かったわ。この竹林があれば大型の魔獣は足止めできる。漏れた奴らは城壁を守るブッシュ団長が何とかしてくれるはずよ」
「ええ。私たちはシオンを追いかけましょう!」
二人の意見に異論はない。だが、俺にはやるべきことがあった。
「ちょっと待ってくれ。せっかく生えたんだ、この『特製』を回収していく」
俺は竹林を進みながら、適当な竹を切り出し、即席の竹槍と矢に加工していく。予備を含め、マジックバックルに詰め込めるだけ詰め込んだ。
カレンたちが周囲を警戒してくれる中、竹槍三本、矢を百本、そして素材としての竹五十本を確保する。
その手に伝わる感触に、違和感。……いや、これは確信だ。この『バンブーナノファイバー』、確実に以前より進化している。
俺の口角が、自然と吊り上がった。
――ッドドドドドドドォォォーンッ!!
前方でド派手な「花火」が上がった。『瘴気の森』の入り口付近だ。あそこは、俺たちがプラム王女や賢龍と初めて出会った場所。
「カレン、あそこへ行きたい!」
「任せて! みんな、あたしの周りに寄って!」
俺の言葉に呼応し、カレンを中心に集まる。
「『ディメンション・ゲート』ッ!」
足元に魔法陣が展開し、一瞬で世界が切り替わった。
そこには、押し寄せる魔獣の軍勢と、死力を尽くして戦うアプリコット王国の兵士たちがいた。その最前線にはプラム王女の姿も。
遠くから見えた花火の正体は、サンカの焙烙玉や百雷銃。そしてシオンの放つ『ボルテックス・インフェルノ』の残光だった。
「やっと来たか、おぬしら! なぜだかわからぬが、トレミエールに向かっていたはずの魔獣どもが方向転換してこちらに押し寄せてきおったんじゃ!」
プラムが叫ぶ。……いや、理由はわかっている。あっちに巨大な竹林ができたせいで、逃げ場を失った魔獣が「ところてん」式にこちらへ流れてきたのだ。
多勢に無勢。倒しても倒しても、後ろから死骸を押し退けて魔獣が迫ってくる。
「砦まで撤退じゃ! おぬしらも乗れ!」
馬を駆るプラムが、俺の手を掴んで強引に後ろに乗せた。
「あの『竹林』があった砦か? あそこの竹はまだ生きているのか?」
「いや、荒れ果ててしもうて、もはや足止めにもならん……。砦に詰める者たちは、王都の民が逃げる時間を稼ぐための犠牲になってもらうしかない……。もちろん、この騎馬隊もな」
プラムは唇を噛み切りそうなほど強く結んでいた。
「プラム、竹林は死んじゃいない。……俺に考えがある。カレン!」
並走するカレンを呼ぶ。
「なによ! シオンを置いていく気!?」
「いや、用が済んだらすぐ戻る。それより、あのプラムの国境の砦の手前の竹林までワープさせてくれ!」
「……何か考えがあるのね?」
「試したいことができたんだ」
「わかったわ。行くわよ! 『ディメンション・ゲート』っ!!」
「待て待て、わらわには何のことやらさっぱり――」
プラムの戸惑いを置き去りに、俺たちはカレンの移転魔法陣へと飛び込んだ。
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