官吏の虚像――アキヤマ先生、シノガラの真実
パニックに包まれる王宮。逃げ惑う宮仕えや、城内に逃げ込もうとする民。それを遮断しようとする門番。
その喧騒を、爆炎が断ち切った。
「『エクスプロージョン・ストライク』!」
背後から放たれた爆裂魔法が、重厚な城門を門番もろとも粉砕する。
遂に、魔獣たちが王城内へとなだれ込んだ。
その様子を渡り回廊から静かに見下ろす女がいた。アキヤマ先生だ。
「やれやれ。情報収集に都合がいいからと官吏の真似事をしていたんだが……ここに来るとは、私の勘が当たったということか」
彼は、モブとして風景に馴染むための眼鏡をゆっくりと外した。その瞬間、彼女の存在感は希薄になり、空気の中へと溶けていく。
魔獣の侵攻は止まらない。第一、第二の砦は瓦礫の山となり、逃げ遅れた官吏たちの鮮血が、辺りに鉄錆の匂いを充満させていた。
王族が座す本丸まであとわずか。広大な敷地内で防衛ラインを敷く衛兵たちが、死に物狂いで足止めを試みる。
そこへ、一筋の閃光が走った。
ミロンが駆るワイバーンの「逆鱗」。硬質な鱗に守られたその急所に、一本のクナイが深々と突き刺さったのだ。 クナイに塗られた猛毒が瞬時に全身を駆け巡り、ワイバーンは苦悶に喘ぎながら墜落する。
「なっ……!?」
振り落とされたミロンは、着地と同時に周囲を警戒した。
音もなく飛来する小刀。魔法による射出ではない。風切り音を殺すよう極限まで刃を加工した、技術の結晶……。
(こんな真似ができるヒューマンがいるのか……!? 居るとしたら)
ミロンは即座に索敵魔法を展開した。
悪意を持つ魔力であれば、『隠蔽』を使っていようが必ず捉えられるはずだ。だが、反応がない。
アキヤマは、忍の里「シノガラ」の秘術――『隠密』によって、自らの存在を概念レベルで消し去っていた。
さらにアキヤマは、僅かな風魔法を操り、草の擦れる音や小枝が折れる音をミロンの耳元に送り届ける。
強者ゆえに、その微細な音に敏感に反応してしまう。
「そこかぁっ!」
ミロンは音の主へ向け、『ロックバレット』『エアーカッター』『アイスジャベリン』を次々と叩き込む。だが、手応えはない。それどころか、放った魔法は自身の配下である魔獣たちを誤射する結果となった。
「イライラするぞ……これは『シノガラ』の術なんだぞ!」
思わず吐き捨てた言葉に、アキヤマの眉が僅かに動く。
ミロンはクナイの追撃を恐れ、周囲の魔獣を肉壁として侍らせながら、開けた場所へと躍り出た。実はそこに誘導されただけなのだが……。
そこは、王城の中庭。 かつてアキヤマがペオニア帝国の間者「五色の死神」と死闘を繰り広げた、彼女にとっての「主戦場」であった。
「お前も、召喚された勇者なのか……!?」
正面に立つ影に向け、ミロンが鋭く問う。
「私の正体など、どうでもいい。……お前の正体が、私にとってはどうでもいいようにな」
アキヤマの声には、冷徹なまでの無関心が宿っていた。
「でも、その格好……」
「これが只の『忍者装束』ではないことは、知っているようだな」
「竹蔵と同じ「シノガラ」の籠編み…、お前らのせいであたいは三百年も!! 殺してやる!」




