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4.時空の揺籠:かぐや姫という名の龍魔王

 しかし、龍魔王は籠の中から最期の切り札を詠唱した。

「――『相転移マテリアル・フェイズ・シフト』!!」

 龍魔王を中心に物質の法則が書き換えられ、全てが純粋なエネルギーへと変換されていく。

 光の暴風雨が吹き荒れ、天を貫くハリケーンとなって突き抜けた。

 その中心にいたのは、龍魔王と竹蔵。

 竹蔵は咄嗟に自らも『籠獄』を錬成して身を隠すが、次元を揺るがす奔流を防ぎきれず、籠が砕け始める。

意識が遠のく中、竹蔵は走馬灯を見ていた。

 竹の節の中から現れた、次元を超えた「サンカのなよ竹の姫」の伝説。

「……笑えねぇ御伽噺だ」

 竹蔵はマジックバックルから「竹の種」を取り出し、全魔力を注ぎ込んだ。

「これなら元の世界に帰れるかもな?『時空の揺籠ヴォイド・クレイドル』!!」

 地面から猛烈な勢いで竹が生え出し、竹蔵と少女を飲み込んでいく。

「相転移」によって解放された膨大なエネルギーが時空を歪め、因果律の裂け目を作り出す。

 物質としての形を維持したまま、膨大なエネルギーを吸収した竹に包まれた二人は次元の狭間へと射出された。そう、竹とは異次元の扉を開く神秘の触媒だった。

 行き先は、未開の惑星「地球」。

 そして、ときを遡った「過去」という名の時間軸へ――。

 西暦八〇〇年代、平安の世。

 静寂に包まれた竹林に、音もなく「世界の裂け目」が生じた。

 時空の境界を超えて溢れ出した未知のエネルギー。それは周囲の竹林を侵食し、その分子構造を異世界の物質へと強制的に再構築していく。

 エネルギーが物質へと転換される激しい余波の中、一本の竹が神々しい黄金の光を放ち始めた。それはもはや植物などではない。異次元の力を封じ込めるための、「器」へと変貌を遂げたのだ。

 のちにこの竹林は三〇〇年ごとに一斉枯死と新生の胎動の代替わりをするようになっていた。

 そして、この竹林は後の世で、「竹蔵」が異世界に飛ばされた時に花が咲き、その種を偶然もって異世界に召喚され、その数年後帰ってきた場所もこの竹林だった。

 その事実は後の時代、『竹蔵の神隠し』に記述された内容ともう一つ『サンカのなよ竹のかぐや姫』の神話として語り継がれいる。


 そこへ通りかかったのは、一人のサンカの竹細工職人。

 世俗からは「竹取の翁」と呼ばれ、サンカの中でも実力者、そして、静かな眼差しを持つ老人である。

 彼がその光り輝く竹に、手慣れた手つきで愛用の両刃鉈クナイを打ち込んだ瞬間――。

 閉じ込められていた「相」が反転し、竹節の内部の異空間と現世が接続された。

 光の霧が晴れた後、そこに現れたのは、三寸ばかりの――恐ろしくも美しい異界の少女だった。

 その正体は、異世界の覇者「龍魔王」。

 時空転移の衝撃で魔力と記憶の大部分を失いながらも、その瞳には王者の威光を宿している。

 光を切り裂くスリット状の垂直な瞳孔。万華鏡のように色彩が渦巻く虹彩は、冷酷な光を湛えて翁を射抜いた。

「……我が名はルナ・カグナール。わらわに魔力が満ちるまで、しばし隠匿せよ」

 残された僅かな魔力で「真名による絶対遵守のことわり」を翁の魂に刻み込むと、少女――ルナは力尽きたように意識を失った。

 これが後に「かぐや姫」と呼ばれる少女と、彼女を守ることを決意した「サンカの翁」の、運命の邂逅であった。

 ルナは翁によって「輝夜かぐや」と名付けられた。

 その異質な爬虫類の瞳を隠すため、常に目隠しをして生活することとなったが、その神がかった美貌までは隠しきれるものではなかった。

 秘匿の努力も虚しく「絶世の美女がいる」という噂は瞬く間に京の都まで広がっていく。

 これは、出雲族の時代以来、歴史の影に潜んでいたサンカが表舞台にその影を落とした瞬間だったのかもしれない。しかし、サンカ一族による徹底した情報統制により、その事実は単なる「絵空事の伝説」として語り継がれるに留まった。

 やがて物語は、チベットに伝わる『斑竹姑娘はんちくこしょう』に近い展開を見せる。

 日本に伝わる「誰とも結ばれず月に帰る」悲恋の物語とは異なり、輝夜の出す無理難題の試練を乗り越えたサンカの若者・竹正ちくただと結ばれ、一人の子を授かったのだ。

 しかし、平穏は突如として破られる。

 天から降り注いだ巨大な光の柱が輝夜を捉え、彼女は巨大な「竹の結晶」の中へと取り込んでしまう。結晶化した竹は驚異的な速度で天を貫くように成長し、彼女を連れ去るようにして虚空へと消えたのである。

 後に残されたのは、古の出雲族の血と、輝夜が遺した龍人の血を引く赤子だけであった。

 その後、サンカの里には時折、万華鏡のように色彩が渦巻く虹彩を持つ子が生まれるようになった。その身体能力は、人としての限界をはるかに凌駕していたという。


 一方、物語の裏側で別の事象が起きていた。

 龍魔王と一緒に時空を超えたサンカの男、竹蔵。

 彼は輝夜が消えて、九百年と数年後、里を覆う竹林の節の中に、彼女と同様に閉じ込められていたのだ。

 竹蔵は、自らの魂とも言える両刃鉈を手に取った。

「……まったく、次はどこへ飛ばされたやら?」

 内側から竹を断ち割った瞬間、異世界の法則から現世の物理法則へと「フェイズ・シフト」が巻き起こる。

 三寸の大きさから、ぐんぐんと元の背丈へと戻っていく竹蔵。

 異界の因果を断ち切り、竹蔵が消えてから数年後、彼は再びこの地に降り立った。

 しかし、帰還した竹蔵は一切の言葉を失っていた。

これがサンカの掟『ハタムラ』を破った代償なのか、あるいは無理やり時空を超えたショックによるものなのかはわからない。

ただ、この出来事は「竹蔵の神隠し」として竹蔵自らが克明に記録し、竹取物語異聞譚と同様、サンカ秘蔵の歴史書として門外不出の書簡に封印された。


◇ ◇ ◇

最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。


龍魔王ルナ・カグナールが「かぐや姫」となり、竹蔵が時を超えて帰還するまでの、ループする物語はいかがでしたでしょうか。

日本最古の物語に、異世界の因果と「サンカ」の秘術を組み込む試みは、書いていて非常に刺激的でした。


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