神聖武具の咆哮と、美龍(ミロン)の属性地獄(なんだぞ!)
王宮の奥深く、重厚な扉の前に立つフルプレートの衛兵たちは、これまでにないロザリアの威圧感に気圧され、黙って道を開けた。
宝物庫の中は、歴代王族が蒐集した国宝級の品々が並ぶ美術館のようだった。
「剣の勇者よ。これが神々の牙――『ゴッド・ファング』。慈愛の聖女よ、あれが神々の杖――『ゴッデス・スタッフ』です。受け取りなさい」
シオンが手に取ったのは、鞘に炎の蒔絵が施された片刃の直刀。抜けば日本刀のように美しい波紋が走り、空気さえも切り裂く鋭さを放っている。
カレンが手にしたのは、滑らかな水晶で造られた無垢な杖。軽く振るだけで、光の軌跡が鮮やかに空を舞った。
「さあ、行きなさい。ロザリア・トレミエールの名において命ずる。王都で狂乱する魔獣どもを一匹残らず……駆逐するのです!!」
「「「「仰せのままに!!」」」」
神聖武具を胸に抱き、四人は風のように部屋を飛び出していった。
その背中を見送りながら、ロザリアはふっと意識を揺らした。……己の内に芽生えた、冷酷なまでの「王の意思」に戸惑う間もなく、彼女の瞳には再び強い光が宿るのだった。
バルコニーから見えた火の手が上がる場所、そこを目掛けてカレンが転移する。
空に現れた転移陣から落下しながら、シオンは手にした『ゴッド・ファング』に膨大な魔力を叩き込こんだ。鞘から抜かれた直刀が、烈日の如き輝きを放つ。
「天衝幽玄流がシオン、参る!!」
空中で身を翻し、一直線に振り下ろされた一閃。
「――『紅蓮渦炎』!!」
ゴッド・ファングから放たれたのは、斬撃というよりは「炎の奔流」だ。幅数メートル、長さ五〇メートルにわたって大地が抉れ、魔獣たちは悲鳴を上げる間もなく消し炭へと変わる。
抉れた地面は、まるでマグマが流れる溝のようにドロドロと赤く溶け落ちている。
シオンに続いて、カレンが『ゴッデス・スタッフ』を天に掲げた。
「逃がさないわよ! 『氷槍弾幕』!!」
魔力によって極限まで圧縮・硬化された氷の礫が、直径五十メートルを埋め尽くす弾幕となって降り注いだ。
精密に制御された氷の弾丸は魔獣たちの急所を穿ち、瞬く間に無数の死体を地面へと縫い付けていた。
「……威力が上がったんはええけど、これ復興に支障が出るレベルやで」
「ほんま、どっちが災害か分かれへんな……」
遅れて着地したヤスキヨの二人が、破壊し尽くされた周囲を見て頬をこわばらせている。
「気配を読んで、人がいないのは確認済み。文句ある?」
「もし怪我人がいても、あたしの魔法で生き返らせてあげるから安心しなさい!」
「「人だけの問題やないわ、この破壊魔!!」」
ロザリアの呪縛下にあるはずの四人だが、戦いの高揚感のせいか、その口調はいつもの調子に戻っていた。
「破壊魔じゃないわ。龍魔はあっち」
シオンの視線の先――。
上空でホバリングするワイバーンの背に、不敵な笑みを浮かべたミロンが仁王立ちしていました。
「なかなかの魔力だぞ。まともにぶつかったらわたいでも危ない量だぞ。……でも、魔法には『相性』があるんだぞ! 『水球の監獄』!!」
ミロンが放ったのは、火属性のシオンをメタるための極大水魔法。
シオンは一瞬で、超高圧かつ超粘性の巨大な水球に閉じ込められました。一千メートル級の深海に匹敵する圧力が、彼女の肺を、肉を、骨を容赦なく圧迫する。
「火に水!? 卑怯な……カレン、やるわよ! 『フロスト・バースト』!!」
カレンが冷気の爆弾を放ちますが、ミロンは鼻で笑う。
「水には土だぞ! 『絶対吸収』!!」
ミロンが操る砂の粒子が、カレンの魔法をスポンジのように吸い取り無力化します。 「お返しだぞ! 『アース・スパイク』!!」
四方から迫る土の棘。カレンは回避が遅れたが、そこはヤスキヨがカバーした。
「『アース・サークル・ウォール』!!」
ヤスシが足元の事象を改変し、カレンの周囲を守る堅牢な土塀を築き上げた。
「シオンを助けるで! 『グラビティ・コントロール』!!」
キヨシは重力魔法で水球の構造を歪め、無理やり引き剥がそうと試みた。
「やるな。でも、無駄だぞ! 『ウィンドウ・バースト』!!……っ、じょ! げっ、ちょっと噛んだぞ」
表面に砂の粒子を爆風で吹き飛ばし、ミロンは小馬鹿にするように舌を出した。
相性を打ち消す魔法を次々と繰り出さすその圧倒的な才覚、そんして性格の悪さに、カレンとヤスキヨは歯噛みする。




