目覚めし王女と、絶対の真名(まな)
トレミエール王都、活気あふれる下町の一角に、直径三百メートルを超える巨大な魔法陣が浮かび上がった。
庶民がその異変に気づいた時にはすでに遅い。陣から這い出した醜悪な影は、次々と実体化し、逃げ惑う人々へ牙を剥いた。
さらに、上空から降り注ぐ絶望――ワイバーンを駆る四天龍・ミロンが、嘲笑と共に杖を掲げる。
「派手にいくんだぞ! 『エクスプロージョン・ストライク』!!」
轟音と共に、密集した家々が爆風に呑み込まれ、瓦礫の山へと変わる。悲鳴すら掻き消す大爆破が、都を赤く染め上げていった。
その喧騒は、城門で足止めを喰らっていたカレンやシオンたちの耳にも届いていた。
「……何? あの煙」
「火事かしら。街の方が騒がしいわね」
門の隙間から中を覗き込む二人に、殺気立った衛兵たちが睨みを利かせる。そこへ、緊急事態を告げる魔道伝書バトが次々と舞い降りた。耳を強化して情報を盗み聞きしたシオンが、鋭く告げる。
「王都内で魔獣が大量発生。全兵士に応援要請が出たみたい」
衛兵たちが慌ただしく屯所から飛び出し、門は固く閉ざされた。
「あたしたちも行くべきじゃない?」
「シオンも同感。……でも、竹光がない
「ああ、悪いことをしたな。だが、お前たちなら魔法だけでも無双できそうだが……」
シオンの武器を壊したアッシュが申し訳なさを滲ませる。だが、ヤスシが首を振った。
「そやけど、まずは本来の目的――『神聖武具』を手に入れるのが先やろ。賢龍みたいなヤバい奴が混じっとるかもしれんのや。丸腰は怖いわ」
「それもそうね。王族に会って、『魔獣を倒してやるから武器を寄こせ』って交渉しましょう。タダより高いものはない。代償等価交換ってわけよ」
カレンの言葉に、冒険者チームは苦笑して辞退した。王宮への不法侵入は、彼らにとって重すぎる不敬罪だからだ。
「仕方ないわね。あたしたちは王宮へ飛ぶわ。神聖武具を手に入れたら合流しましょう」
互いに拳をぶつけ合い、カレンたちが手を繋ぐ。転移魔法の陣が輝き、視界が歪んだ次の瞬間――彼女たちは王宮の豪華なバルコニーに立っていた。
「ここはタワマンの最上階みたいなもんや。ここから入れば、王様の私室に一直線やで」
ヤスシを先頭に、一行は堂々と王宮内へ踏み込む。シャンデリアが輝く広間を抜け、奥の扉を開けると、そこは天蓋付きのキングサイズベッドが鎮座する、甘い香りの漂う寝室だった。
「……ここ、女性の部屋じゃない?」
「男は遠慮すべき!!」
シオンがヤスキヨの襟を掴んで引き戻した拍子に、大きな足音が響く。
「……どなた? キャロルかしら?」
天蓋のレース越しに、人影が身を起こした。
キャロルとは侍女の名前であり、このタイミング目覚めたのは、アキヤマが呑ませた万能薬のお陰だが、トレミエール王族にとって最高のタイミングだった。
「失礼した。私はシオン」
「カレンよ。こっちの男たちはヤスキヨ。心配しないで、何もしないわ。あたしたち、あんたたちが召喚した勇者なの。王様に会いたいんだけど、どこにいるか知ってる? 『さっさと国宝の神聖武具を出しなさい。期待通りに龍魔王をブチのめしてあげるから』って文句が言いたいんだけど」
カレンの不遜な言い草に、ベッドの中の主――ロザリア・トレミエール姫は、天蓋のカーテンをゆっくりと開けた。
その美しさは、美男美女の多いこの世界でも別格だった。人を惹きつける魔性の魅力。彼女は柔らかい笑みを浮かべ、しかし、芯の通った声で問いかけた。
「――勇者様、ですか。して、わらわを誰と心得る?」
「……あんた、誰なのよ?」
カレンの問いに、ロザリアの瞳が怪しく輝く。それは、召喚魔法に仕組まれた「主従契約」を発動させるキーワードだった。
「我が名はロザリア・トレミエール。貴様ら勇者を召喚せし者なり――」
刹那、空気が凍り付く。ロザリアの背後に神々しいまでの魔力が立ち昇った。
「――ロザリア・トレミエールが命ずる。我が意のままに、王都を跋扈する魔獣を駆逐せよ!!」
その言葉は、逆らえぬ絶対の言霊となって四人の魂を縛り上げた。
「「「「……仰せのままに(イエッサー)!!」」」」
虚ろな瞳で片膝を突き、深々と頭を下げる四人。アステール神の加護をその身に宿したロザリアは、凛とした態度で宣言した。
「勇者の力を発揮させるべく、我が身の分身――『神聖武具』を授けましょう。付いてきなさい」
威風堂々と歩き出すロザリアの後を、呪縛に囚われた四人が付き従う。
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