暗躍するアキヤマ ―― 王都陥落の序曲
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今回は「忍者アキヤマ」、彼女が王都をひっかき回すお話です。
影の主役、アキヤマ先生
前々から出したかった「魔法に頼らないプロフェッショナル」としての忍者像。アキヤマはまさにそれを体現してくれました。
帝国の暗殺部隊「五色の死神」も、この世界の基準では相当な手練れなのですが……「魔力はサーチライトのようなもの」という彼女の台詞通り、隠密のプロからすれば、魔力を使うこと自体が「ここにいますよ!」と叫んでいるようなもの。
技術と鍛錬、そして少しの毒。そんな彼女のスタイルが、ファンタジーの常識を壊していくのは書いていてとても楽しかったです。
――忍者アキヤマ SIDE――
私は今、トレミエール王国の王都にやってきている。
ここまで来るのに二週間足らず、暗殺者ギルドの依頼で三つの事件を解決してきたけれど……、どの事件もぺオニア帝国に便宜をはかり甘い汁を吸うトレミエール王国の貴族たちの癒着だった。
しかも、今の王族に不満を持つ貴族どもがぺオニア帝国を後ろ盾にクデータの計画まであった。
まあ、実入りがいいので判明した拠点はすべて潰してきたんだけどね。
やれやれ、どこの世界も腐っている。
私は、小銭のために悪を成敗する必殺仕事人じゃない。サンカの道徳に照らせば、殺しも、詐欺も、盗みもただの手段に過ぎない。
そんな中、ある「獲物」を手に入れた。かつて竹蔵が持ち込んだという「竹の種」だ。闇オークションで大金を積んで手に入れた悪党から成敗の駄賃に奪い取ったもの。
「……十年ほど前、その一部をペオニア帝国の間者が盗み出し、瘴気の森の手前で追っ手に追い詰められた。種はそのあたりに隠したとの話だ」
絞り上げた悪党はそう吐いた。その後はどうしたかって? もちろん、喉を掻き切ってあげたわ。私、完璧主義者だから。
でも、種が隠された場所って、私たちがこの世界に飛ばされた「最初の場所」じゃないの? あそこに生えた竹と関係あるかどうかは無いかわからない。ただ、「竹蔵の残した手記」には……
何せ三〇〇年も経っている種の芽が出るはずもないけれど、念のため残りの種はすべて私が拝借しておいた。科学捜査なんてない世界でも、証拠は残さない。それが私の流儀。
現在、私は王城の内部に潜入している。盗み出したクーデターの資料と『竹蔵ノート』を武器に、王族どもを駒として動かすために。
だが、さすがに王城の警備は厳重だ。王の寝室を探すがどこにあるのかわからない。むやみに動き回ると見つかる可能性も上がる。その時、
「……鼠の先客とは。これは使えるかしら」
私の直感が警鐘を鳴らす。風魔法を駆使して周囲の音と匂いを収集する――「シノガラ」の術理の応用だ。
私はあえて天井の梁から、月明かりが降り注ぐ中庭へと飛び降りた。障害物のない場所に降り立つという、派手な演出で姿を現したのだ。
驚愕の気配が揺れた。そこにいたのは、ペオニア帝国の暗殺部隊『五色の死神』。
魔道具「不可視化」で気配を断っていたつもりの彼らに、私は口角をわずかに上げて言い放つ。
「この世界の忍者は魔力に頼りすぎなのよ。鍛えられた人間の五感を舐めないことね!」
私の挑発に、空間が歪んだ。
何もない虚空から、加速魔法『ファースト』を乗せた二十本のダガーが飛来する。
回避不能と思える速度。だが、私は両手のクナイを旋回させ、人間離れした体術で踊るようにそれらを弾き飛ばしていく。
金属音が夜の静寂を切り裂く。だが、異世界の暗殺者もさるもの。弾き飛ばしたはずのダガーが空中で不自然に軌道を変え、跳弾のように四方八方から再び私を襲った。
「――っ!」
回避が間に合わない。鋭い刃が私の忍者装束を切り裂き、布の破片が宙に舞う。たまらず連続バク転からトンボを切り、大きく距離を取った。
装束はズタズタだ。
だが、私は不敵に微笑む。
「……残念だったわね。私の服の下は、ただの肌じゃないのよ」
装束の裂け目から覗いたのは、銀色に鈍く光る特殊鋼の鎖帷子。
私はダガーが命中する直前、体術によって僅かに体を捻り、刃が鎖の輪の上を滑るように「受け流し」ていたのだ。致命傷を避けるどころか、一撃も肌には通していない。
しかし、この激しい動きの最中、私は「ある」失態をしていた。
懐に隠していた「竹の種」。私は忍者装束の切り口からそれを中庭の土の上へ、気づかずにばら撒いていたのだ。
高く売れたかも知れないのに……、気が付いた時には後の祭りだが。
遂に姿を現した五人の死神。洗練された黒の軽装鎧を纏い、魔力を帯びたダガーを逆手に構えている。
月が雲に隠れてあたりが暗闇になる。
五人の姿が暗闇に溶け込んだ。これを機と一気に空気が振動する。
最短距離で私を仕留めんと、彼らは自己加速魔法『アクセルブースト』で肉薄する。前後左右、そして頭上。五方向からの同時殺却のタイミング。
だが、受ける動作もせず、お手上げと云う風に、私は両手を天に向け、無防備に立ち尽くした。
「――『闇帳・鴉羽の罠』」
その瞬間、暗闇に紛れて辺りに黒い「羽根」が舞った。
私が手を挙げた瞬間に放っていた数百のシノガラの毒羽。僅かな風魔法に鴉の羽毛が空気中に漂っていたのだ。
加速しすぎた彼らは、自らその毒のカーテンへと突っ込んだ。
「……がっ、な、に、を……」
あと一歩というところで、全員の動きが止まる。全身に回った強烈な痺れ毒により、彼らは地を這う無様な姿へと変わり果てた。
「悪いけど、あなたたちの魔力は夜道でサーチライトを振り回しているようなもの。忍びの『隠密』とは、そもそも土俵が違うのよ。魔法は相手にばれない様に使いなさい」
私は彼らを土産に、王族との謁見を取り付けた。
さらに裏で進行していたクーデターの拠点を次々と潰した功績もギルドの証明で認められた、私はいつの間にか「王都の客人」という椅子を手に入れていた。
数日後。美しいドレスに身を包んだ私は、王と食事を共にしていた。
私のこの世界に来る前の二つ名は『色地獄の薬屋』。
私の懐に入った男は、その色香と薬で赤ん坊のように正直になる。
「王様、まずは人払いを。二人きりでお話ししたいのです……」
上目遣いのおねだりに、側近たちは席を外した。
私は王のグラスにワインを注ぎながら、自白剤『シノガラの雫』を一滴。この薬で私の思い通りになるのはほんの十数分、後遺症も残らないでしょうし、側近たちに疑われることもないでしょう。
「……王様、ローズ王女の『真名』を教えて?」
「ロザリア……だ」
「勇者たちは今、どこにいるの?」
「城門の近くで、入城の許可を待っておる……。アプリコットにも、一人がおるようだ」
「タクミという男のことは?」 「……知らぬ名だ。セラムに尋ねてみよう」
王は虚ろな瞳で、私の問いにスラスラと答え始めた。
知りたいことはすべて手に入った。特にローズ王女の真名は重要だ。召喚者が真名を持って下す命令は絶対。かつての竹蔵たちも、この「呪縛」によって自由を断たれたのだと「竹蔵ノート」にあった。
それから数日後。私は眠り続けるローズ王女の傍らに忍び込んでいた。
「そろそろ勇者たちも痺れを切らした頃かしら。特製の万能特効薬、これを飲めば目覚めるはずよ」
ローズを目覚めさせ、この国の混乱を加速させる。勇者たちがどうなろうと知ったことではない。ただ、タクミへの制裁はシノガラの掟「ハタムラ」に従うのみ。
ローズや王様の思いどおりにさせるほど、サンカの人間は甘くない。謀なら「シノガラ」の右にでるものはいない。
私がタクミを追って王都を離れようと決心した、まさにその翌日――。
空を裂いて飛来したミロンの大規模転移魔法。
数千の魔獣が王都の下町に降り立ち、安寧の都は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄へと叩き落とされた。
偶然、私が中庭にばら撒いた「種」が、その混乱の中で胎動を始めたことには、まだ誰も気づいていなかった。
◇ ◇ ◇
さて、うっかり(?)中庭に撒いてしまった「竹の種」。
元々は竹蔵が持ち込んだものですが、これがこの未曾有の混乱の中でどう化けるのか……。
そして、目覚めたローズ王女と、空から降り注ぐ魔獣の群れ。
王都は今、まさに「アキヤマの暗躍」「勇者の不在」「魔獣の強襲」が重なり、最悪のパズルのピースが揃ってしまいました。
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