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美龍(ミロン)と妃龍(ヒロン) ―― 災厄の姉妹

 時を遡ること二週間前、世界が破滅の産声を上げた。

 タクミたちが召喚され、ゴブリンの群れと死闘を繰り広げていたその裏側――瘴気の森の深淵では、かつて勇者に封じられた四天龍の封印がすでに解け落ちていた。

 四天龍魔―賢龍、昇龍ミロン、青龍、飛龍ヒロン。 彼らは龍魔王の復活を確固たるものにすべく、人族の国々を蹂躙する計画を練り上げる。

 だが、好戦的な賢龍が、昇龍たちの制止も聞かずに飛び出したことが、最初の狂いだった。

「……賢龍が、ドジを踏んだんだぞ! 龍魔王様に怒られるんだぞ!」

 賢龍が異世界から来た「男」――タクミに討たれたというテレパシーを魔獣から飛龍ヒロンが受け取り、昇龍ミロンは地団駄を踏んだ。

 ミロン。褐色の肌にゴージャスな黒髪、そして暴力的なまでのプロポーションを持つ彼女は昇龍という無粋な名を嫌い、龍魔王から賜った「美龍ミロン」の名を誇っていた。

 対照的に飛龍は、おしろいをぬったような白い肌に血管が浮いた舞妓のような容貌に隈どりのある目元。格調高いイメージから龍魔王から「妃龍ヒロンという名を賜っていた。

「賢龍を生き返らせるのが先決です。四天龍が欠けたとなれば、魔王軍の失態は免ません」

「わかってるんだぞ! だが、あたいの術はネクロマンシー(死体操術)。あいつは魂を持たない、ただの操り人形になるんだぞ」

「だが、その力は九割以上で復活するのでしょう」

「……確かに、戦力としてはありだぞ……」 

 最初は嫌がっていたが、背に腹は変えられぬと、ミロンは全魔力を代償に、禁忌の儀式を執り行った。

肉体デッド・パペット・オーバーロード』

 竹刃に浄化された体内を再び瘴気で満たし、痛みも恐怖も感じない「殺戮機械」として賢龍を再構築する。その蘇生には、二週間の月日を要した。

 ミロンが儀式に没頭する間、飛龍(妃龍ヒロン)は一万の魔獣を率いてペオニア帝国へ侵攻を開始した。

 かつては勇者を蔑ろにし滅んだ帝国。

 今は暴力で支配する皇帝を頂点に重税と貧困に喘ぐ帝国。だが、三百年前の教訓から「竹細工」の武具を他国から輸入し配備していた彼らは、帝都の手前で予想外の善戦を見せる。

「思ったよりやりますね。だが、それもここまです」

妃龍ヒロンの口角が吊り上がる。やっと戦力が整った。

 その瞬間、帝都のど真ん中――コロシアムの空中に、巨大な転移魔法陣が展開した。

「――『エクスプロージョン・ストライク』!!」

 轟音と共にコロシアムが霧散し、廃墟と化した中心からワイバーンに乗ったミロンが舞い降りた。

 彼女に続くのは、人族が生理的嫌悪を催す肉食昆虫魔獣の一大軍団。

 人の丈ほどもあるアリの行軍。瓦礫を白糸で覆い尽くすクモ。そして、兵士の槍を翅の粘膜で受け流し、黒い波となって回廊を埋め尽くす「G」の魔獣たち。

「どんどん出てくるんだぞ! ここは餌だらけなんだぞ!」

 城外で戦っていた帝国軍主力部隊は、背後から溢れ出した魔獣に挟撃され、瞬く間に崩壊した。

 司令官の鎧を噛み砕く無数の顎。魔術師の喉を掻き切る外骨格の刃。 帝国騎士団が誇った「栄光」は、魔獣たちの胃袋へと消えていった。

 陥落した帝都を見下ろし、ミロンは飽き足らない様子でワイバーンの背で腕をくんでいる。

「ヒロン、この国はあんたが喰らい尽くせばいいんだぞ。あたいは隣のトレミエール王都に攻め込んでみるんだぞ」

「無謀だ。賢龍を討った者たちがいるのだぞ」

「だからこそ、敵討ちなんだぞ! 大丈夫、賢龍あいつを連れて行くんだぞ。もしもの時のために、『セルフ・エクスプロージョン』を仕込んであるんだぞ」

 自爆。死体すらも爆弾として利用するミロンの冷徹さに、ヒロンですら戦慄を覚える。 ミロンはヒロンから借り受けた一千の魔獣――おぞましき昆虫軍を魔法陣へと集めた。

「『次元転移門ディメンション・ゲート』――あたいに続け! なんだぞ!!」

 美しき災厄、ミロン。 彼女が率いる「死せる賢龍」と千の魔獣は、光の渦に飲み込まれ、カレンたちが目指すトレミエール王都へと転移を開始した。


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