王都の閉塞、あるいは終焉への序曲
召喚以来、どこか部外者のように冷めていた感情――怒り、恐怖、そして焦燥。それが今、濁流のように溢れ出していた。
「……もう、待つのは終わり。おとなしくしてるから舐められるのよ」
カレンが冷たく言い放つ。
「ほんまや! なんでわいらが遠慮せなあかんねん!」
「招待されたんは、こっちやぞ!」
「……今、この気持ちのままに突撃あるのみ」
四人の瞳には、もはや迷いはなかった。
異世界のルールも、王国の事情も関係ない。
アッシュたちが止めるのも聞かず、勇者たちは圧倒的な圧を纏いながら、王都の城門を目指して歩き出した。
◇ ◇ ◇
「……まだか。ローズの意識はまだ戻らぬのか!」
トレミエール国王は、セラム辺境伯から何度も届く魔道伝書を握りつぶした。
勇者一行が王都へ向かっている。その報告は、救いではなく「脅威」として王の胸を掻き乱していた。
伝承によれば、召喚された勇者の潜在能力は一国を滅ぼし、軍隊をも凌駕する。常識も文化も異なる異世界の野蛮人など、王にとっては御しがたい怪物でしかない。
龍魔王にぶつける「駒」として、家畜のように使い潰すのが理想だった。
彼らを飼い慣らす唯一の鍵は、召喚主である第三王女「ローズ」。召喚時の「魔力の刷り込み」により、彼女の言葉――真名による命令――にだけは従順になるはずだったが、彼女は魔力枯渇により昏睡したままだ。
「セラムの報告は無視せよ。許可なき謁見など、あってはならん」
王はそう高を括っていた。だが、間者からもたらされる情報は絶望的だった。
王都の間近まで迫っていること、そして、帝国屈指の剣客アッシュを勇者の一人が一蹴したこと。もはや、物理的に彼らを止める術は王宮には残されていなかった。
そんな時に現れた「アキヤマ」という女。なぜか心安らにさせるこの女にすべてのことを話してしまう。
女は近々それはの悩みは解消するといって王宮に留まっているが、このトレミエール王都に魔獣が現れたどさくさに紛れていなくなってしまった。
◇ ◇ ◇
時を同じくして、隣国ペオニア帝国には「真の絶望」が降り注いでいた。
瘴気の森から溢れ出した魔獣の大群。それを率いるのは、四天魔龍の一角、魔獣使い『飛龍』。
かつてトレミエール王国を壊滅寸前まで追い込んだその「龍」の再来に、帝国は為す術もなかった。
前勇者たちを道具扱いして勇者の保護を失ったペオニア帝国は、魔獣の蹂躙で正規軍を失い、暴力で成り上がった新たな皇帝により重税と貧困に喘ぐ無法国家となっていたが、ついにその因果が巡ってきたのだ。
帝都の空を埋め尽くす巨大なワイバーンの群れ。
建物を焼き払うブレスの雨が、平民の家も、堅固な城壁も、砂上の楼閣のように打ち砕いていく。宮廷魔導師たちが死に物狂いで放つ攻撃魔法も、雲海を裂いて飛ぶ魔獣たちには届かない。
兵士たちが絶望に目を見開く中、一際巨大なワイバーンが帝都郊外の麦畑へと降下した。
そのワイバーンの背に乗っていたのは、見る者の魂を凍らせるほどに美しい少女だった。
賛美の言葉すら霞む漆黒の髪。闇を織り上げたようなビロードのガウンを纏い、彼女は禍々しい杖で大地をなぞる。
「……なんて、美しいんだ……」
隠れて見ていた農民が思わず漏らしたその言葉は、彼がこの世で発した最期の言葉となった。
美少女が杖から放出した魔力は、滝のような奔流となって溢れ出し、直径三百メートルを超える巨大な『黒の魔法陣』を描き出した。
――ゴゴゴゴゴォッ……!!
大地が悲鳴を上げ、天を突くように突き上げられる。
漆黒の霧の中から這い出てきたのは、空前絶後の「絶望」の軍勢だった。
十メートルを超える巨躯を揺らすサイクロプス、ベヒモス、ギガント。
這い寄る二十メートルのサンドワームに、毒を滴らせる大ムカデ。デススパイダーの群れが顎をギチギチと鳴らし、無数のオークやオーガが咆哮を上げる。
「魔獣が、魔法陣から湧き出て……ひっ、早く知らせないと……!」
逃げようとした農民は、群れの先陣を切ったマッドウルフに一瞬で肢体を引き千切られ、その空腹を満たす肉塊へと成り果てた。
美少女を乗せたワイバーンが空へと舞い戻り、魔獣の奔流が進路を王都へと向ける。
一時間後、ペオニア帝都は阿鼻叫喚の地獄と化した。
逃げ惑う平民も、誇り高き皇族も、魔獣のアギトの前には平等な「餌」に過ぎない。血塗られた断末魔が、帝国の終焉を告げる歌のように響き渡っていた。
◇ ◇ ◇
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