王都への強行軍、開始
結局、以前出会った冒険者ヴァウロニアたちの協力を仰ぐことになり、出発は翌朝八時の鐘に決まった。
執事が準備のために慌ただしく退出し、部屋にはカレンたちとセラムだけが残された。
セラムは、伝説のプラム王女が彼女たちをどう評価したのか、そして三百年前はどうやって龍魔王を封印したのかを矢継ぎ早に問いかけた。
カレンたちは、瘴気の森での帝国の横暴、知恵を持つ竹の武器使いとの死闘、そして賢龍との遭遇を詳報した。タクミと竹蔵が同じ「サンカ」という謎を持っていることについても。
「……タクミたちも、強くなるために前代勇者の遺産を求めてる。あたしたちも負けてられない。必ず神聖具を手に入れてみせるわ」
「わかった。明日に備えて、今夜はゆっくり休むがいい」
勇ましく部屋を後にする四人。 一人残されたセラムは、椅子の背にもたれかかり、大きく脱力した。
「……記録によれば、竹蔵はSランクで職業は『勇者』だった。『サンカ』というのは、あくまで彼が持っていた特殊スキルだ。だが、タクミはRランクで、職業そのものが『サンカ』……」
セラムは独り言を振り払うように、引き出しから取り出した葉巻に火をつけた。
職業とは、この世界における役割そのものだ。「勇者」と「魔王」は光と闇の二元論。勇者という役割を与えられた者でなければ、龍魔王を討つことはできないはず。
「職業が『サンカ』では、龍魔王は倒せん。それはあくまで補助的なスキルのはずだが……。そもそも『サンカ』とは何のことだか分かっていない」
やはり、今いる勇者たちに期待するしかない。だが、平和な世界から来た彼女たちには、圧倒的に経験値が足りない。
「龍魔王復活まで、あと一か月……。時間が、なさすぎるな」
セラムは天井を仰ぎ、紫煙を吐き出した。その瞳には、迫りくる終末への不安が色濃く映っていた。
◇ ◇ ◇
翌朝、王都へ向かう勇者一行はセラム領主屋敷の城門に集結していた。
立ち並ぶ二台の馬車。そこから降りてきたのは、一筋縄ではいかない空気感を纏った「プロ」の冒険者たち。
かつて共に戦ったヴァウロニアとの再会を喜ぶカレンとシオンでしたが、新顔たちはさらに輪をかけて個性的でした。
「お久しぶりっす! また一緒に冒険できて光栄っすよ」
ヴァウロニアの相変わらずの調子に、カレンとシオンも笑みをこぼす。
しかし、彼女の背後から現れた大男の存在感に、二人の視線が釘付けになった。
筋肉の塊のような体躯に、身の丈ほどもある大剣を背負ったその姿は、あのブッシュクローバー騎士団長を彷彿とさせる。
「ヴァウロニアよ、某にも勇者殿を紹介するでござる。兄貴の話では、なかなかに物怖じしない御仁たちだとか?」
「「兄貴……?」」
カレンとシオンが声を揃えて問い返すと、男は不敵に笑い、深々と頭を下げた。
「某はアッシュ・クローバー。ブッシュの弟でござるよ。よろしく頼むでござる」
「子爵家の三男坊っすが、爵位に興味なしってんで冒険者になった変わり者っす。職業は『剣客』。腕前は団長といい勝負するっすよ。今回の護衛リーダーっす」
ヴァウロニアの説明に、シオンの瞳に鋭い光が宿る。「剣の達人」という言葉は、強さを渇望する彼女にとって最高のご馳走だった。
アッシュに続いて現れたのは、瓜二つの美形兄妹だった。
皮鎧にベレー帽、首元には白いスカーフ。そのキビキビとした動きは、どこか軍隊のような規律を感じさせる。
「こちらは双子のバジルとウィステリア。職業は二人とも『スカウト(探索者)』っす」
「スカウト? ドラフト会議的な?」
「カレン、たぶん『偵察員』って意味だと思う」
カレンのボケをシオンが冷静に流した瞬間、今度はヤスシが食いついた。
「なーんや。恰好からして、てっきり『ボーイスカート』かと思ったわ」
「アホか! それを言うなら『ボーイスカウト』やろ!」
「え、あれってボーイスカートじゃないの? 女の子のミニスカとハイソックスだから、ボーイ(男の子)とスカート(女の子)のセットかと……」
「カレン、私も教えてもらうまでそう思ってた」
ツッコミ役のシオンまで巻き込んだカオスな会話を遮るように、双子がピシッと三本指を立てて敬礼した。
「自分はバジル。役割は斥候だ。偵察なら任せてくれ」
「僕はウィステリア。役割は哨戒かな。索敵が得意なんだ。……僕たちを最初から兄妹だと見抜くなんて、さすが勇者様だね」
ツーブロックが兄のバジルで、ウェーブのかかったショートヘアが「僕っ子」の妹・ウィステリア。 その服装は、確かにカレンたちの世界のボーイスカウトに酷似していた。この異世界にそんな組織があるのかは謎だが、今はそれを追求する時ではない。
「天衝幽玄流の剣士、シオン。よろしく」
「あたしはカレン。聖女らしいけど、あいにくイケメン一筋。慈愛や博愛は在庫ゼロだから、そこんとこよろしく」
クールなシオンと、欲望に正直なカレン。
対するヤスキヨの二人は、美形兄妹にオタク心を刺激されたのか、鼻息荒く名乗りを上げた。
「わいらはヤスシ!」 「と、キヨシや!」 「「二人合わせて、ヤスキヨどぇーす!!」」
高校生とは思えないポッコリ出た腹を揺らし、渾身の挨拶をかます二人。しかし、美形兄妹の放つ洗練されたオーラの前では、哀しいほどに空回っていた。
顔合わせが終わると、一行は二台の馬車に分かれて乗り込んだ。
先頭は男たちの馬車。御者台の隣には、早くも周囲を警戒するバジルの姿がある。
その後を追うように、カレンたち女性陣の馬車が続く。
いよいよ、伝説の神聖具が眠るトレミエール王都への、長い旅路が始まった。
◇ ◇ ◇
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