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それぞれの王都へ

 現代のハングライダーの最速記録は時速一三〇キロ程度だが、魔法の補助を受けたこのカイトは、その限界を易々と超えている。

「最高時速二〇〇キロは出ているんじゃないか?」

 夕暮れに飛び出した俺たちは、三時間足らずで国境の壁を越えた。

 だが、壁を越えた瞬間に異変が起きる。

「……ッ、高度とスピードが落ちた!?」

 キープしていた五〇〇~六〇〇メートルの高度がガクンと下がる。国境の結界による干渉か、あるいはマナを均一に散布するための仕組みか。

 このペースなら、王都到着は深夜の零時前後といったところだろう。

「リナ、あと三時間ぐらいかかりそうだ。疲れてないか? 一旦降りるか?」

「大丈夫! それに一旦降りちゃうと、もう一度飛び上がるのが大変でしょ?」

 リナは離陸の苦労を心配しているようだが、今の俺たちなら軽量化魔法と風魔法で、凧揚げよりも簡単に再浮上できる自信があった。

 だが、彼女に休憩が必要ないのなら、先を急ぐまでだ。

「わかった。それじゃこのまま王都を目指す」

「うん。……どんなことがあっても、あなたについていくわ」

リナの「意趣返し」に近い熱い言葉も、今の朴念仁化した俺の心は素通りしていく。

「申し訳ないが、フォローを頼む。……王都に、何かが起きている」

 俺の声に含まれた切迫感を感じ取ったのだろう。後方から俺を後押しする風が一段と強まった。

 遥か前方。月明かりの下、トレミエールの王都と思われる街が、まるで燃えているかのように不気味に赤く輝いているのを、俺の夜目は捉えていた。

◇ ◇ ◇

 一方、セラム辺境地へ転移ワープした桜坂華恋カレン杜若詩音シオン、そして「ヤスキヨ」こと梅田清と藤井寺清の四人は、その地を治める通称「グラサン・セラム」辺境伯との謁見に臨んでいた。

「あたしたち、三百年前に龍魔王を封印したエルフのプラム王女と会ったの。そこで聞いたわ。龍魔王の復活が、もうすぐそこまで迫ってるって。……四天龍魔の一角、『賢龍』とも一戦交えてきた」

 カレンの言葉を継いで、シオンが静かに、しかし悔しそうに拳を握る。

「シオンたち、賢龍に殺されるかと思った。修行、全然足りない。タクミが、なんとか倒してくれたけど……」

 タクミとリナが、前代勇者・竹蔵の遺した「サンカの武具」を求めてアプリコット王国の王都へ向かったこと。そして自分たちは、龍魔王を討つために不可欠な神聖具を手に入れるべく、トレミエール王国の王都を目指さねばならないこと――。

 カレンとシオンは、一刻も早く王都へ向かうべきだとセラムに進言した。

 だが、魔獣退治では猪突猛進なセラムも、王族が絡む政治的な問題には慎重にならざるを得ない。

「言い分はわかった。だが、王に勇者召喚を知らせた魔道伝書鳩がまだ戻ってこない。公式な勇者と認められぬまま王都へ向かっても、謁見すら叶わず無駄足になる恐れがある。……最悪の場合、王がヘソを曲げて国宝である『神聖剣ゴッド・ファング』や『神聖杖ゴッデス・スタック』の貸与を拒むことも考えられる」

「はぁ!? 勝手に召喚しておいて『武器は貸せません』とか、頭おかしいんじゃないの?」

 カレンが憤慨すれば、シオンは短く、

「……斬っていい?」

「シオンさん、それマジでヤバいって! わいら縛り首確定やんか!」

 慌てて突っ込んだのはヤスキヨの片割れ、キヨシだ。もう一人のヤスシも、脂汗を流しながら続く。

「キヨシの言う通りや。召喚者が性格悪いんは最近のトレンドやけど、怒りに任せて暴れんのは詰みフラグやけど……。返事待っとる時間はあらへん、効率が悪すぎる!」

「とりあえず出発したええねん。王都の手前でカレンさんにワープで戻ってもらって、返事を確認してから対応を決めればええやろ?」

 黙って聞いていたセラムが、ついに決断を下した。

「ヤスキヨの言う通りにしよう。王の返事を待たずに出発だ。わしとクローバー騎士団長は、活性化している魔獣を抑えるためここに残る。同行させるのは、息子のマウロだ。王都の学校に通っていたから地理には詳しい。他に、一個小隊を護衛に付けよう」

「辺境伯の息子に一個小隊? 三〇人近くも連れて歩くの? 準備に時間かかるし、あたしたちも実戦で強くなってるから護衛なんていらないわよ。旅慣れた数人がいれば十分」

「「わいらもおるしな!」」

「その通り! ヤスキヨなら、万が一の身代わりになっても心が痛まないしね!」 「「それはあんまりやわ~!」」

 シオンの毒舌にズッコケる二人。


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