世界樹の風に乗れ! 聖なる布と空飛ぶ忍具
その綿花から生まれた糸は、虹色に輝く綿実から、精錬工程を経て「すべての光を集めたような純白」へと変わる。
それは、いかなるミスリル製の剣でも傷一つつけることができない不壊の布。しかし、傷口に巻けばたちまち癒やし、振るえば毒蟲を退ける聖なる力を持っていた。
「これを、リナたちの分まで……いいのか?」
タクミは、その貴重な純白のサラシと包帯を、異世界転移組の六人分として譲り受けた。
最後に手渡されたのは、これらの忍具を一括管理するための収納魔法具。 見た目は、かつての特撮ヒーローを彷彿とさせる、武骨ながらも洗練されたバックル付きのベルト――通称『マジックバックル』。
「使い方は簡単だ。収納したい物を思い浮かべて『インプット』。取り出す時は『アウトプット』と唱えるだけでいい」
生き物こそ収納できないが、これで機動力は格段に上がる。
竹蔵の遺産と、この世界の魔法技術、そしてアプリコットに竹林で被害を逃れた竹数十本。それらを腰に携え、俺の次なる歩みがここから始まる。
「……アウトプットの時の変身ポーズ、今のうちに考えておかないとな」
冗談はさておき、竹蔵が遺した龍魔王との対決に役立ちそうな「サンカの武器」は揃った。
俺たちは国王陛下やプラムに深く感謝を伝え、王都ピクルスを後にして、シオンやカレンと別れた国境の町「プラムワイン」を目指すことにした。
だが、日程的にどうしても無理を承知でお願いしなければならないことがあった。
「今まで本当にお世話になりました。俺たちは仲間とプラムワインで待ち合わせをしているんです。そこへ行くまでの馬と、町での滞在許可をいただけないでしょうか」
俺とリナが頭を下げると、プラムは地図を広げながら首を振った。
現在地からプラムワインまでは、普通に馬を飛ばしても二週間はかかる。リナの飛行魔法なら数日で着くが、俺を抱えての長距離飛行は魔力切れが怖すぎる。
勇者全員が合流するのは、早くても二週間後。シオンたちの試練が長引けば、さらに時間はかかるだろう。竹蔵が創った結界『籠獄』が耐えられる期限はここまで二週間掛っているので、まさにギリギリのタイミングだ。
さらに懸念されるのは、結界が解け蘇っている可能性が高い、昇龍・青龍・飛龍の「四天龍魔」の残りたち。もし彼らがシオンたちを襲っていたら……。
脳裏に、血まみれで倒れたヤスキヨの姿が蘇り、焦燥感が胸を焼く。
「……タクミ、案ずるな。ユグドラシルの開花という『奇跡』を利用すれば、もっと早く着ける」
プラムの言葉に、俺は耳を疑った。
「開花……? それが俺たちとどう関係するんだ?」
プラムが広げた地図には、この世界の歪な構造が描かれていた。
中心に瘴気の森――「カグナール領」があり、放射状に四つの国が広がる。
北: 龍魔王を生んだ、滅びし獣人の国『ラドンゴ王国』。
東: エルフの国『アプリコット王国』。
南: 人族の国『トレミエール王国』。
西: 瘴気の原因を作った『ペオニア帝国』。
各国の国境は切り立つ崖によって断絶され、天まで届く結界が張られている。本来なら、鳥一羽として隣国へ超えることはできない。
「だが、今だけは違う。ユグドラシルの花粉は結界を素通りし、大陸全土に降り注ぐ。……そして、この花粉こそが純粋なマナそのものなのじゃ」
プラムの説明によれば、十年ごとに開花するユグドラシルの花粉は、自ら上昇気流を巻き起こし、大陸の端々まで魔力を運ぶのだという。
「その上昇気流に乗れば、二、三日でトレミエールの王都へ着けるだろう」
「……なるほど。風に乗ればリナが抱えて飛ぶ負担が軽減されるわけか?」
「いや、タクミにはもっと良い方法がある。――『カイト(凧)』じゃよ」
かつて竹蔵も、このユグドラシルの上昇気流を利用して隣国へ渡ったという。 錬金術師の倉庫を訪ねると、そこには竹蔵の残した設計図を元に作られた「カイトもどき」が転がっていた。先ほどの綿布が張られた、まさにハングライダーだ。
俺は即座にこれを修理・完成させ、新調したマジックバックルへ収納した。
準備は整った。だが、フライトの起点となるのはユグドラシルの「てっぺん」だ。
見上げれば、高さ千メートル級の巨大な幹。直径五十メートル以上、近くで見ればそれはもはや「壁」にしか見えない。
俺は「マジックバックル」から、ミスリル製のクナイと手甲鉤を取り出した。




