忍び六具の再誕(アップデート)
リナが放った矢は、風の障壁も硬い鱗も関係なく突き刺さり、瞬時に傷口をドロドロに腐食させる。 血を噴き出し、痙攣しながら墜落していくワイバーンたち。
ギャオオオオオッツ―――――ン!!!!
仲間が次々と撃ち落とされる中、一際巨大なボス個体が怒りの咆哮を上げ、標的をプラム王女に絞って急降下してきた。
こいつは知っている。この国の精神的支柱を折れば、人間は脆いと。
だが、その進路には俺がいた。
戦闘機サイズの怪物が、牙を剥いて迫ってくる。普通なら絶望的な状況だが、俺にはこの「毒槍」がある。
俺はやり投げの要領で、渾身の力で竹槍を投擲。直後、地面にスライディングしてワイバーンの巨体を躱す。
ドスッ! 鈍い音が響き、ボスワイバーンの頭が大きくのけぞる。
そのまま勢いで石垣に激突した巨体の喉元には、俺の竹槍が深々と突き刺さっていた。
神経毒、出血毒、壊死毒。
即効性のカクテル毒が脳天まで回り、ボスは痙攣しながら絶命した。
空を見上げれば、リナが最後の一匹をヘッドショットで沈めたところだった。
被害は竹林のみ。人的被害ゼロの完全勝利。
だが、死にゆくボスの瞳には、単なる魔獣以上の知性が宿っていた。
(……こいつ、何か通信してやがったな)
俺の予感通り、ボスの断末魔は遠く離れた「四天魔龍・飛龍」へと届いていた。 アプリコットの竹林は死んだ。だが、そこには新たな猛毒が根を張っている――と。
「さて、これで『国宝』を見せてもらう交渉材料にはなっただろ?」
俺は腫れた手を振りながら、呆然とする大臣たちに向かって不敵に笑いかけた。
ワイバーン撃退の報を受け、アプリコット王国の国王と女王は、救世主となったタクミへ最大の感謝を捧げた。その甲斐あって、かつての勇者・竹蔵が遺した遺物を調査したいというタクミの申し出は、即座に許可されることとなった。
案内役のプラムに連れられて訪れたのは、天守閣の離れに位置する「絶対不可侵」の宝物庫だ。
そこには隠蔽、罠、封印……と、幾重もの高位魔法が施されていた。その最深部に鎮座する最後の仕掛け――それは、透明な球体の中に浮かぶ、精緻な「寄竹細工のカラクリ箱」。
「……さすが竹蔵さん、最後はアナログな技術が鍵か」
製作者は言わずもがな、竹蔵その人。プラムが念動力を操り、空中に浮く箱の面を『→↓↓⤵→→↑⤴』と、まるで見えないコマンドを入力するように滑らせる。
この繊細な魔力操作をこなせるのは、王国でも一握りのエリートのみ。その解法を知るのは、国王、皇太子、そしてプラムの三名だけだという。
カチャリ、と小気味よい音が響き、扉が開かれた。
室内に並ぶのは、高級店のショーウインドーを彷彿とさせる陳列棚。そこには、竹蔵がかつて身に纏った「忍びの魂」が眠っていた。
棚には、忍び六具と呼ばれる編笠、鉤縄、石筆、薬、三尺手ぬぐい、打竹。さらにはサンガ秘伝の調合による黒色火薬を詰めた火矢『飛火炬』や、現代の手榴弾の祖とされる『焙烙火矢』、煙幕弾の『鳥の子』……。
それだけではない。鎖帷子や多種多様な手裏剣、マキビシ、手甲鉤、そして独特の反りを持つ忍者刀。
特筆すべきは、ショーウインドーとは別に保管されていた『両刃鉈』だ。
「……これ、俺の鉈と対になっているのか」
その銘には、サンカの中で火焔土器を制作した一族とされる『焔羅虎鉄』の名が刻まれていた。作成時期も一致する。
以前はドワーフの匠に貸し出されていたというこの「クナイ」は、間違いなくタクミの持つ業物と対であった。
これらの忍具は、魔法が支配するこの世界では、長らく「勇者の歴史遺産」として研究されてきた。魔法だけでは魔獣相手に力不足だったからだ。
しかし、これらを「研究」し、魔法と融合させてイノベーションを起こした者たちがいた。エルフとドワーフの技術者たちだ。
研究室からタクミに贈られたのは、真価を発揮するべく進化した「新時代の忍具」だった。
耐魔の鎖帷子: 鎧風にアレンジされた防具。
ミスリル製クナイ: 貴重な魔導金属で造られた六本。
忍びポーション: 万能薬として洗練された一ダース。
強化爆竹: サンカ特製の火薬をさらに改良した数十本の竹筒
魔獣素材の鉤縄: 蜘蛛の魔獣の糸を加工した、絶対に切れない索具。
そして、最も驚くべきは「綿」の進化だった。
かつて竹蔵が持ち込んだ綿花の種。それが数百年ぶりに開花した「世界樹」とハイブリッド交配を起こしたのだ。




