白き毒竹――空の捕食者を墜とす猛毒の矢
だが、俺の視線はその夾竹桃の隣に生えている妙に「白っぽい竹」に釘付けになった。
「……これ、ただの枯れかけじゃないな」
観察すると、その竹は夾竹桃の根が張っている土壌から、あえて水分を吸い上げているようだった。白濁した樹液。これは夾竹桃の毒を自らの身に宿した「天然の毒竹」だ。
「タクミ、何してるの? まさか触るんじゃ……」
「安心しろ。毒の扱いにはちょっと慣れてるんだ」
俺は手早く予備の太い竹を加工し、節をくり抜いて「即席の防毒鞘」を作成した。 直接触れないように注意しながら、その白い毒竹を数本、鞘の中へ収める。
「これから先、正攻法じゃ勝てない相手も出てくるだろうからな。……リナ、この竹で矢を作れば、あの魔龍の鱗も溶かせるかもしれないぞ」
俺が不敵に笑うと、リナは「もう、やっぱりタクミはタクミね」と、呆れながらも少しだけ安心したような顔を見せた。
さて、思わぬものも手に入った。目の前には、アプリコット王国の天守閣。
サンカ時代の記憶を頼りに「この毒竹、何に使おうか」とホクホク顔で天守閣へ向かう俺。
城の入り口では、メイドや執事がずらりと並び、その奥からいかにもな重鎮たちが現れた。
「宰相のタンカンです」「軍務大臣のセミノールだ」
彼らはプラム王女に最敬礼し、俺たち「三百年ぶりの勇者一行」を歓迎する。だが、俺の目的は挨拶じゃない。
「早速ですが、勇者竹蔵の遺物を見せていただけませんか?」
俺が単刀直入に切り出すと、タンカン宰相は困った顔をする。
「それは国宝でして……国王陛下の許可が……」
その時、頭上を巨大な影が横切った。
見上げれば、十頭を超えるワイバーンの群れが、獲物を見つけた猛禽のように旋回を始めているではないか。
「迎撃準備ッ!」
セミノール将軍の号令が飛ぶ。だが、矢の雨はワイバーンが纏う風の障壁に阻まれ、ことごとく弾かれる。
プラム王女が渾身の風魔法を込めた矢を放つが、硬い鱗に当たった瞬間、乾燥しきった竹矢は無惨に砕け散った。
「な、なんじゃと……竹が脆すぎる!」
驚愕するプラムを他所に、ワイバーンたちは嘲笑うかのように急降下。
凄まじい風圧が俺たちを襲い、手入れの行き届いた竹林はバキバキと音を立てて蹂躙されていく。
枯れかけた竹林は、魔獣の暴力の前になす術もなく破壊され、ただの廃材の山へと変わっていった。
「最悪のタイミングだな。龍魔王の復活と竹の寿命が被るとは」
俺は砕けた竹槍を見つめ、舌打ちする。だが、その瓦礫の中で、唯一無傷で立っている植物があった。
ワイバーンたちは、本能的にその植物――『夾竹桃』を避けていた。
偶然に接触した個体の鱗が、毒々しい紫色に変色して腐り落ちていく。
「……いける」
俺はニヤリと笑い、さっき採取した「毒竹」を取り出す。
即席で加工した鏃を、リナの矢と俺の竹槍に装着。作業中、毒液がわずかに触れた指先がピリピリと痺れ、赤く腫れ上がる。
幼少期から毒に耐性をつけてきた俺の手がこれだ。その威力は推して知るべし。
「リナ、この矢を使え。絶対に穂先に触るなよ」
「これって?」
「夾竹桃の毒を吸った竹だ。鱗ごと溶かして貫通する」
「了解! いくわよ!」
リナが空へ躍り出る。 余裕綽々で飛んでいたワイバーンたちは、次の瞬間、地獄を見ることになった。




