修学旅行の終焉と、異界への光 食い破られた記憶と、万華鏡の瞳
「竹内が迷子になろうがどうでもええやん。それより、修学旅行のコース決めようや」
「そやそや。行き先が決まってれば、はぐれても現地集合できるしな」
ヤスキヨコンビまで女子三人に便乗して俺を突き放しにかかってきた。……だがな、お前ら。それは墓穴だぞ。
「よし、決まり! 言い出しっぺのヤスキヨコンビで見学コースを考えて。大阪出身なんだから、京都も詳しいでしょ?」
案の定、桜坂が満面の笑みで面倒事を二人に押し付けた。
「いや、大阪と京都は仲悪いんや!」
「遠回しに嫌味を言う京都人と一緒にせんといてほしいわ!」
二人は必死に抵抗したが、杜若の「黙ってやれ」という一睨みで沈黙。
コソコソとノートを突き合わせ始めた。
満足した桜坂と杜若はファッション談義に花を咲かせ、莉那さんはスマホでお寺や神社のリサーチを始めている。
「まだ~?」
桜坂が退屈そうに声をかけると、二人は自信満々に一冊のノートを掲げた。
「京都駅(京都タワー)から、清水寺、地主神社の縁結び、さらには龍安寺の石庭を通って、嵐山の『竹林の小径』。最後は太秦映画村の最恐お化け屋敷や!」
「……これ、あの『俺ガイル』の聖地巡礼コースじゃないか」
俺の指摘に、二人は親指を立てた。
「聖地巡礼だけやない、京都の王道を押さえた完璧な布陣や!」
千葉の高校生にとって『俺ガイル』は青春の聖書だ。「リア充爆発しろ」は俺のお気に入りのフレーズだ。みんなにとっても、このコースに異論はなかった。
「……あたしたち、告白のために『竹林の小径』に呼び出されたりして?」
桜坂が冗談めかして笑う。二週間後、そこで「異世界召喚」という名の呼び出しを受けるとは、この時の俺たちは知る由もなかった。
◇ ◇ ◇
そして二週間後。俺たちは運命の京都にいた。
金閣寺や龍安寺を巡り、嵐山へ。渡月橋付近のジャンクフード店から漂う香ばしい匂いに誘われ、昼食代わりの食べ歩きを楽しむ。
莉那さんと甘い雰囲気……には程遠く、外国人観光客からのナンパを追い払うモブ役に徹する俺。
やがて、一行は『竹林の小径』へと足を踏み入れた。
それまでの喧騒が嘘のように、ピタリと止む。
気がつけば、あれほどいた観光客の姿が消え、道には俺たち六人しかいない。
女子たちの顔から余裕が消え、重苦しい沈黙が周囲を支配する。
「……こいつは『人払いの結界』やな。みんな気ぃ付けや。ここは天狗や陰陽師のテリトリーやぞ!」
「さあ! 告白には絶好のシチュエーションやで。ワイは準備OKや!」
ヤスキヨコンビが必死にオタクネタで空気を和らげようとした、その瞬間――。
足元の地面が、眩い幾何学模様に染まった。
俺たちを、そして竹林すべてを飲み込む強烈な光。
次元を超える衝撃とともに、俺の中で「何か」が弾けた。
(――ああ、そうか。俺は……)
薬物によって、深く、昏く封じられていた十二歳の入院という偽りの記憶。召喚の衝撃が、その封印を無慈悲に、そして鮮烈に食い破った。
俺の瞳はすべてを思い出したように、万華鏡のように色彩が渦巻く虹彩を湛えていた。
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