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エルフの魔の手より、少女の放つ心の矢

 カレンたち四人がセラム城塞へワープで戻ると、俺たちは拉致現場である都市プラムワインへと向かった。

 エルフの国「アプリコット」の生活水準は驚くほど高い。三百年以上生きる彼らは、衣食住から演劇まで、あらゆる文化を極限まで洗練させていた。

 ホテルの部屋は、長生きのため、長期滞在も当たり前、もはやコンドミニアムだ。王女や歌劇団の面々と寝食を共にする「お座敷宴会」状態。連夜、生演奏と舞踏による「心づくしのおもてなし(ハニトラ)」が繰り広げられる。

 普通の男なら即落ちだろうが、リナのジト目と、六甲山での地獄の特訓が俺を正気に戻す。

「拷問の後の優しさは罠だ」

 かつて、傷の手当をしてくれたお姉様に組織の秘密をペラペラ喋り、再び拷問部屋へ放り込まれたあの日。俺はあの裏切りを経て、某「お兄様」のような冷静沈着(かつ欠陥あり)なメンタルを手に入れたのだ。

 今夜も、接待の空気に完璧に合わせつつ、竹を削って作った横笛で哀愁漂う音色を奏でる。ハニトラを風流にいなす多彩すぎる俺。

 こうして王都ピクルスへの行脚の夜は更けていく。

――リナSide――

 王都ピクルスへと向かう豪華な馬車と、連夜繰り広げられるエルフたちの至高の接待。そのきらびやかな景色の裏で、私の心はこれまでにないほど激しく揺れ動いていました。

 修学旅行が異世界への転移に変わり、私たちは否応なしに「勇者」という役割を押し付けられました。でも、私を一番戸惑わせているのは、魔獣との戦いでも、見知らぬ異世界のことわりでもありません。

 それは、私の隣にいる「竹内タクミ」という男の変化でした。

 セラム城塞都市での鑑定結果は、残酷なまでに私たちの立ち位置を分けました。

 シオンは天衝幽玄流の粋を極める剣士として、カレンは軍神の盾に選ばれた聖女として。二人はいわば、自らの力で運命を切り拓く「完結した個」です。彼女たちが魔獣をなぎ倒す姿には、迷いも、誰かに頼る隙もありません。

 それに比べて、私の武器は和弓。タクミが削り出してくれた最高の弓ですが、弓士は誰かに前を守ってもらわなければ、その真価を発揮できません。私は最初から、タクミという存在に依存しなければ戦えない、未熟な存在だったのです。

 そんな中、タクミが見せた「四天魔龍」を瞬殺する実力。そして、あの「お兄様」を彷彿とさせる、あまりに冷徹で合理的な振る舞い。 『さすが、お兄様です』

 かつての彼は、どこか頼りなくて、女子にオドオドしていた「普通の男子」でした。でも今の彼は、感情を計算から排除し、最短距離で最適解を導き出す「完璧なマシーン」のようです。

 王都への旅路、ある夜のことでした。スイートルームのリビングでは、エルフたちが奏でるバイオリンの旋律が響いていました。タクミはその音色に合わせ、即興で作った横笛を吹き、完璧にその場を支配していました。

 その姿があまりに遠くて、私はたまらず彼をバルコニーへ呼び出したのです。

「まったく、エルフときたら……、なにを考えているのやら」

 タクミは月光に照らされながら、感情の読めない声で言いました。

 その言葉が、私の心に深く突き刺さりました。

「タクミを取り込もうとしているのよ。あなたは強い。私は守られるだけの足手まといだから……」

 タクミは黙ったまま、私の目を見つめました。彼の強さは過去にあった何かの出来事のせい、だけど、そのせいで、彼から人間らしい揺らぎがなくなっている。効率と冷徹さそれが今の彼の信条になっちゃてる。

 シオンやカレンは、タクミの強さを「憧れ」や「利用すべき戦力」として見ている。彼女たちは強い。だからこそ、タクミが冷徹になればなるほど、自分たちも強くなればいいと、対等なライバルでいられるのです。

 でも、私は違う。

 私はタクミに「守られたい」わけじゃない。「一緒にいたい」んです。

 彼の背中を見て追いかけるのではなく、彼の隣で、彼が取りこぼした敵を射抜きたい。彼が一人で抱え込もうとする「孤独」に、無理やりにでも割り込みたい。

「タクミ、いい? 私はあなたの足手まといじゃない。あなたが私の強さを引き出して」

 私は震える声で続けました。

「私を信じて。あんたの組み立てた戦術の中に、私を確実な力として組み込みなさいよ。……そうじゃないと、私、あんたのこと嫌いになっちゃうから」

 タクミは少しだけ驚いたように目を見開きました。そして、ふっと、ほんの一瞬だけ、以前のヘタレな彼が混じったような苦笑いを浮かべたのです。

「……計算外だな。リナに嫌われるのは、今は好かれているってことか」

 その言葉が冗談なのか、それとも本気なのかはわかりません。

 私は悟りました。シオンのように剣の道で並び立つことはできない。カレンのように圧倒的な魔力で守ることもできない。

 でも、私は「弓師」としての彼を誰よりも理解し、彼が「人」であることを忘れないように繋ぎ止める、唯一の存在になれるはず。

 守られるヒロインで終わるつもりはありません。

 私はエルフたちの美しさに嫉妬するのをやめ、自分の弓に魔力を込める練習を始めました。私の矢でタクミの心を射抜いてみせる。

 それが、勇者でも聖女でもない、私という一人の女の子の、この世界での戦い方なのだから。

◇ ◇ ◇

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