三〇〇年周期の真実――枯れゆく竹と龍魔王の封印
酒の肴には焼き鳥、そして締めは――まさかの「うな重」?
トレミエール王国の料理とは違い、妙に和風なラインナップに親近感が湧く。
聞けば、もともとエルフ文化は和風寄りだったらしいが、三〇〇年前に竹蔵、松彦、梅吉、お松、お梅の五人が「松竹梅」の縁起を担いで決戦前夜にうな重を食べたことがきっかけで、爆発的なブームになったのだという。今やエルフの国民食とまで言われているらしい。
……エルフって菜食主義じゃなかったっけ?
しかし、ゆっくりもしていられない。俺たちはあくまで経験値稼ぎに瘴気の森へ来ていた身だ。帰りが遅くなれば、セラム辺境伯が捜索隊を出し兼ねない。
おまけに、プラムの語る勇者たちの戦記は「ドカン!」「ギューン!」「バシィ!」と擬音ばかりで、全く参考にならなかった。彼女、指導者どころか解説者にも向かないタイプだ。
結局、彼女の話から判明したのは以下の事実だ。
竹蔵が使った竹は、今もアプリコット王国で「竹林の道」として厳重に管理されている。だが、最近になってその竹が一斉に花を咲かせ、次々と枯れ始めたのだという。
そして同時期、この最終防衛ラインである砦の竹林も枯れ始めた。竹が一斉に枯れるのは不吉な前兆だと、国民は不安に陥っているらしい。
この魔力を纏う竹がなくなれば、上級魔獣に対抗する手段を失うことになる。
そういえば、プラムたちエルフも、さらには魔獣たちまでもが竹の武器を使っていた。転移の際に生えた竹は、俺の両刃鉈でないと斬ることができなかったはず。三〇〇年前に竹蔵が創ったというそれは、一体……。
「ちょっと待って。この世界には、その竹を加工する技術があるのか?」
「そりゃあ、匠と呼ばれるドワーフの鍛冶師とかがおるんやろ?」
キヨシが茶々を入れるが、事実は小説より奇なりだ。
「確かにドワーフに巨匠はおる。じゃが、竹細工どころか、生えている竹を伐り出すことさえ無理じゃった。……だが、竹蔵が対のクナイの内、一つを置いていってくれたおかげで、ようやく竹を削り、竹槍や和弓を創ることができたのじゃ」
プラムが語るドワーフの言葉によれば、竹は汚染されたマナを吸収・浄化する性質を持つ。加工された竹は、吸収したマナを魔力へと変えて真価を発揮するが、伐採してしまえばマナの補給が断たれるため、その魔力は有限なのだという。
「だからこそ、竹は魔を討つ破邪の槍になった。各国に輸出してお金にもなっていたんじゃが、肝心の竹が枯れてしまっては、どうすればええんじゃ!」
プラムの言葉に、俺は一つの結論に達した。
生きた竹は「マナ浄化装置」。加工された竹は「魔力の塊」。
俺の世界でも、竹は数十年、あるいは百数十年周期で一斉に花を咲かせ、枯死する。それは不吉な迷信とされていたが、この世界では「真実」なのだ。
(竹槍を魔獣が持っていたのは、この輸出中に襲われて奪われたもので、俺の竹槍がミノタウロスを貫けなかったのは、伐採後、魔力の供給がなかったからか。勇者たちが魔力を纏わせていたのは、無意識にマナを補充して劣化を防いでいたんだ)
俺は思考を巡らせ、確信を口にした。
「……恐らく、竹蔵は竹を使って龍魔王を封印したんだ。竹を籠のように編んで閉じ込める『籠獄』。竹が封印した龍魔王の魔力を吸収し続ける限り、封印は解けない。……でも、その竹が寿命で枯れ、吸収機能が失われれば、封印は内側から破壊される」
「やっぱ不吉じゃん!」 「ヤバいね、それ……!」
結論として、三〇〇年周期の「竹の枯死」により、龍魔王の復活は目前に迫っている。
「じゃが、龍魔王を追い詰めたのは竹蔵の力だけではないぞ。あらゆる魔を絶つ聖剣『ゴッド・ファング』。そして瀕死者さえ蘇らせ魔を浄化する聖杖『ゴッデス・スタック』。四天龍魔に対抗するには、それら勇者の専用武具が不可欠じゃ」
「セラム領主も言ってた。それらは王都の宝物殿、禁足庫に保管されているって。……賢龍を見て決めたわ。私は絶対に、聖杖を手に入れる」
「シオンも、聖剣を望む」
勇者たちの目的が定まる中、俺もまた別の目的を見出していた。
「みんなはそうすればいい。……でも、俺はアプリコットの王都に行って、竹蔵が残したという『クナイ』を見たいんだ」
クナイは投擲武器だ。竹蔵が忍者として召喚されたのなら、何本も所持していたはず。俺の持つ鉈と、彼が残した遺物。そこに何らかの繋がりがある気がしてならない。




